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独と露の話?(お題チャレンジ)

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魔法使いが雪国で不穏な話



「…見舞い?」
「あ、ああ、そうだ、その、少しでいいんだ。10分でも、いや、5分でも…
 強く言えない立場だということは理解している。頼む、頼むロシア…」
「−…うん、いいよ」
「…え?」
「心配なんでしょ?お兄さんのこと。お見舞い、来たらいいよ。来ても、いいよ」

ロシアがドイツの願いを受け入れたのには特に意味は無かった。
勿論、打算も計算も無かった。
ただ、厭うているであろう相手(つまりは自分なのだが)に頭を下げてまで頼み込むだけの理由を推し量ったとき、ちりりと胸の奥が焼け付くような感覚を思い出したから。
それは、極寒の冬の汚泥のような夜空の下、味わうためでなく、生きるために喉に流し込んだウォッカと同じ熱を持ってロシアの冷えた胸を熱く焦がした。
(わかるよ、家族と離れるのって辛いよね)
ドイツとその兄プロイセンは、先の大戦に負けた咎の一つとして、一つであった国を東西の二つに分かたれ、<東側>となったプロイセンは現在ロシアの管理下に置かれている。
戦争に負けた彼らに同情するつもりはない。
この戦争によって世界中が、勿論ロシアの家も少なくない被害を受けたのだし、負けた側がその償いをせねば戦争は終わらないのだ。
それを犠牲とは呼ばない。それは責任だ。だから、ロシアは戦争に負けて打ちひしがれる彼らに憐憫の情など欠片も催さなかった。
あの傲岸不遜のドイツが悄然と頭を垂れ、人の目も憚らず、東の雪国へ消えてゆく兄の背中に、涙ながらその名を呼び続ける姿に連合国の誰もが目を背けた時も、
ロシアだけはその雪よりも白く青ざめた頬にだくだくと零れ落ちる水流を眺めていられた。
後にアメリカには「君のハートはガラスじゃなくて氷で出来ているんだね。それも、ロシアの永久凍土の、さ!」などと白々しく揶揄されたりもしたが、ロシアからしてみれば
罪に罰を与えて、苦い顔をしている裁判官の方がよっぽど鋭利な心を持っているのではないかと思ってしまう。
罪に罰を与えられるのは当然だ。ただし罰は罪に等しい重さでなければならない。
そうでない罰を与えなければならないとき、裁判官はしかめ面をして、気付かない振り、見ない振りをするのだろう。
ドイツとプロイセンとを分けたことは、ドイツから軍国主義の象徴であり、つまり戦力を意味するプロイセンを奪うことで再びの戦火を防ぐという理由から必要な措置だった。
間違っていると思わなかったからロシアも反対はしなかった。
けれどそのプロイセンをロシアの管理下に置くことに、彼らは必要以上の理由をつけたのだ。
だから彼らは目を反らした。刑場に引き立てられていく罪人の罪が、それにそぐわないものであると思っていたから。
(全く、失礼にもほどがあるよね)
確かにロシアの家は極寒の地であり、人が生きていくだけのことが酷く難しい。
しかしここには多くのロシアの家族が生きている。この地に生まれ、この地に育つ命がある。
他の豊かな土地に育ったものには確かにどんな刑場より恐ろしい場所かもしれないが、それでもここはロシアの家だ。
安らかな寝床があり、暖かなスープだってあるのだ。
ロシアはプロイセンを甚振るつもりはさらさら無かった。
同じ家に暮らすことになった以上は家族になるべく努力をするつもりだったし、実際ロシアに出来る努力は行った。
それでも
それでもプロイセンが病みついてしまったのは事実で、それに対してロシアには少なからず申し訳ない気持ちがあった。
国の体現であるプロイセンが病みついた理由は、決してロシアの家の生への容赦ない猛攻のためでは無く、戦争によって下落した国力の表れで、
それはつまるところ自己責任であり、ロシアが気に追うべきところは何一つ無い筈であるのに。
プロイセン自身もそのことは自覚しているようで、病みついた寝床から、気休めに過ぎない看病をするロシアに投げた声は、責める言葉ではなく謝辞の言葉だった。
けれどその謝辞の言葉こそが、ロシアの心にとろりとした熱い何かを注いだのだ。
(可哀想だな)
その時初めてロシアはプロイセンに同情した。
そうだ、プロイセンは唯一の家族から引き離されてここにいるのだ。
例えそれがロシアの家でなくとも、彼の愛するイタリアの家であろうが、故国であるドイツであろうが関係ない。
彼への罰とは弟と引き離されたことであり、ロシアの家へやってきたことではない。
ただ、一人で暮らすにはどこもかしこも広すぎるのだ、この世界は。
ロシアは己の屋敷の閑散とした様を思い出し、重い溜息を吐き出した。
(一人は寂しいよね)
溜息は冷気に晒されて白く凍りつき、それでもふわりと宙に消えた。


だから、
だからロシアはドイツがプロイセンに会いたいと願うならば、叶えてやりたいと思った。
それは公には許されることでは無かったので、密かにドイツと連絡を取り合い、何とか人目を忍んで彼が兄に対面できる時間を作った。
そうでも無ければ生きてはこられなかったとはいえど、打算も計算も無く誰かの為に動くことは我ながら珍しく新鮮で、
そうして段取りを重ねていることを告げるたび、プロイセンが苦しい息の下からも微笑んで見せるのが、嬉しくも、照れくさくもあった。
(だって僕にはわかるもの。一人が寂しいってこと。僕の家は酷く寒いから、身を寄せ合う人もいないのは本当に辛いよね。)
(規則だから、まだプロイセン君をドイツ君の下へ返すことは出来ないけど、たまにこうして会うくらいなら、許されてもいいはず)
(それはきっと僕たちにとってのウォッカみたいに、プロイセン君を吹雪の冷たさから守ってくれる熱になるよね…)
いよいよドイツが訪れるその日、待ちかねたように約束の時刻ちょうどに鳴らされたチャイムの音に、ロシアはいそいそと広い家の冷えた廊下を歩いて玄関へと向かった。
「…ようこそ、ドイツく、ん…と」
勢いよく開けた扉の向こうに佇んだ人影は二つ。
「イギリス、君…?」
ロシアの家の冬の曇り空を当たり前のように背負って立つその人影は、ここにいる筈も無いイギリスだった。
「どうしてイギリス君が…?」
現状を把握できずぼんやりと目を向けたロシアの視線から目を逸らすドイツはその問いに答えるつもりは無いようで、口を硬く閉ざしたまま。
代わって口を開いたのは、イギリス当人だった。
「お前らのやってることなんかお見通しなんだよ、ばぁか。こそこそしやがって…プロイセンが病みついてるんだって?こいつらが会うことくらい、止めやしねえよ。まあ、監視はさせてもらうけどな」
「あ、そう…」
「たった二人の兄弟なんだ。…見舞いくらい、させてやってもいいだろ」
何故か照れ臭そうにそう言い放って、イギリスはフン、と鼻を鳴らした。
そのままそっぽを向いてしまったイギリスをフォローするように、ようやくドイツが口を開く。
「…すまないロシア、どこからか情報が漏れてしまったらしく…アメリカには反対されたんだが…、イギリスが、押し切ってくれたんだ」
「ああ、そう、なんだー…」
ドイツの瞳には、感謝と謝罪の色が浮かんでいた。
そのどちらが、どちらに向けられているのか、そんなことは本当はどうでもいいことなのだ。