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きくちしげか
きくちしげか
novelistID. 8592
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鬼の腕

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しばらくは平穏な日々が続いていた。
新八は主と居候のいない万事屋の部屋の掃除をしている。銀時は朝から仕事で草むしりに行っていた。神楽は最近昼間あまり万事屋にいない。新八が先日の事を謝ろうとしているのに、万事屋に行くと決まって外に遊びに行ってしまうのだった。
(嫌われちゃったかな)
はあっ、とため息をついて新八は買い物に行くために万事屋を出た。
(今日は神楽ちゃんの好きな物でも作ってあげようか)
以前、自分が作ったグラタンを美味しそうに5個も食べていた事を思い出した。店に行く途中のショーウインドウのガラスに自分が歩く姿を見た。
(まだだ)
まじめに稽古をしているおかげで腕の筋力はあがったが、全体に漂う幼さと華奢な感じは到底拭えなかった。
(もう少し鍛えないと)
あの日以来、自分の中にあった憑き物はとりあえずなりを潜めたが、夜になるとまだ自分の中にいる事は分かった。
(誰かを斬りたいと思っているのは刀か、僕自身か)
そうだ、神楽はどうだ。夜兎の血が怖いと言った事がある。しかし彼女はきちんとそれと向き合って、その血と戦っている。
(僕は未熟だな)
久しぶりに懐が潤ったのでたくさん買い物をした。新八は一度道場に行って少し整理してから万事屋に行こうと決めた。
それに今日は刀が振りたいと思っていた。
(今日は神楽ちゃんにきちんと謝ろう。そしてたくさん話をしよう)
新八は荷物を台所へ置くと水を飲み、部屋に置いてあった刀に手をやった。あの日以来、新八は夜を一人で過ごす事をやめた、というよりやめさせられた、という方が正しい。お妙が仕事に行ったあとは万事屋で夜を過ごす。朝方一度道場へ帰ってお妙に顔を見せ、また万事屋へ行く。夜遅くまで道場に居ると、いつの間にか銀時が道場の方へ顔を出すのだった。
そんな暮らしがしばらく続いていた。
(稽古の時間が思う様にとれなくなった)
万事屋の近くでも稽古をするが、まさか真剣を振る訳にもいかず木刀で素振りをしている。
(最近は木刀ばっかりだったからな)
新八が真剣で素振りを始めると銀時が木戸から入って来た。
(まだ昼なのに)
お妙はいなかったから、思う存分刀を振れると思ったのに。新八はこのところの銀時の自分に対する干渉にうんざりしていた。
「新八ーなんか甘いもん買ってきたぁ?」
上半身をあらわにして真剣で素振りする新八は、銀時の甘ったるい声を無視した。
「ちょっとぉー買い物の帰りだってことは分かってんのよー」
だらしなく縁側に腰掛けて新八の素振りを見ている。
「集中力が途切れると怪我をするので話しかけないでください」
新八はとりあえず声を出した。ヒュッヒュッと素振りをするたびに音がする。
「そんな危ないもの振り回す方が悪いってぇ」
銀時はいつもの調子で新八に声をかける。新八にとってそれはとても嫌な感じに思えた。
(邪魔をするな)
目の前に不意に現れる制服の男達。そして銀髪。それらを斬る様に刀を振っている自分が卑しく思えてきた。
(僕は未熟だ)
刀を振る事をやめた新八に銀時が声をかけた。
「めしー。腹減ったー」
「はいはい。分かりましたよ」
新八は刀を鞘に納め、汗を拭い道着を着ると縁台に上がった。
「仕事は終わったんですか」
「うん、ばっちり。まじめにやったよぉ、銀さん」
お金の入った封筒をひらひらとさせながら新八の動作を見ていた。
「気持ち悪いなあ」
「んー?」
「じろじろ見ないでくださいよ」
「セクハラで訴えるか?」
ニヤニヤとはしているが、鋭く見透かされているような銀時の目から逃れたいと思う。
人を食ったような言動でいつもはぐらかされる。
(あなたは僕を監視している。何かしでかさないかと)
今度は新八が銀時をじっと見た。
「いやーん見つめないでぇ。パー子恥ずかすぃー」
銀時は口元に手を持ってきて肩を揺すった。
「なんですかそれ、頭パー子ですか」
「あんまりうまくねえな。新八」
新八はスタスタと台所の方へ向かった。おどけてみせることで、自分を隠すのはずるいと思った。
冷蔵庫にあった適当な物でチャーハンを作って居間へと持ってきた。
「いただきます」
「ういーっ」
銀時と新八は座卓の前に座ってチャーハンを食べ始めた。
「最近昼間神楽ちゃん見かけないんですけど、どうしたんですか」
「さあな。どっかで遊んでるんだろ、定春と」
銀時が口にチャーハンをほおばったまま答える。
「夜はあんまり話さないし」
「おめえのせいじゃねえ」
銀時が短く言った。
「神楽には神楽の事情があるんだろ」
新八は銀時の言い方に我慢ができなかった。普段ならどうという事もない事なのに、最近はささいな言葉に敏感になっていた。
「あんたは、気を使っているのか、僕を追いつめているのか、どっちなんだ!」
銀時がびっくりした顔で新八の方を見て立ち上がると、歩み寄って新八の頭をぐっと自分の胸に抱え込んだ。
「すまねえ。一応気を使ってるつもりなんだがな」
(まただ。この人はいつもこうやって僕を子供扱いする)
顔の前にある厚い胸板は自分にない。羨ましいと思う。そして憎らしいとも思う。
「銀さんは、昔は稽古してましたか」
「ん?」
新八はぐっと胸を押しのけて銀時の目を見て話した。
「んー、あんまり、したかな?しなかったかな?」
「初めて人を斬ったのは何歳の時ですか」
新八はずっと押さえていた腹の黒い物を銀時にぶつけてしまおうと思った。
(もう限界だ)
「覚えてねえ」
(もぞっ)
新八の腹の中で動く物がある。
「じゃあ、何人斬りました」
「忘れた」
(ごりっ)
あの感触を思い出す。
「あなたは何者ですか」
制服の二人がこちらを見ているようだった。そう、この言葉はそのうちの一人が発したものだった。
「俺は俺だ。みんなの銀さんさ」
(もう駄目だ)
再びあれが腹の中でうごめいた。そのうごめく物の正体が今度ははっきり分かった。
(腕だ)
闇の中で腕がはっきりと見えた。それはもう自身の片割れである身体を探す腕ではなかった。はっきりと新八の方へ向かってきていた。

腕が欲しいだろう
人斬りの腕が

新八はそれ以上の質問をやめ、チャーハンを残したまま皿を下げた。
銀時はその場にうつむいていた。
「新八、すまねえ」
小さくつぶやいたが、その声は新八には届かない。
(駆け引きはできねえ)
一人で銀時は残ったチャーハンを食べた。空いた皿を台所に持っていくと、新八が食べたチャーハンの残りは残飯として捨てられていた。
トイレの方から嘔吐する声が聞こえた。
「新八!」
銀時は新八を力づくでも引き戻さなければならないと感じた。新八が再び闇へと戻っていく様に感じたからだ。
「俺のせい・・・か」
銀時が弱くつぶやいた。しかし、やはりその声は新八には届かない。
トイレから出てくる新八に銀時が手を貸そうとしたが、新八がそれを力強くはねのけた。
「新八、きちんと話そう」
「何を?」
新八は台所に向かい水を飲みほす。喉は胃液でひりひりとしていた。
「お前のこの所の変化について、だ」
「今度にしましょう」
新八の目は力強く、銀時を戸惑わせる程力強く輝いていた。
「僕は行く所があります」
「明日にしろ」
新八は無言でその場を離れた。銀時が腕をつかむ。
作品名:鬼の腕 作家名:きくちしげか