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幸福に満ちる

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 珍しく殊勝な態度にアーサーは言葉を発することなくじっとアルフレッドの言葉に聞き入っていた。あの自分勝手で自己中な彼が己の非を認めて素直に謝罪の言葉を述べている。それだけアルフレッドにとって先程アーサーにした行動は最も最低な行いの一つとしてカテゴライズされているのだろう。プライドの高いヒーローを謝らせたのだ、此処は自分も素直になるべきではないだろうか。
 アーサーは自分を抱き締めたまま動かない彼の背中をぽんぽんと数回優しく叩くと「もう気にしてねぇよ」と苦笑を交えながら言ってやると、パッと顔をあげる気配を感じた。すぐ傍にあったアルフレッドの顔は目が合うとかすかに表情を和ませ、そして

「じゃあ仲直りってことでキスしようよキス!」
「な、なんでだ!?」

 何故そうなった。菊の言葉を借りるならまさに今、その言葉の使い時だ。キスをしようと近づけてくる顔を「べあああっ…!」と力の限り押し返す。なんでだ、何故こうなった。さっきのちょっとしたシリアスな展開はどこへ吹っ飛んだ。戻って来い!あ、いや、それも困るな。
 アルフレッドの顔を力一杯押し返すが元々力の差は歴然としていて自身の力などすぐに抑え込まれてしまう。寄せられる唇に自分の手を突っ撥ねるが逆にペロリと舐められて「ひぃ!?」と情けない声が上がる。何しやがんだコイツ…!手ぇ舐めやがった…!
 蹴ったり叩いたり顔を背けたりと散々抵抗するも、アルフレッドの両手がアーサーの顔を固定したところで一時お互いの動きが止まった。ぜーぜーと息を乱すのはアーサーの方で、クソっと舌打ちすると「軟弱だなぁ、きみは」と笑う声。軟弱って言うなメタボ!と再び抵抗を開始するも、すでに息の上がった体では抵抗も無いに等しい。

「ちくしょ…!素直になるんじゃなかった…!こん…の、バカ力…!」
「往生際の悪い人だなぁ、でもそんなところもすっごく可愛いよ」
「なっ!?ぎゃ、ぎゃあああっ!――――んむっ…!」





 アクアマリンの宝石言葉:幸福に満ちる、海難事故を防ぐ
作品名:幸福に満ちる 作家名:こはる