幸福に満ちる
アクアマリンの宝石言葉は"沈着・聡明・勇敢・富"だそうだ。名前のとおり、海のパワーを持つとされていて水の中に身をゆだねたような神聖で優しい気持ちにさせてくれる…らしい。そのうえ他の者に対し優しい気持ちで接することができる…。
嘘だな。
アーサーは半眼で開いていた書物を閉じた。
-嘘だありえねぇ。アクアマリンにそんな効果があるなんて俺は信じねぇんだからな!何が神聖で優しい気持ちにしてくれるだ。優しい気持ちで接することができるだ!そんなもん信じられるか、クソッ…!
忌々しく舌打ちをして、自分の胸ポケットに入ってるあるものに触れる。小さくごろっとした感触のそれはとても大切なもので肌身離さず持っているものだ。アーサーは胸ポケットからそっと小さなポーチを取り出しゆっくりとした動作でもう一度その中身を撫でた。
アクアマリンを身に着けていると優しい気持ちになれるというなら、それは間違いだと力の限り叫びたい。だってアクアマリンをかれこれ何百年も前から所持しているにも関わらず、自分自身優しい気持ちになれたことなど欠片ほどしかないから。
まあ見た目が海のように綺麗な透き通ったブルーで優しい色合いだからそういう風に言われたのかもしれないが、所詮は人々の想像によるものだということなのだろう。確かに色は神聖な色をしているとは思うが。
そう自身では皮肉って罵りながらも、アーサーは肌身離さず持ち歩いているそのアクアマリンの原石を手放せずにいた。いや、手放そうと思ったことは何度もあるのだが、その度に躊躇してしまい結局は自分の懐に入れて持ち歩いてしまっている。今となっては色んな出来事を一緒に乗り越えてきた大切な石なので手放す気がないのが大きな理由の一つでもあるのだが…。
「やっぱり、アイツがくれたものだから、なんだろうな…。」
いまや超大国まで急成長を遂げたアーサーの元弟であるアルフレッド。彼が幼い頃、プレゼントだと天使のような笑みで渡してくれたこのアクアマリンはアーサーにとって一番とも思える宝物だった。研磨も加工もされていない、原石そのままの石は特に綺麗だといえるものではないけれど、アルフレッドが自分に捧げてくれたものだと思うと、それだけでダイヤモンドにも勝る何よりも尊き綺麗な石だ。
だが恐らくあの超大国はそのことを覚えているだろうか。まあ…予想では十中八九覚えていないだろうというのがアーサーの見解だった。アルフレッドは過去を振り返ることはしない。常に前を見据え、未来へと希望を持って進んでいく。そんな奴が懐古主義なこの俺に物をやった記憶なんて、もうすでに捨ててしまっているに違いない。過去を持ち出すと途端不機嫌になるので真意は聞いたことがないが、恐らくはそうだ。
手の中の石を弄びながらアーサーは持っていた書物を本棚へと戻した。何をまたネガティブなことを考えているんだろう…。
はぁ…と重い溜息をついていると入り口の方でカタンと音が鳴ったのが聞こえ反射的にそちらへと顔を向けると、そこには先程脳内で天使の笑みを浮かべていたアルフレッドの成長した姿……超大国アメリカがドアにもたれ掛かるようにして立っていた。顔は恐ろしいほどに無表情だ。
「あ、アル…。ど、どうしたんだ、ここ書庫だぞ?おまえにはあんまり縁のないところだと思うけどな」
「……」
「…アルフレッド?」
一言も喋らないアルフレッドを訝しげに見つめていると
「それ。何が入ってるんだい?」
「え?」
「聞こえなかったの?それだよ、それ。その小さい袋の中身を聞いてるんだけど」
きみ、いつも肌身離さず持ち歩いてるじゃないか。
そのアルフレッドの言葉にアーサーはひゅっと身が竦むのを感じた。俺がずっと持ち歩いてたことを知られていた?なるべく人目につかないようにしていたのに…。しかし持ち歩いていると知ってはいるが、中身は知らないらしい。……コイツには知られたくない。
「べ、別にお、お前には関係ねぇだろ!中身知ってどうするってんだ!」
「いいからさっさと言いなよ。誰から貰ったんだい?フランシス?菊?もしかしてマシューとか言わないだろうね。…誰から貰ったのか知らないけど随分大切にしてるみたいじゃないか、小袋に入れて持ち歩いてるだなんて。……中身が何なのか知らないけど、気持ち悪いことしないでくれよ」
冷ややかに告げられた言葉を聞かなかったことにしようと下唇を噛み締めてアルフレッドが早くこの場から立ち去ってくれるのを待った。どうしてアルフレッドはこんなに不機嫌なんだ、俺がまた何かやってしまったのか。ぐるぐる考えてみるがまったく見に覚えが無い。
だがそんなアーサーの行動が気に入らなかったのか苛々しげに舌打ちをしたアルフレッドはアーサーの手にあった小袋をおもむろに掴み上げ、それを憎々しげに睨み付けたかと思うと、そのまま後方へぽいっと投げ捨ててしまった。
あ…!というアーサー声とカツンという床に何か軽いものがぶつかる音。後生大事に何を持ってるんだか…。そう呟いたアルフレッドがアーサーより先に小袋の中身を見てやろうと屈みこんだ先で水色に光る小石が目に止まった。
とても、見覚えのある石だった。当たり前だ。この石は昔自分が幼かった頃、彼のために見つけてきたものだったから。今と違って飛行機などの発達した乗り物がなかった頃、自分に会う為に危険な海を航海してくる彼のことが心配で堪らなくてそんな時海の事故を防いでくれる石が近くで採れると聞いて、何としてもそれを手に入れたくて非力ながらもアーサーのためにと自分の力で手に入れ、プレゼントしたものだった。まだ加工もされていない、余分な岩と一緒にくっ付いたままの原石でお世辞でも綺麗とは言えない。
もう、とっくに捨ててしまったものだと思っていたのに。
どうしてきみはそれを肌身離さず持っているの?
「……っ触んじゃねぇ!!」
アルフレッドが拾い上げようとするよりも早く、アーサーは引っ手繰るかのように石を拾い上げた。欠けていたりしたらどうしよう…そんな心配が頭を過ぎる。石を斜めから横からと色々な角度から見て傷がないか確認してみたが、幸い傷などは見受けられなかった。良かった…。石が無事だと分かると乱雑な扱いをしたアルフレッドに怒りが込み上げてきた。
「なんで…どうしてお前がそんなことするんだよ!どうせ昔あげたものを俺が未だに持ってて気持ち悪かったとかそんな理由だろうけど、それにしたって投げることはねぇだろ!そこまで俺が嫌いかよ!」
ぶわっと頭に浮かんできた言葉をそのままアルフレッドにぶつける。
「気持ち悪いことして悪かったな!だけど俺が何を持ってようがお前には何の関係もねぇだろうが!放っておけばいいだろっ!!……くそっ…なんなんだよ、おまえ…ひでぇよ…」
嘘だな。
アーサーは半眼で開いていた書物を閉じた。
-嘘だありえねぇ。アクアマリンにそんな効果があるなんて俺は信じねぇんだからな!何が神聖で優しい気持ちにしてくれるだ。優しい気持ちで接することができるだ!そんなもん信じられるか、クソッ…!
忌々しく舌打ちをして、自分の胸ポケットに入ってるあるものに触れる。小さくごろっとした感触のそれはとても大切なもので肌身離さず持っているものだ。アーサーは胸ポケットからそっと小さなポーチを取り出しゆっくりとした動作でもう一度その中身を撫でた。
アクアマリンを身に着けていると優しい気持ちになれるというなら、それは間違いだと力の限り叫びたい。だってアクアマリンをかれこれ何百年も前から所持しているにも関わらず、自分自身優しい気持ちになれたことなど欠片ほどしかないから。
まあ見た目が海のように綺麗な透き通ったブルーで優しい色合いだからそういう風に言われたのかもしれないが、所詮は人々の想像によるものだということなのだろう。確かに色は神聖な色をしているとは思うが。
そう自身では皮肉って罵りながらも、アーサーは肌身離さず持ち歩いているそのアクアマリンの原石を手放せずにいた。いや、手放そうと思ったことは何度もあるのだが、その度に躊躇してしまい結局は自分の懐に入れて持ち歩いてしまっている。今となっては色んな出来事を一緒に乗り越えてきた大切な石なので手放す気がないのが大きな理由の一つでもあるのだが…。
「やっぱり、アイツがくれたものだから、なんだろうな…。」
いまや超大国まで急成長を遂げたアーサーの元弟であるアルフレッド。彼が幼い頃、プレゼントだと天使のような笑みで渡してくれたこのアクアマリンはアーサーにとって一番とも思える宝物だった。研磨も加工もされていない、原石そのままの石は特に綺麗だといえるものではないけれど、アルフレッドが自分に捧げてくれたものだと思うと、それだけでダイヤモンドにも勝る何よりも尊き綺麗な石だ。
だが恐らくあの超大国はそのことを覚えているだろうか。まあ…予想では十中八九覚えていないだろうというのがアーサーの見解だった。アルフレッドは過去を振り返ることはしない。常に前を見据え、未来へと希望を持って進んでいく。そんな奴が懐古主義なこの俺に物をやった記憶なんて、もうすでに捨ててしまっているに違いない。過去を持ち出すと途端不機嫌になるので真意は聞いたことがないが、恐らくはそうだ。
手の中の石を弄びながらアーサーは持っていた書物を本棚へと戻した。何をまたネガティブなことを考えているんだろう…。
はぁ…と重い溜息をついていると入り口の方でカタンと音が鳴ったのが聞こえ反射的にそちらへと顔を向けると、そこには先程脳内で天使の笑みを浮かべていたアルフレッドの成長した姿……超大国アメリカがドアにもたれ掛かるようにして立っていた。顔は恐ろしいほどに無表情だ。
「あ、アル…。ど、どうしたんだ、ここ書庫だぞ?おまえにはあんまり縁のないところだと思うけどな」
「……」
「…アルフレッド?」
一言も喋らないアルフレッドを訝しげに見つめていると
「それ。何が入ってるんだい?」
「え?」
「聞こえなかったの?それだよ、それ。その小さい袋の中身を聞いてるんだけど」
きみ、いつも肌身離さず持ち歩いてるじゃないか。
そのアルフレッドの言葉にアーサーはひゅっと身が竦むのを感じた。俺がずっと持ち歩いてたことを知られていた?なるべく人目につかないようにしていたのに…。しかし持ち歩いていると知ってはいるが、中身は知らないらしい。……コイツには知られたくない。
「べ、別にお、お前には関係ねぇだろ!中身知ってどうするってんだ!」
「いいからさっさと言いなよ。誰から貰ったんだい?フランシス?菊?もしかしてマシューとか言わないだろうね。…誰から貰ったのか知らないけど随分大切にしてるみたいじゃないか、小袋に入れて持ち歩いてるだなんて。……中身が何なのか知らないけど、気持ち悪いことしないでくれよ」
冷ややかに告げられた言葉を聞かなかったことにしようと下唇を噛み締めてアルフレッドが早くこの場から立ち去ってくれるのを待った。どうしてアルフレッドはこんなに不機嫌なんだ、俺がまた何かやってしまったのか。ぐるぐる考えてみるがまったく見に覚えが無い。
だがそんなアーサーの行動が気に入らなかったのか苛々しげに舌打ちをしたアルフレッドはアーサーの手にあった小袋をおもむろに掴み上げ、それを憎々しげに睨み付けたかと思うと、そのまま後方へぽいっと投げ捨ててしまった。
あ…!というアーサー声とカツンという床に何か軽いものがぶつかる音。後生大事に何を持ってるんだか…。そう呟いたアルフレッドがアーサーより先に小袋の中身を見てやろうと屈みこんだ先で水色に光る小石が目に止まった。
とても、見覚えのある石だった。当たり前だ。この石は昔自分が幼かった頃、彼のために見つけてきたものだったから。今と違って飛行機などの発達した乗り物がなかった頃、自分に会う為に危険な海を航海してくる彼のことが心配で堪らなくてそんな時海の事故を防いでくれる石が近くで採れると聞いて、何としてもそれを手に入れたくて非力ながらもアーサーのためにと自分の力で手に入れ、プレゼントしたものだった。まだ加工もされていない、余分な岩と一緒にくっ付いたままの原石でお世辞でも綺麗とは言えない。
もう、とっくに捨ててしまったものだと思っていたのに。
どうしてきみはそれを肌身離さず持っているの?
「……っ触んじゃねぇ!!」
アルフレッドが拾い上げようとするよりも早く、アーサーは引っ手繰るかのように石を拾い上げた。欠けていたりしたらどうしよう…そんな心配が頭を過ぎる。石を斜めから横からと色々な角度から見て傷がないか確認してみたが、幸い傷などは見受けられなかった。良かった…。石が無事だと分かると乱雑な扱いをしたアルフレッドに怒りが込み上げてきた。
「なんで…どうしてお前がそんなことするんだよ!どうせ昔あげたものを俺が未だに持ってて気持ち悪かったとかそんな理由だろうけど、それにしたって投げることはねぇだろ!そこまで俺が嫌いかよ!」
ぶわっと頭に浮かんできた言葉をそのままアルフレッドにぶつける。
「気持ち悪いことして悪かったな!だけど俺が何を持ってようがお前には何の関係もねぇだろうが!放っておけばいいだろっ!!……くそっ…なんなんだよ、おまえ…ひでぇよ…」