Letter
それは、一通の手紙から始まる物語。
(未来は一つじゃないから、安心して。)
前略
お元気ですか。こっちは大分春の陽気を肌で感じられるようになりました。
そっちはどうかな…。
体調など、崩されてはいませんか。少しだけ心配しています。
簡単なことに頭を悩ませてなどは、いませんか。
お前はいつも簡単な物を難しく考える癖があるから、知恵熱とか出しそうです。
(オレなら絶対出す。寧ろ難しいことは考えないかな)
そうだ、この前クロームに会ったんだけどさ、彼女、凄くお母さんらしかったよ。
山本と二人で幸せそうだった。
まだ赤ちゃんを抱っこしてたなぁ。
凄く可愛かったよ。今度遊びに行ってみたらどうかな?
気まずくて行けなかったら、オレも一緒に行ってあげるよ。
…また、みんなで楽しく遊べれば良いんだけど。
やっぱりみんなには皆の時間があって、一介の友達じゃあ纏めるなんて無理なんだよな。
…オレは、後悔なんてしてないよ。
お前とイタリアに行くことを選ばずに、今の生活を送っていることを。
そりゃみんなとずっと一緒にいたいって気持ちはあった。
けどね、オレなんかがみんなの時間を縛っちゃいけないんだ。
だから、ボンゴレを明け渡したし、お前ともさよならをした。
…でもさ、さよならしたらもう二度と会えないって法律はないし、法則もないだろう?
結局はオレたち人間が勝手に生んだ、一種の自己犠牲だったんだ。
お前のその感情が邪魔をして前に進めないっていうのなら、オレがその手助けをしてあげる。
こんなこと言ったら、お前の愛銃が唸るかな…。
でも、意外に本気だってことは止めておいて。
なあリボーン。お前はいま、幸せ?
草々
平日の穏やかな昼下がり。
遅めの昼休みを利用して綱吉は会社から足を踏み出して歩道橋を目指した。
その途中、やはり腹は減るもので、コンビニでパンとおにぎりを二つずつ、それから烏龍茶を購入してまた歩き出す。
別に歩道橋に何かがある訳ではない。
一般の歩道橋と同じで車が盛んに通って、時たま歩道橋に上がるのを面倒に思った若者とか中年が道路をキョロキョロして駆け抜けて横断するだけ。
何人かはそれを試みたけれど、勇気が出ずにスゴスゴ歩道橋を選んだりもしていた。
それがなんだか面白くて、綱吉は昼休みになると毎日と言って良いほど足を運ぶ。
昼食はやはりコンビニ弁当だったり、パンだったりする。
たまには手作りの弁当が食べたいな等と思っても作ろうとはしない。
面倒だから。
そんな毎日を繰り返して、綱吉は10年前のマフィア騒動を時々思い出して、
一人笑い、そして一人で悲しくなった。
「おいバカツナ!」
「ふえぁあ!?」
突然の呼びかけ。
それはとても懐かしい響きを伴って、綱吉の耳に、頭に届く。
驚いて振り返れば、そこには幼い漆黒の少年の姿。
「なぁんだ、リボーンか…。
…って、リボーン!?」
知っている姿に安堵のため息を溢したあと、いま日本にいるはずがない人間が存在していることに今度は驚く。
「うるせーぞ、ダメツナ」
ゴン、と鈍い音を奏でた頭はジンジンと痛み、彼がここにいることを証明した。
「り、リボーン…!!」
嬉し涙か、痛みによる涙か。
けれど確かに綱吉の瞳には漆黒の少年が映っていて、涙も滲んでいる。
「10年ぶりだな」
「うん…っうん…っ!
逢いにきてくれてありがとう…!」
ニヒルな笑みも健在で、上から目線な言葉遣いも相変わらずで。
「オメーの手紙に逢いたいってメッセージが残ってたんでな」
わざわざ来てやったんだぞ感謝しろ。
「あれ!?オレ逢いたいなんて言ったっけ!?
いや、でも確かに会いたかったけども!」
「なんで俺がオメーに会うのに躊躇わなきゃなんねーんだ?
躊躇うべきはテメーだツナ!」
「ぎゃー!リボーンさん、ここ日本!銃刀法違反で捕まるよ!」
「まだ11歳のガキだ、オモチャの拳銃と間違えっだろ」
なんて都合の良い子どもなんだ!
そんな事を思ったとしても、今の綱吉には必要なかった。
あの頃と…自分が彼との渡伊を断った頃となんら変わらない物言いに、酷く安堵したのだ。
「そーいや、クロームの子どもを見に行くって言ってたっけ」
「おお、そうだぞ!どうせ行くなら全員集めてからにするか」
「そうだね!…って言っても、みんな時間合うかなあ…」
リボーンの言葉に綱吉はどうだろうと頭を悩ますと、リボーンは口の端を吊り上げて笑う。
「テメーが呼びかけりゃ全員集まんだろ?
なんてったってボスなんだからよ」
「ははっ、もうオレはみんなのボスじゃないよ」
「どうだか」
なんだよもー。など言いながらも携帯を取り出して、先ずはアドレス帳の一番始めにある獄寺から、と電話をかける。
ワンコール、ツーコール、スリーコールで彼は電話に出た。
『はいもしもし』
「あ、獄寺くん?」
『10代目!あ…っ沢田さん!どうかしましたか?』
「あは、獄寺くんもう敬語は良いのに。
そうそう、今度の日曜日丸々空いてるかな?」
『今度の…ですか。…あー…。
いえ!なんとしてでも空けます!こじあけます!!』
「え、無理なら良いよ!!」
『大丈夫っす!全然余裕っすから!』
「そ、そうなの?じゃあ空けてて下さい」
『わかりました10代目!』
結局獄寺の10代目呼びは直らずに、そのまま電話を切った。
すると、楽しそうに笑ってるリボーンと目が合う。
だから言っただろ?とでも言わんばかりの笑みだ。
なんだか悔しくなって今度は骸に電話をかける。
了平にかけても彼は今仕事の真っ最中だろうし、ランボはイタリアに居て呼び出すことは不可能。
雲雀に至っては群れるのを嫌う。
そんな群れるところに誘ってみろ。命が幾つあっても足りない。
(10年前から変わらずに、だが。)
「…あ、骸?今平気?」
『おやボンゴレ。大丈夫ですが、どうかしましたか?』
「だーからー!もうオレはボンゴレじゃないって!」
『しかし僕らのボスはいつまで経っても君一人ですよ、沢田綱吉』
「…サラッと恥ずかしいこと言うのは健在なんだな」
『まあ、君ほど痛くはありませんが。
で、用件はなんです?』
「おっまえなー…。今度の日曜、丸々空いてるか?」
『今度の日曜日…ですか。ちょっと待って下さい。今スケジュールを…。
…あぁ、大丈夫ですよ、今度の日曜日ですね。
まさか、綱吉くんからデートのお誘いが来るなんて思っても見ませんでした!』
「バッカお前!ちげーよ!
今度の日曜にみんなでクロームの赤ちゃん見に行こうって話!」
『ほう、僕の可愛いクロームの…あの野球少年に奪われた純潔…っ』
「ああああああ!分かった分かった!そこらへんの事情はまた今度聞くからさ!
取り敢えず日曜日な!」
『絶対ですよ綱吉くん!
ではまた後日に』
電話を無事切れた綱吉は、危なかった。と思った。
何故なら骸にその話をさせると一時間コースはざらじゃない。
「だから言ったろ?」
骸との電話も、獄寺との会話も全部聞こえていたらしい少年は楽しげに笑う。
「お前はみんなから愛されてんだよ」
本当は、一番躊躇ってたのはお前なんじゃないか?ツナ。
(未来は一つじゃないから、安心して。)
前略
お元気ですか。こっちは大分春の陽気を肌で感じられるようになりました。
そっちはどうかな…。
体調など、崩されてはいませんか。少しだけ心配しています。
簡単なことに頭を悩ませてなどは、いませんか。
お前はいつも簡単な物を難しく考える癖があるから、知恵熱とか出しそうです。
(オレなら絶対出す。寧ろ難しいことは考えないかな)
そうだ、この前クロームに会ったんだけどさ、彼女、凄くお母さんらしかったよ。
山本と二人で幸せそうだった。
まだ赤ちゃんを抱っこしてたなぁ。
凄く可愛かったよ。今度遊びに行ってみたらどうかな?
気まずくて行けなかったら、オレも一緒に行ってあげるよ。
…また、みんなで楽しく遊べれば良いんだけど。
やっぱりみんなには皆の時間があって、一介の友達じゃあ纏めるなんて無理なんだよな。
…オレは、後悔なんてしてないよ。
お前とイタリアに行くことを選ばずに、今の生活を送っていることを。
そりゃみんなとずっと一緒にいたいって気持ちはあった。
けどね、オレなんかがみんなの時間を縛っちゃいけないんだ。
だから、ボンゴレを明け渡したし、お前ともさよならをした。
…でもさ、さよならしたらもう二度と会えないって法律はないし、法則もないだろう?
結局はオレたち人間が勝手に生んだ、一種の自己犠牲だったんだ。
お前のその感情が邪魔をして前に進めないっていうのなら、オレがその手助けをしてあげる。
こんなこと言ったら、お前の愛銃が唸るかな…。
でも、意外に本気だってことは止めておいて。
なあリボーン。お前はいま、幸せ?
草々
平日の穏やかな昼下がり。
遅めの昼休みを利用して綱吉は会社から足を踏み出して歩道橋を目指した。
その途中、やはり腹は減るもので、コンビニでパンとおにぎりを二つずつ、それから烏龍茶を購入してまた歩き出す。
別に歩道橋に何かがある訳ではない。
一般の歩道橋と同じで車が盛んに通って、時たま歩道橋に上がるのを面倒に思った若者とか中年が道路をキョロキョロして駆け抜けて横断するだけ。
何人かはそれを試みたけれど、勇気が出ずにスゴスゴ歩道橋を選んだりもしていた。
それがなんだか面白くて、綱吉は昼休みになると毎日と言って良いほど足を運ぶ。
昼食はやはりコンビニ弁当だったり、パンだったりする。
たまには手作りの弁当が食べたいな等と思っても作ろうとはしない。
面倒だから。
そんな毎日を繰り返して、綱吉は10年前のマフィア騒動を時々思い出して、
一人笑い、そして一人で悲しくなった。
「おいバカツナ!」
「ふえぁあ!?」
突然の呼びかけ。
それはとても懐かしい響きを伴って、綱吉の耳に、頭に届く。
驚いて振り返れば、そこには幼い漆黒の少年の姿。
「なぁんだ、リボーンか…。
…って、リボーン!?」
知っている姿に安堵のため息を溢したあと、いま日本にいるはずがない人間が存在していることに今度は驚く。
「うるせーぞ、ダメツナ」
ゴン、と鈍い音を奏でた頭はジンジンと痛み、彼がここにいることを証明した。
「り、リボーン…!!」
嬉し涙か、痛みによる涙か。
けれど確かに綱吉の瞳には漆黒の少年が映っていて、涙も滲んでいる。
「10年ぶりだな」
「うん…っうん…っ!
逢いにきてくれてありがとう…!」
ニヒルな笑みも健在で、上から目線な言葉遣いも相変わらずで。
「オメーの手紙に逢いたいってメッセージが残ってたんでな」
わざわざ来てやったんだぞ感謝しろ。
「あれ!?オレ逢いたいなんて言ったっけ!?
いや、でも確かに会いたかったけども!」
「なんで俺がオメーに会うのに躊躇わなきゃなんねーんだ?
躊躇うべきはテメーだツナ!」
「ぎゃー!リボーンさん、ここ日本!銃刀法違反で捕まるよ!」
「まだ11歳のガキだ、オモチャの拳銃と間違えっだろ」
なんて都合の良い子どもなんだ!
そんな事を思ったとしても、今の綱吉には必要なかった。
あの頃と…自分が彼との渡伊を断った頃となんら変わらない物言いに、酷く安堵したのだ。
「そーいや、クロームの子どもを見に行くって言ってたっけ」
「おお、そうだぞ!どうせ行くなら全員集めてからにするか」
「そうだね!…って言っても、みんな時間合うかなあ…」
リボーンの言葉に綱吉はどうだろうと頭を悩ますと、リボーンは口の端を吊り上げて笑う。
「テメーが呼びかけりゃ全員集まんだろ?
なんてったってボスなんだからよ」
「ははっ、もうオレはみんなのボスじゃないよ」
「どうだか」
なんだよもー。など言いながらも携帯を取り出して、先ずはアドレス帳の一番始めにある獄寺から、と電話をかける。
ワンコール、ツーコール、スリーコールで彼は電話に出た。
『はいもしもし』
「あ、獄寺くん?」
『10代目!あ…っ沢田さん!どうかしましたか?』
「あは、獄寺くんもう敬語は良いのに。
そうそう、今度の日曜日丸々空いてるかな?」
『今度の…ですか。…あー…。
いえ!なんとしてでも空けます!こじあけます!!』
「え、無理なら良いよ!!」
『大丈夫っす!全然余裕っすから!』
「そ、そうなの?じゃあ空けてて下さい」
『わかりました10代目!』
結局獄寺の10代目呼びは直らずに、そのまま電話を切った。
すると、楽しそうに笑ってるリボーンと目が合う。
だから言っただろ?とでも言わんばかりの笑みだ。
なんだか悔しくなって今度は骸に電話をかける。
了平にかけても彼は今仕事の真っ最中だろうし、ランボはイタリアに居て呼び出すことは不可能。
雲雀に至っては群れるのを嫌う。
そんな群れるところに誘ってみろ。命が幾つあっても足りない。
(10年前から変わらずに、だが。)
「…あ、骸?今平気?」
『おやボンゴレ。大丈夫ですが、どうかしましたか?』
「だーからー!もうオレはボンゴレじゃないって!」
『しかし僕らのボスはいつまで経っても君一人ですよ、沢田綱吉』
「…サラッと恥ずかしいこと言うのは健在なんだな」
『まあ、君ほど痛くはありませんが。
で、用件はなんです?』
「おっまえなー…。今度の日曜、丸々空いてるか?」
『今度の日曜日…ですか。ちょっと待って下さい。今スケジュールを…。
…あぁ、大丈夫ですよ、今度の日曜日ですね。
まさか、綱吉くんからデートのお誘いが来るなんて思っても見ませんでした!』
「バッカお前!ちげーよ!
今度の日曜にみんなでクロームの赤ちゃん見に行こうって話!」
『ほう、僕の可愛いクロームの…あの野球少年に奪われた純潔…っ』
「ああああああ!分かった分かった!そこらへんの事情はまた今度聞くからさ!
取り敢えず日曜日な!」
『絶対ですよ綱吉くん!
ではまた後日に』
電話を無事切れた綱吉は、危なかった。と思った。
何故なら骸にその話をさせると一時間コースはざらじゃない。
「だから言ったろ?」
骸との電話も、獄寺との会話も全部聞こえていたらしい少年は楽しげに笑う。
「お前はみんなから愛されてんだよ」
本当は、一番躊躇ってたのはお前なんじゃないか?ツナ。