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いつき りゅう
いつき りゅう
novelistID. 4366
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FACE to FAKE

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元からジッとしてるのが苦手な質だってのはいい加減俺も分かって来たけど、あんだけ始終一人で騒いで疲れないんだろうか。
呆れ顔の俺とはちょっと離れたとこで作業してた伊助が、パタパタと無駄に歩き回る斎藤が横を通った途端、なんでか小さく鼻をひくつかせた。

「なんか、いい匂いがしますね?」

何だろうと不思議そうに周囲を見回しだした伊助に、斎藤が足を止めて振り返る。

「あ、伊助くん分かった?
これねー、くのいち教室の娘に髪を結ってあげたら御礼にって香をくれたからさ、制服に焚きしめてみたんだ」

得意そうにくるって体を翻して回ってみせる。
その動きに合わせて、俺の所まで微かに香りが届いた気がした。

「香ですか…どうりで嗅ぎ慣れない匂いだと思いましたよ」

「だよねー。こん中じゃ火薬の匂いくらいしかしないもんねー」

「でもタカ丸さん…忍者としては香の薫りをさせてたら駄目ですよ。
匂いでどこにいるか分かっちゃうから、忍べないです」

「うん、実は先生にも叱られた。
お陰で補習でみっしりしごかれたよ〜、アハハ」

「…あっけらかんと言いますね」

叱られたのにへこたれてもいない斎藤の様子に、三郎次が生暖かい目を向けて小さく呟く。


「あれ?久々知先輩、どうしたんですか」

何気なく目を向けた伊助が俺を見て驚きの声を上げた。
火薬棚に手を着いて寄り掛かりながらしゃがみ込んでいる俺を見て、慌てて駆け寄ってくる。
貧血ですかって気遣う伊助を咄嗟に手で制し、必死で被りを振って何でもないってごまかしておく。
頭を抱え込むようにして丸くなってる癖に、何でもないなんて説得力ないって分かっているけれど。
どうしても俺は、今の自分の顔を見られたくなかった。


分かってしまった、
竹谷が俺と三郎を見極め出来たその種が。


普通に友達付き合いしている雷蔵や三郎どころか、俺自身気にも止めていなかったのに。

毎日の入浴でも落し切れずに体に染み込んだ、火薬庫ではお馴染みの火薬の匂い。
火薬委員の俺に有って三郎には無い、委員会の仕事で火薬庫に長年入り浸っているうちに、ほんの僅か香る程度には自分の体にすっかり馴染んでしまっていたその匂い。
そんなほんの微かな物が俺と三郎を明確に区別させたんだと閃いて、


途端に気恥ずかしさに襲われた。

自分でも気にすらしていなかった、体臭に含まれる香りの微かな違いすら認識されてしまっている事も照れ臭いが、
それ以上に
どこでそれだけの違いをあいつが嗅ぎ分けられたのかって、その心当たりに思い至ってしまい、
顔から火が出そうになった。
逆流して来た血が全部顔まで上って止まり、みるまに熱を上げていく。


恥ずかしいってもんじゃない。
何が秘密だよ、アイツ。


火照った頬に手を当て冷ましながら俺は、委員会が終わり次第アイツを直ぐさま捕まえて、
何があってもバラすなと、後でキツク釘を刺しにいく決意を固めていった。