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ドラクエパーティーのとある三角関係

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最近ゼシカの様子がおかしい。
やたらエイトを見ているような気がする。
いや、視線だけじゃない。あのエイトに対する態度はまるで……

………この超絶イケメン騎士の俺を差し置いてまさか。

馬車の隣を歩きながらククールはひとり黙々と考え込んでいた。
その視線の先にいるのはゼシカ―――数々の女性を落としてきた彼の現在のターゲットである。
今までにない凛とした美しさに、初めて出会った瞬間に狙いを定めた。

まずは再会の口実作り――――――聖堂騎士団の指輪をプレゼントする。
あのような負けん気の強い、強情な女性は十中八九受け取れないと指輪を返しにやってくる。
性格上、売っぱらったり捨てたりという事はまずない。自分の正義感に自信があるからだ。
案の定ゼシカはククールのもとに指輪を返しに――――――


返しに来たのは彼女ではなかった。
彼女と一緒にやってきた、すっとぼけた顔の男だった。


何故お前が持っているとククールはその男―――エイトを出会い頭にどつき倒したかったが、
ゼシカがいる手前取り乱すわけにもいかず。
結局、その場はそれどころではなかったので再度指輪を預ける形となった。
その後ひと段落した合間にエイトからそれとなく指輪を差し出されたが、
なにかもうどうでも良くなり勝手に使ってくれとそのままぶっきらぼうに突き返した。
あの美しい女性とお近付きになる口実に預けたというのに
何が悲しゅうて男から指輪を返してもらわなければならないのか。
救いなのは、まだもう一人のむさい男か妖怪ではなかった事だ。

 

…思えば、すでにあの時からおかしかったよなあ。
ククールはチラリと横目でエイトを見やった。

ひとりでは返しづらいので、エイトに一緒に来てもらった。
―――いや、それは単に一緒に行動しているからではないか。
付き返してやれとエイトに指図した。
―――単に顎で使われているだけではないか。
指輪はエイトが持っていた。
―――指輪をエイトに手渡しただけでは………………


………………

ちょっと待て。
なんだそれは。



「な、何?」
横目で自分の顔をじろじろと睨むククールの視線にさすがに気付いたエイトが怪訝そうに尋ねる。
「さっきから俺の事睨んでるよね……」
「おまえ、ちょっと話がある。」
えっ、という声を待たずにククールはエイトの二の腕を引っつかむと
踵を返して馬車の進行とは逆方向にすたすたと歩き始めた。
「あれ……ちょっと、エイト!ククール!どこ行くのよ!!」
「兄貴!?」
「しばらくそこで待っていてくれ!」
困惑するゼシカとヤンガスを置き去りにして二人はそのまま丘の影に消えた。


「いっ、いたっ…………いたいって!」
少し後方にある丘の段差まで無言で引っ張ってくると、ククールは壁に向けて軽くエイトを投げ放った。
うわ、と土壁間近両手をついて何とか激突はまぬがれた。
「ちょ……どうしたんだよ急に…」
「本当は何考えてる」
「は?」
エイトの言葉をさえぎって強く問いかける。いや、問いかけるというよりは
問い詰めると言った方が正解かも知れない。
その表情は冷静で特に怒りをあらわにした風ではないが、エイトはなぜ責められているのかさっぱり分からず
意味不明の詰問にただぽかーんと口を開けた。
「興味なさそうなフリをして、本当はどう思ってるんだ。」
「どうって…………何が」
「とぼけるなよ」
「だから何が」
「だからどう思ってるのかって聞いてるんだ。」
「だから何をどう思ってるのかと聞いてるのかって聞いてるんだよ。」
奇妙な押し問答が始まった。その会話にはまるで主語がなく、やれどう思っているだの何の話をしているだのと
一向に進展しない話が飽きもせず延々と続いた。
最中、話は少し日頃の生活態度のダメ出し方面にそれたが、やはりどう思う思わないの
しょーもない受け答えに帰ってきた。
「どこまでもすっとぼけやがってこの赤バンダナ、そういう所が気に入らねェ。
何なら今ここで勝負つけてやろうか」
「赤バンダナって……全身血祭りに言われたくないよ。
だから何の話なんだよ主語を言いなさい主語を!」
「ゼシカの事をどう思ってるのかって聞いてるんだ!」

ってるんだっ……てるんだっ……てるんだ………てるんだ……………



し――――――――――――ん。



暗闇を言葉尻がこだまする。
凍った空気と一緒にエイトも固まっていた。どんな主語かと思ったらすごい主語だった。
いろんな意味ですごい主語だった。
すごい主語は威力もとってもすさまじく、エイトは眉間にしわを寄せた状態で目が点になっていた。
その顔をセリフにするとこうである。

アホか。



「…………何とか言えよ」
「………………」
「しらばっくれもできなくなったってわけか。さーて、じゃハッキリしたところで言わせてもらうけどな、」
「………………ふっ」
エイトは思う存分脱力した後、ひとつ鼻で笑うとふつふつと沸いてくる何かを抑えながらゆっくりと腰に手をやり、
「勝負つけようか………。」
うなだれ気味に口を開いた。
「おっ?何だ、こうなったらやる気か?いいぜ。ブーメラン抜けよ」
ククールは数歩下がると、スラリと腰のレイピアを抜いた。疾風のレイピア――恐るべき剣速を誇る武器である。
それに続き、エイトもゆっくりと背中のブーメランに手を伸ばし………

伸ばしはしなかった。
丸腰で腕を組んだまま凛と立ちつくしていた。

「おい、おまえ、まさか俺の事ナメてるとか?」
「剣スキル100をナメるわけないだろ」
「だったら何だ、丸腰で勝てる勝算でもあるってのか、いい度胸じゃねえか」
「丸腰がどうのという問題じゃない。来い」
別にエイトの格闘スキルが100というわけではない。それどころか彼の格闘スキルはほとんど無いに等しかった。
にもかかわらずこの自信はいったいどこから来るのか。いくら元兵士といえども格闘スキルもなしに
素手でレイピアと渡り合えるとはとうてい思えなかった。ククールの顔が怪訝にゆがむ。
「ひょっとしてヤケになってるとか」
「ヤケだと思うならそれでいい。いいから来い。」
「……………………」