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独と露の話?(お題チャレンジ)

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ドイツとプロイセンを対面させる、それが目的だったのだから。
ロシアは、しんしんと降り続ける雪の冷たさを、今日ほど感謝したことは無かった。
胸の奥に滴り落ちるように染みる熱を、ほんの少しでも彼らに悟られたくは無かった。


「あ、じゃあ早速だけど、プロイセン君のところに…」
「そうだな、あんま時間もねーし。部屋、どこだ?」
「この廊下の突き当たりの右の部屋」
「よし、じゃあ行くぞ、ドイツ」
「あ、ああ…」
ロシアが避けた隙間から、二人は家に入り込み、真っ直ぐにプロイセンの眠る部屋へと向かっていった。
ロシアの案内など必要では無かったし、おそらく今あの部屋の中でもロシアの存在は必要とされないだろう。
ロシアはぼんやりと玄関に佇んでいた。開いたままの扉から、隙間風と共に雪が舞い込むのを見ていた。
(僕の役目は玄関の扉を開けること…)
それだけだった。
さっきまで、この扉を開けるまで、確かに満ちていたもの、それが何かは分からなかったけど、それを失った今、ようやくそれがとても大事なものだったということに気がついた。
(…開けなきゃ良かった…)
この扉さえ開けなければ、魔法が解けることは無かったのに。
そう、魔法。まさしくそれは魔法だった。
どんな魔法がかかっていたのか、霧散した今となってはそんなことを考えても空しいだけ。
ただ失われたものが空けた大きな空虚に、冷え冷えとした風が通って、それが少し切なかった。
(でも、どんなお話でも、魔法が解けた後にこそ正しい姿があらわれるんだよね)
(だったら、そうか、これこそが僕の正しい姿)
(そうだ、だって僕はずっと、ずっとこうだったじゃないか)
(ずっと、一人だった…)
(ずっと、一人で寂しかった…)
本当は一人で寂しかったのは、可哀想だったのは自分だった。
だから、頼られて、励まして、そんな風に一緒にいられる関係が嬉しかった。
魔法のようだった。魔法のように鮮やかに、突然に、それは与えられた。
そして、魔法のように容易い切欠で消えていく。
(…これが、元通りの僕だ…)
魔法で作られた美しい夢を見ていただけだった。
そんなものを現実だと信じて、浮かれていただけだった。
(ばかみたいだ)
(ばかみたいだ、僕)
いつからか、お守りのようにどこへ行くにも手放さなくなっていた水道管をぎゅうと握り締める。
痛いほどに冷たいそれは、けれど確かな質量でもって現実感をロシアに取り戻させた。
最初は、これがあればどこででも水が飲めると思った。
それは魔法ではなく、確かな現実の力の作用だったのだけれど、それを知らないロシアには素敵な魔法のように思えたものだった。
今はもう、魔法の抜け殻、現実を映したただの壊れた水道管を、ロシアがそれでもずっと手放さずにいたのは何故だったのだろう。
わかるのは、結局自分は何も学んでいなかったということ。
自分は再び水道管を壊してしまったということ。
(もう、そんなことはしない)
空虚には慣れていた。自分でも気がつけないほど、その感覚は身体に染み込んでいたから。
でも、失う痛みに慣れたわけじゃない。
「おい、ロシア」
掛けられた軽い声に我に返ると、少し呆れた表情をしたイギリスが目の前に立っていた。
その後ろには、やってきた時の張り詰めた気配を失い、目元をうっすら赤らめたドイツも。
「…もう、お話終わったの?」
「ああ、オレも忙しいし、そんなに長くはいられねえしな。プロイセンも、あんまり長く話し込める容態じゃないみてぇだったし」
「…そっかぁ。もう帰る?」
「おう、邪魔したな。あ、ロシア」
「なに?」
「次に来るときは、茶の一杯くらい出してくれよな」
「…ハハ」
乾いた笑みを漏らすロシアに軽く手を振って、イギリスは開いたままだった扉から雪の下へと出て行った。
後を追うように歩を進めるドイツが、ロシアの前で立ち止まり重苦しい口調で呟いた。
「ロシア、兄さんを、よろしく頼む…」
痛切な願いがそこには篭められていた。
ロシアにはそれが分かった。
分かったから、酷く、憎らしかった。
「…うん、任せて」
それでも笑顔で彼らを見送ることが出来たのは、冷たい冷たい雪が降っていたからだ。
突き刺すような冷気が、開け放ったままの扉から家中を凍りつかせていたからだ。
二人の背中が灰色にくすんだ空と地面の間に小さく消えたのを見届けて、ロシアは重い扉を閉めた。
そしてしっかりと鍵を掛けた。
もう、扉は開かない。
もう、二度と魔法は解かない。

「バイバイ、」