ティル・ナギ
「−ティル殿。ごまかされないよう願います。今日こそは軍事その他諸々の講義、しっかり受けていただかねばなりませんので。」
シュウは必死にナギを抱えつつ口調は至って冷静にそう言った。
「だってー。いくらじっとすんの苦手でもさぁ、仕事なら印鑑押しでもチェックでもやるけどさー。なんで今更勉強しなきゃなんないんだよー。」
「そういうものです。さあ、行きましょうか。」
「うわーん、マクドールさーん、ルックー。」
ティルとルックは思わず顔を合わせた。
ルックはまた微妙な顔をしている。
「・・・えーと、こればっかりは仕方ない、かな?てゆーかそんな勉強、僕はマッシュとした覚えないけど。」
「あんたは元々軍人の息子として教育も受けてきてるだろ?ナギはさ、少しはゲンカクとやらに教わっているらしいけど、学校も家庭教師もなしで育ってきたらしいから。」
「ふーん、そう。あ、ねえシュウ!!じゃね、ルックん、また。」
エレベータに乗りかかろうとしたシュウを呼びながらティルはそっちへ向かった。
ナギは期待に満ちたような顔で、シュウは邪魔するなと言わんばかりの顔で、それぞれティルを見た。
ルックはもう来なくていいよと言わんばかりの顔で見送った。
「・・・何ですかな。」
「えーと、ま、とりあえずエレベータ待ってるし、乗ろうよ?」
そう言ってティルも一緒に乗り込んだ。
ナギは少しがっかりした顔をしている。
「でね?相談なんだけど、あ、何階?5階ね、ハイハイ。シュウも忙しいでしょ?でね、僕もナギくんに協力するとは言ったけど、特に何する訳でもないじゃない?まさか直接戦争に参加する訳にもいかないし。ちょこちょこ戦う位?だからさ、家庭教師、しようかなって思ったんだけど?」
「・・・確かにティル殿ならその辺の軍師以上の才や腕はお持ちでしょうが・・・しかし・・・こう、何か人としてこう・・・いや、ゴホゴホッ」
つい洩らしてしまったのか、ワザとらしい咳をして顔を青くしてシュウは続けた。
「あー、何と言いますか、自分で理解しているのと、人に教えるのとではやはり違いますし・・・」
「大丈夫だよ?それに普段の僕はフラフラしてるかもしれないけど、ナギくんの為なら真面目に教えるよ?勉強の時間くらいさ。」
ティルは失礼な事を言いかけていたシュウに対して間違っても黒いものなんか出さぬよう注意を払って、至極真面目に言った。
「・・・そうですか・・・。ナギ殿、いかがされますかな?」
シュウは真面目に取り合ってくれた様子で、主であるナギに聞いた。
「・・・どっちにしても勉強する事に変わりないじゃん・・・。・・・でも堅苦しいシュウよりは、マクドールさんのがまだマシか・・・?」
抱えられたままブツブツ呟いている。
「どちらにしても勉強からは逃げられませんよ。」
「くっ・・・。分かったよ。じゃあマクドールさんに教えてもらう。但し前みたいに5時間とか、イヤだかんね?そうだな、2時間。週1回の2時間でのむよ。」
「5時間はあなたが散々逃げたりしてさぼって溜まっていたからでしょう?週3回。」
「逃げたくもなるんだよ。週2回。」
「ふう、分かりました。確かにあなたも忙しい身ですからね。それでいきましょう。ティル殿?それでよろしいでしょうか?」
何だか商談成立風。
さすが元交易商人と交易経験者。
「僕は問題ないよ?じゃあ早速やろうか?」
「そうですね。とりあえず降りましょうか、着いたので。では勉強はナギ殿の部屋で。私の部屋は書類やら何やらありますのでね。」
ティルは内心小躍りしたい気持ちだった。わぉ、
ナギちゃんの部屋で個人レッスン!?
−この場合まんまの意味ではあるが・・・。
「で、取り扱っていただきたい内容ですが・・・」
「てゆーか、俺の部屋ん中なんだし、いーかげん、おーろーせー。」
…バタバタしてるナギちゃん、かわいい…。
ティルはニコニコとその様子を見ていた。