【ヘタリア】日没
「すれ違うくらいの逢瀬は許されるある。なにせ世界は寂しがりが多いあるよ」
波間の風は強い。真っ黒な影の後ろにはまだ光がある。
またお出で。そう微笑むと、影はうっすらと笑みをつくり頷いて、消えた。同時に頬を射していた光も消えた。太陽は完全に没したようだ。
「王さん、捜したんですよ!」
「……久しぶりあるね、日本」
思い切り袖を引っ張られ、首を向けた先に日本を見つける。すっと口元と目を細める。久しく会っていなかった弟は髪もぼさぼさのまま息を切らしていた。
「外で国名を呼ばない! だいたい久しぶりじゃありませんよ。こんな時間に海にいて、何で呼んだのに返事しないんですか!」
「……何でもねぇあるよ」
「王さん、あのですね……」
はたと、日本が口を閉じる。目をやると、驚いたような、微かに緊張した表情をした。
「……何ある?」
「……貴方、中国さんですか?」
くすりとした。怪訝そうな顔をしているから、ちゃんと笑って、当たり前だと言う。日本は少しだけ眉を寄せた。
それでも日本が此方へと背を向けたから新しい庵を見ようと付いていく。眠りに入ろうとしている海を一瞥すれば、濃い闇に掠れながら微かにまだ明るかった。