二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」
うきぐもさなぎ
うきぐもさなぎ
novelistID. 8632
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

スローなブギにしてくれ

INDEX|2ページ/2ページ|

前のページ
 

「で? そのメジャーになりきれない観光地の歌を
おまえが好んで歌う理由はなんなんだ?」


静雄はゆっくり顔を上げた。

「津軽はブクロに似てるような気がするんです」
「ほう……なんで、そう思う」
「メジャーになりきれないところが」
「ふーん」
「あと、なんつーか、ハンパなところも」

くくっと声を出さない笑い声をトムは漏らした。

「わからなくもねえな。 ここ最近は池袋も頑張って
オシャレな町とかいうのを目指しているようだが、
所詮ハンパな町には変わりねえ――なんでだろうな」

不思議、というより、可笑しがるような顔をして、
トムは水割りのグラスを傾けた。
静雄は、飲み終わったチューハイのグラスを邪魔そうに
手で押しやると、丸みを帯びた山崎のボトルに手を伸ばし、
こぽこぽとグラスに注いだ。

「新宿っつー町は歌舞伎町で名を上げた。渋谷は若い連中が
独自の文化を作ってきた。 原宿や恵比寿なんてまるで別格、
比較の対象にもなりゃしねえ――じゃあ、ブクロはどうかって
いうと――カオスな町としか言いようがねえ……ときたもんだ」

「そういや社長が言ってたな」

静雄の話に耳を傾けていたトムがぼそりとつぶやいた。
グラスの氷を長い指先が、からからとまわしている。

「戦後のブクロはすげえド田舎で、巣鴨のほうがよっぽど
都会だったってよ」

しばらくふたりは黙って酒を煽っていた。
同僚が、さそり座の女を歌っている。

「実は俺、東京から外に出た事ないんです」

静雄がおもむろにそう言いだした。

「東京、てか山手線圏内から外に出たことがなくて――」
「生粋の池袋人ってか?」

トムはちょっと茶化すような口調でそう言い、
静雄は口もとに笑みを乗せた。

「憧れなんですよね、最果ての地が」

サングラスの下でわずかに目が細められ、
けばけばしく塗装された部屋の壁に視線が注がれる。

「俺がいるこの場所、池袋からずいぶんと離れたところに、
ブクロと似たような場所が本当にあるわけで、こっから
ずっとずっと北に行けば、歌に出てくる津軽海峡が実在してる――
そのことを俺は、いつかこの目で確かめたいと思っているんです」

「マジで世界が広いってことを――か?」

笑いながらトムは答え、ウィスキーを啜る。

「そうです」

真面目な声で静雄は答えた。
視線を、けばけばしい色の壁の向こう、ここではない
遠いどこかに飛ばしながら。


「シズちゃん、もう一回あれ歌いなよ」

いつの間にやって来たのか、酔っ払いの社長がちゃっかりと
静雄の隣に腰かけている。
さも楽しそうな、満足そうな社長の笑顔に、釣られて静雄は微笑んだ。

「いいっスよ」

静雄は答え、自分のグラスを社長の手の中のグラスに
カチンと重ねた――了解、の合図がわりに。


ソラで覚えた番号をリモコンに直接打ち込み、
静雄はカラオケに転送した。
たちまち、「津軽海峡冬景色」のイントロが始まって、
静雄はマイクに手を伸ばした――。