六帝の日なのでろちみか詰め合わせ
手をつなぐ六帝
休日の池袋は人が多い。
上京してきてまだ一年弱しか経っていない帝人は、人の間の歩き方なんてまだ完璧ではない。
隣を歩くその男に自分が足を必死に動かしていることを気付かれないようにしながら、なんとか付いていく。
しかし、二人で歩くとなれば尚更歩くのは難しくなる。
前から来る人を避けようとすれば千景から離れなければいけなくなる場合もある。
そうして少しだけ離れた距離を、また歩いている間に詰める時間が帝人にはとても寂しく感じたのだ。
(手、とか、繋ぐことできたら…楽なんだろうけど…)
まわりを見れば、手を繋いでいるカップルなどの間を割って入るような人などいない。
必然的にカップルは二人一組で人を避けることになるが、それはとてもうらやましい光景に見えた。
千景の手をちらりと見て、手を繋ぎたいと思った考えを帝人は打ち消した。
以前、人前で手を繋ぎたくないと言ったのは帝人の方だった。
ハニー、と呼ばれることには慣れたが(というか、いくらその呼び方はやめてほしいと言っても千景が頑なに譲らなかったのだ)、
人前で手を繋ぐことは帝人が断固拒否したのだった。
来良学園の生徒もたくさんいるであろう池袋の街中で、カップルとはいえ男同士で手を繋いでいるところを見られたら、
学校でどのような噂をたてられるか、まわりから何と言われるか。
そんなことを考えたら怖くて手など繋げなかったのだ。
それでも。
どん、と肩がぶつかり、すみません、と謝ろうと顔を上げれば知らない人から睨まれて。
人を避けるために離れた距離を縮める間の寂しさに比べたら。
隣を歩く千景は、今はゲームセンターの方に目をやっている。
その間に、千景のだらりとさがっている手のひらにそろそろと帝人は自分の手を滑り込ませる。
はっとしたように千景はこちらを向いて、力強く手を握り返してくる。
その手のひらは乾いているがあたたかく、帝人よりも少し硬い感触だった。
「ハニーから手を繋いでくれるなんて……!あんなに嫌がってたのに!」
きらきらと、目を子供のように輝かせながら千景が笑いかけてくる。
それに対して帝人は、ああ、とか、うう、とかうめくだけだ。
今自分の顔はどれくらい赤くなっているだろう。どうか耳まで赤くなっていなければいいが。
いいや、でも、耳もなんだか熱い気がする。どうしよう、恥ずかしい。
「はぐれたら……、嫌だったので……。」
言い訳をするかのように、ぼそぼそと言葉を紡ぐ。
「例えはぐれたとしてもハニーを見つけるのには数秒もかからないだろうけど……、ああ、でも離れる時間が長いのは嫌だな。
もしそれが人をよけるためのしょうがない手段だとしても、数秒でも離れていたくはない!」
胸が大きく脈打った。千景は、先程帝人が考えていたことそのままを口にしたのだ。
顔がもっと熱くなっていくのが、帝人自身にも分かった。
ああ、もう、本当に恥ずかしい。しかも、そんなことを力強く言ってしまう千景も恥ずかしい。
「あれっ、ハニー!顔がもっと赤くなってる……、もしかして同じこと考えていてくれたのかい?」
「ちょ、ちょっと黙っていてください……。」
「そんなことできるわけないだろう!ハニーと以心伝心だなんて嬉しいなぁ!!」
僕もです、なんて言葉を言えるわけもない帝人は、同意するかのように握る手に力を込めた。
作品名:六帝の日なのでろちみか詰め合わせ 作家名:るり子