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遠距離物語

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軽快な音楽が流れ、机に向って勉強していた俺は近くにある携帯を手に取った。

『 跡部景吾   090 - ○▼□□ - △▼□○ 』

映し出された文字は遠く離れた日本にいる友人のもの。
声を聞いて話すのは1ヶ月ぶりだろうか……俺は通話ボタンを押した。

「もしもし?」
『よぉ』

相変わらずのエラそうな声に思わず笑ってしまう。こいつは声だけを聞いてもしっかりと跡部景吾だ。

『笑ってんじゃねぇよ』
「ごめん。久しぶりだな、景吾」
『ああ。元気にやってるか?』
「おかげ様で」

日本を離れてから3ヶ月が過ぎた。こちらの学校や生活スタイルにも慣れ、親しい友人も出来始めると、考えてみれば景吾たちと過ごした日々より長くこちらにいるのだと気づく。あの濃厚だった日々は本当に短い時間だったのだ。
近況報告や周りであったくだらない話などをすればすぐに1時間が過ぎてしまう。景吾から聞く皆の近況は賑やかで、聞いているだけで俺も楽しい気分になる。
景吾は氷帝テニス部部長と生徒会長を引退し、今は勉強に精を出している毎日らしい。とは言っても、もともと勉強ができるヤツだし、高等部に上がるだけなのでそう大変でもないみたいだが。ただ、向日や芥川の勉強を見るのが大変だと景吾は心底疲れた声で言う。そういえば、夏休みのときもそんな状況だったことを思い出して、俺はケラケラと笑ってしまった。

「……いいな」
『あーん?』
「楽しそうでいいなって思っただけだよ」
『なんだ? ホームシックか?』

クツクツと笑いが入った景吾の声に、ああそうかもと納得してしまう。こちらの生活がつまらないわけじゃない。慣れないアメリカの生活に困惑したり、驚いたりしながらも、日本では味わえない刺激を楽しんでいると思う。
けど、今は少しだけ淋しいんだ。
もし俺が日本にいたら、景吾と一緒にテニスをしたり、たまに氷帝のメンバーたちと一緒に勉強を見てもらったり、息抜きにどこかへ遊びに行ったり、そんなことが出来たのかなと思ったらなんで俺は日本にいないんだろうと哀しくなった。

『おい、大丈夫か?』
「え?」
『急に黙るな』
「ごめん……」
『…………』

沈黙が続いてしまう。
いやな終わり方だけど、今日はもう切ってしまおう。俺が言おうと口を開いた瞬間、コンマ差で景吾に言葉を取られた。

『言いたいことがあるならきちんと言え。電話じゃ表情は読み取れねぇんだ、言葉を惜しむんじゃねぇよ』
「惜しんでるわけじゃない。ただ、言っても仕方が無いから言わないだけだ」
『それを決めるのはお前じゃねぇだろ』
「俺だよ」
『違うな、俺様だ』

いつもだったら景吾らしいと思うだけの俺様理論にイラっとした。日本にいたら、なんて言ってどうなるっていうんだ。どうにもなりはしない。

『言えよ』
「言わない」
『お前……』
「ごめん、もう切る。明日、早いし」
『武蔵!』
「悪い、じゃあ……」

景吾が何かを言おうとしていたのはわかっていた。でも、俺は何も聞きたくなくて、ボタンを押して電源ごと通話を切った。
ボスンと音を立ててベッドに倒れこむ。
なんだかひどく疲れてしまった。途中までは楽しいって思ったのに、景吾からの久しぶりの電話に嬉しいと思ったのに。

「俺、すっごい嫌なヤツだったよな……」

言葉を飲み込んで、あいつからの連絡手段を絶って、これじゃあアメリカに行くと決まったときと同じだ。また景吾を怒らせてしまった。喧嘩したことを後悔し始めたけれど、やっぱり携帯の電源を付けることは出来なかった。
明日、携帯をつけて、もし景吾から連絡がきていたら……そのときはきちんと俺から連絡しよう。景吾の言うとおりホームシックになってたみたいだって、でも大丈夫だからってそう言おう。そうしたら、きっとバカじゃないかって呆れられながらも許してくれるから。

俺は泣きそうに気分を拭うためにベッド中で丸くなった。


作品名:遠距離物語 作家名:ACT9