コッペリアの午睡
ただ、愚かな私は不安になってしまっただけなのです。
これが免罪符だと言わんばかりに腕に掛けていた膝掛けを前に突き出し、示して見せる。
だがぼっちゃまは、興味も無さそうな白けた態度を隠しもせず、億劫そうに書物から目線を上げてそれを一瞥すると、
確認は済んだとばかりに、すぐにまた無言で読書を再開してしまう。
何か言われるでもなく、黙って放ったらかしにされた居心地の悪さに身の置き場がなくなる心持ちがした。
とにかく、ぼっちゃまの邪魔だけはしてはならないと、気を取り直して当初の目的通り
膝掛けを所定の場所にしまい、この場から立ち去る事にした。
膝掛けを置き、出口の扉を開けるまでの僅かな時間が、なんと長かったことか。
「それではぼっちゃま、失礼します。
じきに夕食の時間ですので、その時またお呼びに参ります」
去り際にそれだけ告げ、お辞儀をして重い扉を静かに閉めた私は、思わず深い溜息を落とした。
溜息と共に膝の力が抜けていくので、扉に背を預けその場に腰を降ろす。
沈み込むようにしゃがんで、何気なく見上げた廊下の窓から冷たい風が吹き込んで来る。
いつの間にか、窓の外はすっかり日が沈んで暗くなっていた。
扉が閉められ、外の気配が断ち切られると、書斎に再び静寂が戻って来た。
しん…と雪が静かに降り積もる夜のようなこの無音の空間。
「…へたれが」
ぽつりと呟かれた声は、誰に聞かれる事もなく静寂の海の中に沈んでいった。