いつもいつでも
5限目の終わりのチャイムが鳴った。
今度はちゃんと聞こえていたけれど、・・・二人とも何となくその場に留まっている。
二人でぼうっと風に吹かれている。
・・・さすがに月曜から2限連続でエスケープするのもなんだし、そろそろ戻らないとな、とは思うのだが。
今の空気が、すごく楽で。
何もしないでも、何も話さなくても、ただ流れるこの時間がすごく楽だ。
・・・さて、サボリを決めこんでいる間のノートをどうしようか。
遊戯はぼんやりと風の流れを感じながら、つらつらとそんなことを考えていた。
ちなみに理由を訊かれれば相棒諸共怒られそうなので、杏子には言えない。
・・・となると頼みは、獏良か御伽辺りか。
そういえば、この間、また何処かへ出かけていた双六が仕入れてきた、2人の好きそうなゲームも入ったことだし、あの辺でも手土産に押しかけてみようか。
相棒と、城之内といっしょに。
・・・あ。
タイムリミットの鐘が鳴る。
「・・・戻るか?」
「ああ、そうだね…」
のそのそ、と起き上がって不良学生2人はそれぞれ伸びなぞしつつ、階下へ。
給水塔から屋上に飛び降りた城之内は、ああ、と思い出したような遊戯の声に彼を振り仰いだ。
「・・・そういえば、君にはお礼を言っておかなきゃいけなかった」
お礼、言われるような事別にした覚えはないんだが。
「・・・何かしたっけ、オレ」
逆光が眩しくて、遊戯の表情はわからない。ただ僅かに笑っているような気はした。
重力を感じさせないほど軽く、トン、と小柄な身体が目の前に降り立つ。
「・・・相棒とやってたごちゃ混ぜデュエルの初戦のことさ。相棒が海馬のデッキ、オレがキミのデッキを使わせてもらった」
「そーだよ、それ!肝心のこと聞き忘れてんじゃん!!それで、結局どうなったんだ!?」
勢い込んで詰め寄ってくる城之内を一旦押し留めて、ちょいちょいと指先で呼ぶ。
僅かに屈んだ彼の肩を引き寄せて、遊戯は密かな声で耳元に囁いた。
小さく、小さく。
「ありがとう。いつも、助けてくれて」
思ってもいなかった不意打ちに完全に固まってしまった城之内から一歩離れると、彼は気取った仕草で片目をつぶり、すい、と優雅な動作で一礼を。
「これからも、よろしく」
いつも良く見せる不敵な笑みを浮かべる遊戯の傍らに、まるで空から泡が浮きあがるように、もう一つの影が揺らいで顕れる。
自分には見えるはずのないその姿に、え、と目を見張った途端・・・ほわり、と日溜りのような笑顔のもう一人の遊戯の姿が、ゆっくりと彼に重なった。
キィン
澄みきった高い音と、パズルに反射する光そのものを弾くような黄金色の輝きに目が眩んだ瞬間。
「…ボク、先に行くね。今日はありがと、城之内くん」
声だけを残して、遊戯はあっという間に階下に姿を消していた。
らしくもなく、その場を動けずに思わずその背を見送ったままになってしまった。
と、言うか・・・。
「・・・・・・反則だよなぁ・・・」
ぽりぽり、と照れ隠しに誰ともなく呟きながらアタマなぞ掻いてみたりするが、しばらく赤くなった顔色は引きそうにない。
さすがに2限連続でフケるのはマズイ気もするが、そんな事はすぐどうでもよくなった。
取り合えず。
また、定位置の給水塔のところまでよじ登って仰向けに寝転がると、皆が様子を見に来るだろう放課後まで。
さっきの、遊戯に返すべきさっきの”お礼”とやらの返事を検証してみることにした。
・・・返す答えは、もう決まっているけれど。
END