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いつき りゅう
いつき りゅう
novelistID. 4366
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FACE to FAKE

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FACE to FAKE(竹久々)

「暇だ」

「あーそうかい」

「兵助、何か面白い事はないか?」

「ない」

「…つまらん男だな、お前」

そう吐き捨てるなり呆れた様に溜息一つ。
何で俺はこんな事で評価を落とされにゃならんのか。

雷蔵が図書委員の当番からまだ戻ってこなくて、三郎はずっとここ食堂で待ちぼうけ。
たまたま委員会が早く終わった俺が居合わせて、このふて腐れた子供をいくら宥めようと手を尽くしても、その口から出るのは「つまらない」とかそんな言葉ばっかりで、大概俺もうんざりしてきた。
雷蔵がいなくて拗ねてるだけだし、俺が何しようと雷蔵が戻らない限りご機嫌は斜めったままなんだから、気遣ってやるのも馬鹿らしくなるというもの。
天才だとか言われてても、今の三郎はただの駄々っ子だ。

「つまらない、退屈だ」

「はいはい」

机に顔を突っ伏してぐたぐたと言い募る三郎を適当にあしらって、俺は図書室から借りた本へと目を落とす。
ぱらぱらめくって読み出すと、こっちに相手をする気がないと悟ったのか、やっと三郎が静かになった。

やれやれ。

所在無さげにうろうろと視線をさ迷わせる三郎に、手元の本から目を離さないでいた俺。

「…ちょっくらからかってくる」

「へ?」

なもんだから、いきなりの三郎の呟きにも反応が遅れてしまった。
慌てて本から目を離して見上げると、椅子から立ち上がってすでに入口へ向かう三郎の姿が見えた。

なぜか俺の顔で。

いつの間に変わったんだとか何する気だとか考えつつも、誰を狙っているのかはすぐに分かった。
喜々として入口に向かう三郎の先には、委員会が終わって夕飯を食いに来た生物委員の下級生と、それに続いてやってきた竹谷がいた。

「…なっ!」

「だーれだ?」

俺が止める隙もなく、竹谷の背後に回り込んだ三郎が、後ろから竹谷の目を隠して言った。

オイオイおいおい。

何やってんだよお前。
だーれだじゃねぇだろ?
お前が誰だだよ。
人の顔で何してくれやがる!?
ガキかお前っ!

案の定、竹谷の側にいた生物委員の一年生達は、きょとんとした顔で自分達の先輩を見上げてる。
三郎の変装だなんて知らないあの子らからしたら、あんなすっとんきょうで恥ずかしい真似を平気でしているのが俺、久々知兵助にしか思えない訳で。

ぐぁあぁ〜っ!三郎あの野郎っ!
絶対雷蔵に言い付けてやるっ!

心の中でそんな絶叫をしている俺の事も知らず、楽しげな顔で竹谷にくっつく三郎。
止めろよ、コラ。俺はそんな甘えた様な顔も声もしてねぇよ!


「ん〜…三郎?」

そんな中、意外にも目隠しをされたままで竹谷はちゃんと言い当てた。

「残念、ハズレ。
何だよハチ、俺か三郎かも解らないのか?」

言い当てられた途端に手を離して顔を見せ、しれっとそんな事を言ってのける偽の俺。
厚かましいというか面の皮が厚いというか、居直ってないでバレたら素直にとっとと止めろよ!

俺に成り済ましてる三郎はさすがに顔をそっくりに作ってるし、声も多分同じなんだろう。
偽物だって指摘しても動揺すら見せずに本物だって否定されたら、俺でも思わず判断を疑ってしまいそうなほどのそっくりさ。
じぃ〜っと確認するように疑わしげな目を向けられても動じもしない豪胆さはたいしたもんだけど、それで俺に成り済まされちゃたまらない。

「おい、さ…」

「いや、やっぱ三郎だ」

さすがに我慢ならず、悪ノリしてるあの悪戯小僧を取っ捕まえようと席を立ちかけた途端、再度竹谷が断言した。
思わず出鼻をくじかれた俺に気付いているのかいないのか、竹谷は三郎が変装した偽の俺をじっと見たまま確信を持っているかのようにきっぱりと言った。

「仮に三郎じゃなかったとしても、
兵助じゃあない。絶対に」

自信たっぷりに言うその態度はヤマ勘とかあてずっぽうとかでは全くなく。
偽物と断定された本人は、踵を返しながら面白くなさそうに僅かに口を尖らせた。

「つまらんなぁ。せっかくハチを引っ掛けてやろうと思ったのに」

「残念だったな」

「全くだ。完璧に兵助とそっくりにしたつもりだったんだが」

髪やら頬をペタペタ触って弄りながら憮然とした顔で言う三郎に、竹谷は苦笑で返す。
席に戻って来た三郎を目で追って、やっと俺も奥にいた事に気付いたのか、竹谷も三郎の後に着いて俺達が座ってるのと同じ食卓の向かい側の席に腰を降ろした。

「なぁ、兵助だってつまらないだろ?
せっかくこんなにそっくりにしたっていうのになあ」

「さも俺が共犯みたいに言うな!
お前が勝手に暇つぶしに悪戯しようとしたんじゃねえか」

「そうだったか?」

「すっとぼけんな」

全く悪びれもしないで、手間をかけた甲斐がないなんて俺に文句をつける。
まったく…後で覚えてろ。

「で、一体何が原因でバレたのか、種明かしをして貰おうじゃないか」

「種明かしも何も…」

「そうだよ、ハチ。
よく三郎の変装だって分かったよな?」

思えば最初の第一声から三郎だって見破ってたんだ。
三郎の変装は、俺から見たって嫌になるくらいそっくりそのままなのに、ちゃんと変装だって見抜いてたってとこはちょっと凄いと思う。

「ん〜…まぁなんとなく?」

「嘘つけ。何となくってだけであんな断言出来るもんか」

「兵助と私の変装と、何が違ってたんだ?
さあ答えろ、ハチ」

いいよどむ竹谷に、ここぞとばかりに二人がかりで詰め寄る俺と三郎。

「う〜〜ん…」

対する竹谷は微妙な顔で苦笑いを浮かべながら、困った様な悩む様なそんな感じで低く唸ったあげくに。

「……内緒」

と一言だけ言うもんだから、問い詰めてたこっちとしては拍子抜けもいい所。

「何だよそれ」

「さんざ期待させといてそれは無いよなぁ」

俺と三郎が口々に不満を零したところでなんのその。
のらりくらりとごまかされている内に、やっと図書室から戻って来た雷蔵が現れた事でうやむやになってしまった。



翌日の放課後、俺はいつもの如く所属している火薬委員の仕事に勤しんでいた。
面倒な作業を昨日の内に前倒しでやっておいたお陰で、今日は比較的委員会活動もまったり気味。
差し迫って急ぐ必要もなく、どっちかってと暇な時間が過ぎて行くにつれて、仕事には関係ないようなどうでもいい事ばかりだらだら考えてしまう。
例えば授業の時に先生が話し出したよもやま話とか、同級生の奴らが話してた噂話とか、あと昨日の食堂での事とかそんなのが浮かんでは消え、消えてはまた浮かぶ。

昨日のあれは、区別が付かないくらいにそっくりだと思ってたけど、何か間違いがあったのか?
声とか口調が違ってたとか?
それとも、実は俺ってわかりやすい癖があったりするのか?

結局答えを教えて貰えなかった分、一晩経った今もあれこれ考えてしまう。
予想を立てては否定して、また考え直してと単純な流れ作業をこなしながら考えに耽っていたら、いつの間にか補習で遅れていた斎藤がやってくる時間になっていたらしい。

「皆お待たせー、やっと補習終わったよー。
何か俺のする事ある?」

斎藤がやってくるなり、途端に火薬庫が騒がしくなる。