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キャンディキャンディ

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「迷子けぇ?」

 突然後ろから響いた声にびくりと背がはね上がる。
 あまりに驚きすぎて舌を噛みそうになってしまった。
 だが、それも無理はない。
 聞き覚えがない声の上に、気配も感じなかった。
 この自分がなんという不覚……!
 慌てて振りかえった先に見たものは、なんだか異様に背の高い人影だった。
 首をかなり傾けないと、顔まで到達できない。
 自分とはまた違った彫りの深い顔立ちが、淡々とこちらを見下ろしていた。
 明らかに欧米人である。
 欧米人の知り合いなど自分の名簿の中にはない。
 確実に知らない人間である。
 ましてや見たこともない。
 当然会話したこともない。
 そして顔が異様に怖い。
 逆立てた色の薄い髪と、額に走った傷跡がとても素人ではない感じである。
 しかも口にくわえているものは、もしかして煙草というやつだろうか。
 こんなところで堂々と吸うとは恐ろしい。
 もうすでに内心びびりまくっていると、その怖い顔がまた再び淡々と口を開いた。

「迷子けぇ?」
「……はぁ?」

 一瞬何の冗談かとも思ったが、相手は大真面目な顔である。
 どうやらこちらをからかっている風でもないらしい。
 しかし、開口一番迷子か?とは。
 いい年をした人間に聞く言葉ではないはずだが。
 何と返していいものか、ほとほと迷ってしまった。
 とっさに次の言葉が見つからず、悩みながらも口を閉ざしてしまう。
 代わりに相手がまた恐れ気もなく言った。

「迷子なら校内放送で呼びかけてもらおか? お母さんも探しとるかもしらんで」

 今度こそ、ぽかんと口を開いて相手を見上げてしまう。
 今この男はなんと言ったか。
 ………おかあさん?
 自立も自活もしている人間をお母さんが探しているとは。
 少なくともこちらをちゃんと見ていれば出てこないセリフであろう。
 思わず引きつった顔で相手にツッこむ。

「って、いやいやいや! 私ここの生徒ですから! ほらちゃんとあなたと同じ制服を着ているでしょう!?」

 ほら見ろどうだと言わんばかりに、ブレザーの裾をつかんでひらひらとさせてみた。
 そこで相手もようやく自分の勘違いに気づいたらしい。
 切れ長の目を若干見開いて、まじまじと見下ろしてくる。

「……………ほうか、ここの生徒やったか。知らずにすまん」

 ばつが悪そうな顔で素直に謝ってくれるが、逆になんだか悲しかった。
 やはり欧米人にとってアジア人の顔は年齢不詳なのだろうか。
 子どもみたいに見えるのだろうか。
 妙にせつない気持ちでいると、男は不思議そうな表情をした。

「やけど、なんでこないなとこおるんや? 今授業中やろが?」

 などと口にしたが、自分だって同じはずである。
 少なくともこんな人気のない植え込みの陰で、のんびり煙草を吸っている暇はないはずだ。
 少しばかりむっとしながらも、生来の気性の弱さゆえか口にできない。
 歯がゆい気持ちでいると、そんなうじうじした気分など吹っ飛ばすくらい明るい声が響いた。

「にっほーーーーんっ!!!! こんなところにおったんかぁ! 探したでぇ!!」
「ス、スペインさん!?」

 名前を呼ばれてぎくりと振り向いた瞬間、衝撃も襲ってくる。
 弱った腰にさらなる追撃。
 ハグどころか押し倒す勢いの抱きつき攻撃に押し負かされそうだ。
 しかし、ここで負けたらその後の展開が怖すぎたので、懸命に踏ん張る。
 ただでさえ弱い腰が、みしみしと悲鳴を上げたような気がしたが、聞かなかったふりをした。
 なんかもうすべてに耐え続けていると、耳元でひどく愉しげな声。

「いややわぁ、何で逃げるん日本? 俺と自分の仲やん? せっかくやからもっと友好深めようや、なぁ!」

 などといかにも親しげな雰囲気で話しかけられるが、冗談ではない。
 褐色の肌にくるりとはねた栗毛。
 きらきらと輝く緑の瞳もまぶしいラテン男に知り合いはいない。
 断じていない。
 これはストーカーである。
 こちらの行くところ行くところ執拗について回って押しかけてくるのだ。
 ぶっちゃけトイレまでついてくる。
 これがストーカーでなくて何だというのか。
 本当は面と向かってやめてくれと言いたいが、やはり言えない。
 自分が小心者であることはわかりすぎるほどわかってはいるが、このときほど己の性分を呪ったことはなかった。
 代わりに日本は、さぁっと面を青ざめさせると、必死に身体をばたつかせて、スペインの拘束から逃れようと試みる。

「い、いえいえいえ、結構ですから! 間に合ってます!」

 と、できるだけ遠回りに拒絶もしてみた。
 適当に八橋にくるんだ言葉は、なぜか見事スペインに届いたようである。

「えぇ~~~っ!? なんでなん、なんでなん、なんでなん!? 俺のこと嫌いなんか日本!?」

 しゅぅんっと見てわかるくらいうなだれて、ひっしとこちらを見る顔。
 まるで捨てられた子犬のような表情は、正直少しだけ心動かされた。
 ………ほんの少しだけ。

「い、いえ~、そ、そういうわけではないんですけれど………」

 思わず言葉をにごしてしまった日本を見て、スペインの顔がぱぁぁっと音がするくらい明るく輝く。

「ならええやんっ! 俺と一緒に遊びに行こうや………って、むぐっ!?」

 しかし、勢い込んで続けられようとしたセリフは、あっけなく途切れた。
 何事かと振り返れば、何かを口に突っ込んで、もごもごとうごめくスペインの姿。
 口からぴょんと飛び出した白い棒は、はて何だろう?
 いぶかしげに眉を寄せる日本の前で、先ほどから黙ったままの大男がようやく口を開いた。

「……あほう、ええ加減にせぃ。うっさいわボケ」

 面倒くさそうに嫌そうにつぶやいた後、男はポケットから何かを取り出す。
 そのカラフルな丸っこいかたまりから、なにやらべりべりとはがしてスペインの口の中に突っ込んだ。
 当然上がるのは抗議の声である。

「っんー!? なにひゅんのオランダーーっ!」

 オランダと呼ばれた男は、スペインの怒声にもしらっとした顔をしていた。
 それどころかスペインの頭をむんずとつかんだかと思うと、ポケットからもうひとつ包みを取り出して、片手でそれを破いた。
 破きながら、うっとうしげに眉を寄せる。

「やから、うっさい言うてるやろが。生徒会の連中にばれてまうわ。ほらこれでも食うとけ」

 言いながら、さらにひょぉいとスペインの口の中に棒っきれを放り込んだ。
 三度目にしてようやくそれが棒付キャンディであることに気がつき、日本は目を見開く。
 自分の認識が正しければ、それは確かチュッパチャップスというお菓子のはずだ。
 なぜそんなものを持っているのか。
 しかもスペインに三度も与えているのか。
 疑問は尽きない。
 スペインに抱きつかれたままの体勢で、まじまじと見やる日本に気づいたのだろう。
 オランダがようやく日本を見て目を細めた。

「ん? なんやお前も欲しいんか」

 と言いながら懐を探っている風だが、すぐにその顔はしかめられる。

「………しもた、もうないわ。代わりにこれやる」
作品名:キャンディキャンディ 作家名:さり