六帝の日なのでろちみか詰め合わせ
六帝
※一部、イメージソングにポルノグラフィティのハートを使わせていただいてます
※ちょっとろっちーがヤンデレです
「帝人、おいで。」
千景さんがそう言って、手を広げる。
その姿がまるで十字架のようだと思いながら、その胸へと飛び込む。
力いっぱい抱きしめれば、こちらの背にも腕がまわってくる。
ぎゅう、と、力強く抱きしめられて、少し呼吸が苦しい。
この呼吸の苦しさまでもが、愛おしく感じてしまうほどには、僕は千景さんに溺れているのだろう。
恋はするものではない、落ちるものだ。
なんて、セリフがあったなぁ、と思い出す。
確かにその通りだと思う。
他人のことなど考えられなくなって、格好悪くなったり、自分が情けなくなったり。
それでも好きだと思う気持ちだけは変わらないのだ。
「帝人に、俺の心臓を持っててもらえたらなあ。」
そう呟く千景さんの鼓動が伝わってくる。
どくどくと、少しいつもより早く感じる、緊張してくれているのだろうか?
「どうしてですか?」
「そうしていれば、帝人が俺のこと嫌いになったら俺のこと簡単に殺せるだろう?」
瞬間、呼吸が止まる。
ひゅう、と、自分が息をのむ音が聞こえた。
すると千景さんが、嘘、と呟いて僕を抱きしめる力を強くする。
「嘘、そんなこと言ったら帝人が困るって分かってるから、大丈夫。」
何が、大丈夫なんだろう。
ねえ、そんなことどうして言うんですか。
貴方のことを嫌いになるなんてこと、考えられないのに。
それくらいに大好きなのに、愛して、いるのに。
泣きそうな顔をしていたのだろう、泣かないで、と言われる。
泣いてません、と答えると、でも泣きそうだから、と返される。
「だったら……、そんなこと言わないでくださいよ……。」
「うん、ごめん。」
だけど、と、千景さんが言葉を続ける。
「俺の心臓を帝人に預けて、そんで帝人の心臓を俺が持っていられたらなあ、ってやっぱり思っちゃう。」
どう返してよいのか分からなくて、ただ、そうですか、としか言えなかった。
でも、俺の心臓だもんなー、なんて千景さんはまた続ける。
「帝人がずっとそばにいてくれるなんてなったら、嬉しくてずっとドキドキしちゃうかも。
うるさかったら少し怒ってくれてかまわないし、嫌なことがあったら言ってくれてかまわない。
なあ、ハニー。帝人、帝人、帝人。ずっと一緒にいてくれるよな?いなくならないよな?
帝人の心臓をずっと持ってれば、俺が息の音を止めてあげられるのに。帝人が死んだらすぐに分かるのに。」
さらに強く抱きしめられ、骨が軋む音がする。
痛いくらいに抱きしめられた僕は、まるで十字架に磔にされたようなものなのだろうか。
そっと、顔をそむければ、まわりを包む夜の闇が広がる。
なんだかそれを見た瞬間に、僕らは恋に落ちて、溺れて、迷子になってしまったのだろうか、と思った。
大丈夫ですよ、と呟いた。
「僕はそんな簡単に死にませんし、千景さんだってそうでしょう?
ずっと一緒なんて分かりません。もしかしたら朝起きてみたら、千景さんは僕のことを嫌いになっているかもしれない。
でも、それでもいいんです。僕らが今こうしていることができるなら、それでいいんです。
この一瞬だけでも。僕は、満足です。千景さんは、ダメですか?」
「だって、もっともっと幸せになりたいんだよ。満足なんて。」
どれだけ愛し合っても足りない、と、囁かれた。
きっと、千景さんは僕よりも子供なのだ。
僕は、満足することを覚えてしまった分、彼よりも少しだけ大人なのかもしれない。
それでも、こうして恋に溺れている間は僕らはどちらも迷子の子供なのだろう。
もう大人にならなくちゃ。
迷子にならないように。
でも、それでも、もう少しだけはこの関係を続けてもよいだろうか。
迷子であることから目を反らして、盲目的なまでに愛し合ってもよいだろうか。
きっと、満足しているなんて嘘なんだ。
磔にされてもいいから、愛し合って構わないだろうか。
許しを乞うかのように、唇を近付ければ口づけをもらえた。
少しだけ、うるさかった鼓動が落ち着いたような気が、した。
もう少しだけ、後、少し、だけ。
作品名:六帝の日なのでろちみか詰め合わせ 作家名:るり子