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ティル・ナギ

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怪我に抱っこ



「遠慮する!!」
「遠慮しないのっ。」
「やだっ。」
「やだじゃない。」
「大丈夫だってば!!」
「松葉づえ使わなきゃいけない状態の君が大丈夫なわけ、ないでしょ?」

マクドール家。

いつものごとくティルを迎えに来ている途中、敵に出会い戦闘になった。
その時仲間の一人が狙われたのをかばいつつ敵を倒した際に、ナギはそのまま崖下にまっさかさまに落ちてしまった。
皆が慌てて救助に向かおうとしたので、ルックはそれを押しとどめて先に向かうよう言い、テレポートにてナギのところまで行き、そのまま、またテレポートでマクドール家までやってきたという訳であった。
その時は気絶していたものの、幸い大した事はなく、ただし左足をねんざしていたナギは昨日からこのマクドール家にお世話になっていた。

そして今、診察に行くために2階から下に降りようとしているところだった。
松葉づえで階段を下りるのは危ないから、とティルがナギを抱っこして下まで運ぶ、と言ったのを、ナギは断固拒否し続けていた。

「うるさいなーっ、大丈夫だったら大丈夫なんだよー。もう余計なお節介なんだから、ほっとけよ。」

たまに頑固な意地っ張りになるナギを泣かせてでも言う事を聞かせる、という手もあるが・・・。
ティルはため息をついてから、作戦を変える事にした。
憂いを帯びた声音で静かに呟く。

「そう、か・・・。僕がどんなに心配しても・・・余計なお節介にしかならないんだ・・・。」
「えっ!?あ、いや、その・・・それは・・・」
「・・・君にとって、僕は松葉づえ以下って事なんだ・・・。」
「えっ・・・そ、そんな・・・」

ナギから視線をそらして、ティルは少し俯いて軽く瞳を瞑った。
そのせつない表情の、そしてとても端正な顔に、ナギは真っ赤になりながら慌てだした。

「・・・悪かった・・・、ナギ。迷惑なら、もう・・・」
「ティルっ、待って、待ってよっ。」

ナギは松葉づえを放り投げるようにして離し、飛びつくようにティルの服をつかんだ。

「ご、ごめん、ティルっ。心配してくれてるのに勝手な事ばっか言って。」

すがりつくような瞳でティルを見上げてくるナギに、内心ティルはしめしめ、と思いつつ、とどめとばかりに辛そうに眉根を寄せて切なそうな表情でナギをまっすぐ見つめた。

「・・・いや、いいんだ・・・。ここまで嫌だと知らなかった僕が悪いね・・・。」
「っいっ、嫌じゃない!!嫌じゃないよっ、ティル!!」
「いいよ、気にしなくていい・・・。」
「違う!!違うからっ!!本当に嫌じゃないからぁっ!!」

ティルの服をギュウと引っ張って、必死の様子で言い張るナギ。そんなナギの頭をティルは少し微笑みながらそっと撫でた。
ナギはそんなティルの様子に少し安心したのか、まっすぐにティルを見上げて言った。

「嫌なのは心配される事なんだよ、ティルに心配されるのは嫌で・・・」
「・・・そう?迷惑とかじゃなくて?」
「そんなわけない!!ど、どうしたらティルに安心してもらえるの!?」
「・・・それは・・・」

まんまと策略にはまったナギに、してやったりと笑いたいのをこらえつつ、ティルは過去に多くの仲間を陥落させたスマイルと口説きで最後の仕上げに突入した。

「そう、だ、ね。じゃあね、今だけは・・・。」

ありえないほどの端正な顔に、誰もが見とれる甘い笑みを浮かべて、なめらかな低い声音で囁いた。

「大人しく、僕に甘えてくれないか・・・?」

まっすぐに瞳をのぞきこまれて、トドメの一言をくらったナギは、無言のままティルに見とれていた。

「いい・・・?」

と、もう一度ささやかれ、我に返ったナギは真っ赤になって何度も首を縦に振った。

「それじゃあ・・・」

片足で立ったまま服をつかんでいたナギの手を優しくはずして、ティルはそのまま自分の首にまわさせる。片腕をナギの膝の裏から回すと、次の瞬間、ナギの身体がふわっと軽く浮き上がった。

「って!!!!」

よりによって!?抱っこは抱っこでも、お姫様抱っこですか!?
まるでこの世の終わりのような表情でいるナギに、ティルは言った。

「・・・ずいぶん不服そうな顔だね?」
「だって・・・不覚だもん・・・俺、男なのにお姫様抱っこって・・・」
「まあ、これも自業自得だね?これからはもっと自分の身体を大切にする事。人をかばってて自分が怪我してたんじゃ意味ないからね?」
「わ、分かったよ、分かったから早く降りてよっ。」

ティルはニッコリとうなずいたが、わざとゆっくりと階段を降りる。
こんな機会はめったにないんだから、と。

「ちょ、ティル、いい加減おろせーっ。」

1階についてもまだ抱えられたままのナギが言った。
はいはい、とティルはゆっくりとそのまま歩いてリビングのソファーまで移動し、そこにナギを座らせた。

「じゃあ松葉づえとってくるから、大人しく待ってて。」

2階に上がって松葉づえをつかんでいるとそこにルックが現れた。

「よくやるね。」
「何、覗き見?お前こそ、よくやるよ。」
「ていうかティル。心配してのその行動、もっと普段でも役立てたらヘタレとか言われないと思うけど?」
「うるさいなー、ナギに対してはそうなっちゃうんだよ。」

もともと本来、何人もの仲間を、その顔と行動と口調で口説き落としている英雄である。
ルックもまさかティルがナギに対してそこまでヘタレとは思いもよらなかったくらいであった。

「じゃあね、色々、頑張って?」

そう言うと、風使いはまたその場から消えていった。

「・・・色々は、ムリ・・・」

ヘタレティルはそう一人つぶやいていたとか。


作品名:ティル・ナギ 作家名:かなみ