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ティル・ナギ

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自覚

 

好きになった人がたまたま同性だった。

たまに聞く話だ。
そういう事もあるだろうと自分的に寛大に思ったりもしたが・・・。
まさか自分がまんま該当する羽目になるとは、ティルは思ってもみなかった。

「はーあ。」
「ちょっと、いきなりここに来て、朝っぱらから鬱陶しいんだけど。」

石板の番人がジロッと見下ろしながら言った。

「ルックん、いきなり冷たいね?こっちはそれこそ早朝から野を越え山を越えやってきたばかりなのに?」
「・・・あんた呼ばれもしないのに、何しに来たわけ?」

ルックは、その横で体育座りをして顔をうずめていたティルを睨みつけながら、突き放すように言った。

「えー?ルックんに会いに?」
「・・・・・。・・・ルックんは止めろ・・・。それと、何で疑問系なんだよ?」
「ははっ、いーじゃん。てゆーか朝から賑やかだねぇ、この城は。」
「まあ、軍主があれだからね。」
「ああ・・・。ナギくんって、人気者だよね?」
「確かにね・・・。まあ、邪な輩も多いけど。」

フン、と鼻でバカにしたようにルックが言った。

邪・・・?

「えーと、女性が?」
「まあ女もそうだけど、男共のが多いかもね。元々軍なんだし、割合からしても男が多いからさあ。」

ルックはさらっと言ってのけた。

男のが多い・・・。
自分だけではなく・・・?
え?そうなの?

「・・・何間抜けな顔してんのさ?」
「え?ああ、いや、だって。えーと、ナギくんって男、だよね?」
「・・・それ、本人の前で言ってみなよ。いくらティルだろうと半殺しだね。あの子、女顔な事、気にしてるからね。」
「えぇ?なんで?かわいいんだからいいじゃない、ねえ?」
「・・・・・。まさかあんたも・・・」
「―ルックは?お前はナギくんの事、どう思っているの?」
「ふん、僕が誰かをどうこう思うわけ、ないよ。まあナギは確かによくやってるし、僕としてはムカつく事に認めているけどね?」
「−そう。」

ティルはニッコリ笑った。

ただその笑顔を見たルックはさっと目を逸らしたが。
ティルの事知らない者がみれば見惚れていたであろう笑顔も、ルックにとってはただただ恐ろしいにつきる。

「ふーん、ナギちゃんはモテるんだね・・・。男共からもね・・・?確かにあんだけかわいくて、華奢なのにすごく健気でしっかりしていて、それでいて凄く強い子だもんね?・・・ルックん?バカな虫がつかない様しっかり見張っとかなきゃ、だね?」
「・・・何それ?命令・・・?」
「えー?やだな、僕がルックんにそんな事する訳ないでしょ?ただホラ、ルックんも心配でしょ?」
「・・・ルックん言うな・・・。てゆーか何?ナギ”ちゃん”って?ティル、あんた・・・」

まあ本人目の前にしては呼べないが。
普段ティルがたまに内心で呼んでいる呼び名である。

天下の英雄も、恋愛に対しては、ヘタレだったのか・・・?

いやいや、ティルは自分で突っ込んだ。
相手男だからね、及び腰にもなるでしょ?
うんうん。

「まあ、僕の目の届く範囲であの子にヘンな事すんのを許す気は元々ないよ。・・・あんたも含めて・・・。」

ルックがため息をついた後、そう言った。

「ん?ルックん?何かヘンな言葉がボソッと最後に聞こえたけど?気のせいかなー?」

ティルはニッコリ笑って右手を掲げた。

「気にしすぎじゃない?あんたとうとうボケたとか?あ、違うな、色ボケか。」

そう言ってルックも右手を上げる。

「裁き」「切り裂き」

どうやらティル達の会話は別に聞こえないものの、やりとりの様子に黒いものを感じた人々は早々に避難していたらしい。
怪我人は出ず。
但しホールが大変な事になってはいたが。

「ちょ、何だよここっ!?爆弾投下でもあった!?」

何らかの用事でホールに降りてきたナギは顔を青くして言った。

ティルにしてみれば、そんな顔でもかわいらしく、守ってあげたくなるようだった。
ニッコリ微笑んで言った。

「えっとね、紋章同士の暴発?怖いよね?どうしてかなぁ。真の紋章同士の相性が悪かったのかな?僕とナギくんの紋章同士はバナーのコウ君の時みたいに相性バッチリなのにね?」
「ちょっ」

ティルの台詞を聞いてルックが何だか不満気に反論しようとした。

「ふーん、そうなんだ?何でだろ?ルックどっか悪いの?もしかして疲れてる?」

その前にナギが言った。

簡単に自分の言う事信じて、かわいいなー、でもルックだけ心配?
ティルは少し釈然としなかった。
ルックはルックで何だか微妙な顔をしていた。

「マクドールさんも無事で良かったです。あれ?でも俺迎えに行ってませんよね?今日はどうしたんすかー?」
「え?ああ、昔の知り合いも多いみたいだし、ちょっと挨拶がてらね・・・?」

ニッコリ微笑んで言った。
横でまたもやルックは青い顔をしつつあらぬ方向を見ている。

ティルはほんとのところ、男のくせに男を好きになってしまった自分に凹んで、何気にルックのところに来たのと、凹みつつもあわよくばナギに会えれば、と思ってやって来ていた。

しかしルックの話を聞いて、男好きになるって、別にアリじゃん?と開き直った。
まわりにも、ある意味挨拶しておいてもいいかもね・・・などと不遜にも考えていた。

「・・・そう、ですか。」

ティルの笑顔を見たナギはなぜか納得いかなそうな様子を見せたような気がした。

「・・・何ですかな、これは?」

不意に後ろから威圧感のある声が聞こえた。

「ゲッ、シュウだっ。」

ナギはその場から逃げようとした。

「ナギ殿。お待ちなさい。逃げようったってそうはいきませんよ?それと、ここの有様はどういう事です?」

シュウと呼ばれたスラッと長身で長めの黒髪を束ねた美男子は、戦闘員顔負けの素早さで逃げようとしたナギを捕まえてそう言った。

ティルはそれをみて思っていた。
捕まえるにしたって抱える事、ないんじゃない?
いくら華奢で抱えやすいからっていっても普通に腕とか持てばいい話だ。

「ルック?シュウって…確か軍師、だっけ…?」

ティルはボソッと言った。
もがいているナギや離すまいとしているシュウには聞こえないだろう。
ルックはため息をついて言った。

「そう。…ああ、シュウはナギの事は軍主としか見ていないよ。勿論ナギの為には命もかけるつもりみたいだけど?」
「?そう。いい軍師だね?良かった、いい軍師で。新しいのを探さないといけなくなるところだったし。ルックんの答えによってはね?」
「・・・・・。」

ナギは相変わらずジタバタともがいている。
ティルの目にはそんな姿すらかわいく映る。

「はーなーせぇー。」
「そうはいきません。逃がしませんよ。しっかり軍主の務めを果たして下さい。」

・・・務め?
てゆーかここの有様に関してはすでに早くもスルー?

「えーと、どうしたの?ナギくん?」

ティルは気になったので聞いてみた。
ナギは手足をバタバタしながらティルを見て言った。

「マクドールさん、助けて。」

ちょ、何その子犬のような目?ヤバすぎる・・・ティルは外見では分からないが、脳内でくらくらしていた。
作品名:ティル・ナギ 作家名:かなみ