人真似できない感情でありまして
これは、おれの 、 (かんじょうなんだよ、 ねぇ)
「へいわじま、かすか さん」
緊張のあまり裏返ってしまった声で、帝人は幽を呼んだ。俳優として名高い彼は、見慣れたブラウン管越しではなくそこに、具体的に言うのであれば帝人の位置から見て斜め右に存在している。
「そう。いつも兄貴がお世話になってます」
幽はまるで無表情に、帝人へぺこりと頭を下げた。余り感情を面に出さない奴なんだ、と静雄が前もって教えてくれていなければ、自分が何か粗相をしてしまったのかどうか不安に思うほどの無表情に、帝人はぎこちなく笑ってみせる。
「幽、ガン見してやんな。・・・困ってるだろうが、竜ヶ峰」
「兄貴はいつも見てるからいいんだろうけど、俺はそんなに会えないんだから、ちょっとくらい見つめてもいいと思うよ」
四六時中見つめられていたら神経を病むかもしれないけど。幽は淡々と静雄へ声を上げながらも、視線はあくまで帝人へ移ろわせずに固まらせている。帝人は恐縮しきった様子でぺこぺこと頭を下げ、静雄へちらりと視線を送った。静雄が煙草を吹かしながら帝人の視線に気付き、軽く眉をしかめながらぺちりと幽の額をこづく。羽島幽平に、と目を丸めた帝人とは対照的に、幽は額を触り ふう と溜め息を落とした。
「兄貴、痛い」
「そう言うならちょっとは痛そうな顔してみろ」
静雄はぷかりと煙を浮かしながらも、幽へ気心のしれた笑みを落とした。兄弟ならではの適度な距離感と、それを埋める暖かさに帝人は笑みを零す。
「どうかした?」
「あ、いえ、あの。僕は一人っ子だし 親戚にも年齢が近い人はいなかったから・・・何だか、羨ましくて」
素敵ですね、兄弟って。帝人は微笑ましそうに笑い、ぱちりと瞬きをして静雄と、それから幽を視界に収めた。そういうもんか、と静雄は呟き、幽はとくに言葉を零すこともないまま帝人を見続ける。
「・・・あ、ひらめいた。帝人くんも家族になればいい」
ぱん、といきなり手を合わせ、何かを思案していた様子だった幽が提案を述べた。静雄と帝人は幽へ視線を送りながら、同じタイミングで首を傾げる。
「俺とつきあったら 平和島帝人になるよ」
いい考えだと思うけど。幽は呟き、かちりとスイッチが入ったように柔和な微笑みを浮かべて帝人へ小首を傾げた。その笑みはどこかで見
たことがあるような気がして、帝人は目を細める。
(何だっけ、そうだ ドラマの、幽さんが演じていた )
「幽よぉ・・・何すっとぼけたこと言ってんだ・・・?」
少し苛立った様子で声を上げた静雄へ、幽は緩く無表情に戻り、ふう、と溜め息をついた。
「冗談だよ、兄貴 けど、そんなこと言うなら名前は書かなきゃね」
幽が呆れたように、それでも無表情で静雄へ声を上げる。静雄は思い当たることでもあるのか舌打ちを行い、帝人に視線を突き刺した。驚いて静雄を呼んだ帝人へと 幽は手をふって気にしないように告げる。静雄は吹かしていた煙草を強引に消し、ひとつ息を吐いて あれとこいつは同じじゃねぇよ と囁いた。
「へいわじま、かすか さん」
緊張のあまり裏返ってしまった声で、帝人は幽を呼んだ。俳優として名高い彼は、見慣れたブラウン管越しではなくそこに、具体的に言うのであれば帝人の位置から見て斜め右に存在している。
「そう。いつも兄貴がお世話になってます」
幽はまるで無表情に、帝人へぺこりと頭を下げた。余り感情を面に出さない奴なんだ、と静雄が前もって教えてくれていなければ、自分が何か粗相をしてしまったのかどうか不安に思うほどの無表情に、帝人はぎこちなく笑ってみせる。
「幽、ガン見してやんな。・・・困ってるだろうが、竜ヶ峰」
「兄貴はいつも見てるからいいんだろうけど、俺はそんなに会えないんだから、ちょっとくらい見つめてもいいと思うよ」
四六時中見つめられていたら神経を病むかもしれないけど。幽は淡々と静雄へ声を上げながらも、視線はあくまで帝人へ移ろわせずに固まらせている。帝人は恐縮しきった様子でぺこぺこと頭を下げ、静雄へちらりと視線を送った。静雄が煙草を吹かしながら帝人の視線に気付き、軽く眉をしかめながらぺちりと幽の額をこづく。羽島幽平に、と目を丸めた帝人とは対照的に、幽は額を触り ふう と溜め息を落とした。
「兄貴、痛い」
「そう言うならちょっとは痛そうな顔してみろ」
静雄はぷかりと煙を浮かしながらも、幽へ気心のしれた笑みを落とした。兄弟ならではの適度な距離感と、それを埋める暖かさに帝人は笑みを零す。
「どうかした?」
「あ、いえ、あの。僕は一人っ子だし 親戚にも年齢が近い人はいなかったから・・・何だか、羨ましくて」
素敵ですね、兄弟って。帝人は微笑ましそうに笑い、ぱちりと瞬きをして静雄と、それから幽を視界に収めた。そういうもんか、と静雄は呟き、幽はとくに言葉を零すこともないまま帝人を見続ける。
「・・・あ、ひらめいた。帝人くんも家族になればいい」
ぱん、といきなり手を合わせ、何かを思案していた様子だった幽が提案を述べた。静雄と帝人は幽へ視線を送りながら、同じタイミングで首を傾げる。
「俺とつきあったら 平和島帝人になるよ」
いい考えだと思うけど。幽は呟き、かちりとスイッチが入ったように柔和な微笑みを浮かべて帝人へ小首を傾げた。その笑みはどこかで見
たことがあるような気がして、帝人は目を細める。
(何だっけ、そうだ ドラマの、幽さんが演じていた )
「幽よぉ・・・何すっとぼけたこと言ってんだ・・・?」
少し苛立った様子で声を上げた静雄へ、幽は緩く無表情に戻り、ふう、と溜め息をついた。
「冗談だよ、兄貴 けど、そんなこと言うなら名前は書かなきゃね」
幽が呆れたように、それでも無表情で静雄へ声を上げる。静雄は思い当たることでもあるのか舌打ちを行い、帝人に視線を突き刺した。驚いて静雄を呼んだ帝人へと 幽は手をふって気にしないように告げる。静雄は吹かしていた煙草を強引に消し、ひとつ息を吐いて あれとこいつは同じじゃねぇよ と囁いた。
作品名:人真似できない感情でありまして 作家名:宮崎千尋