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犬飼いたい!

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「やべぇ、……なぁ、なぁ可愛いよな、半兵衛?」
「否定はしないけど僕に言ってどうするんだい」
 慶次くんがどうしても付き合ってほしい用事があると言って駄々をこねるので、秀吉に頼まれた仕事を徹夜して必死になって終わらせたのに、次の日である今、僕たちはショッピングモールに来ていた。
 で、買い物に付き合わされていた。
「いや、半兵衛だから馬鹿にされるかと思ったよ。いや、俺も飼いたいなぁと思ってさ」
「そう。というか今度から一人暮らしするんだろ? だったら飼えばいいじゃないか」
「う、ん。……そうなんだけどさぁ」
 頬を掻いて誤魔化すようにする慶次くんは、不明瞭な発言をしながら犬が入っているプラスチック張りのケージを眺めていた。
「別にどうでもいいけど、一人暮らしに必要なものを買うのに付き合わされていた僕の気持ちにもなりなよね!」
「だって半兵衛しか頼れないんだよ。後でなんか奢るからさ」
 しゅん、と慶次くんは顔を俯かせていた。まるで目の前にいる子犬のようだ。決して可愛さのカケラもないのだけど。
「ところで慶次くん」
「な、なに半兵衛」
「君はどこに住むとか何畳間だとか決めたのかい?」
 家具が欲しいと、かなり前から一人暮らしがしたいと駄々をこねていたものだから、詳しく決めているのでは、と思い問い掛ければ慶次くんは曖昧な笑みを浮かべてから携帯を取り出していた。
「きっと、まつ姉ちゃんが説明する方が手っ取り早いから……」
 慶次くんは相も変わらず仲が良さそうに話していた。小猿のようなストラップがゆらゆらと揺れている様を眺めて、なんだか憎めない可愛さがあるなと思いつつ待っていれば、携帯をこちらへ押し付けられる。
「はい」
『久しぶりでございまする。今日は付き合って貰ってるという事はまつめの用件を飲んでいただけたのですね!』
 目をキラキラ輝いているまつさんが脳裏に浮かんだ。というか少し待て、なんだ用件って!
「……は? 僕は慶次くんからそんな事一切聞いていないんだけど」
『全く慶次は駄目な子でありますね。……慶次が一人暮らしには怖いものがありまするから、誰かと二人以上にしろと言ったのですが。半兵衛殿がよしと言って下さったからだと思って喜ばせて頂きました』
「ちょと待ってよ。僕は許可した覚えなんてないよ!」
『あら、どうしましょう。もうお祝いの料理も作ってしまったというのに!』
 そんな事を言われるものだから隣にいる彼を恨みがましい眼差しを送れば、完全に目を逸らされてしまった。
「え、あの……一言もいいなんて言った覚えは、」
『ならば、いま内容をお伝えいたしました。今考えていただけませんか?』
「…………そう、いきなり言われても今の家に来られたら困るよ」
『こちらで部屋は調べておりまする。家賃は前田家が全額を払いますゆえ』
 この女性は良妻賢母の皮を被った悪魔なのではないだろうか。二人暮らしを拒否する材料をことごとく失ってしまった気がする。どう断ろうかと悩むのも面倒だし、自分だってそこまで裕福な生活をしていないものだから、家賃ただには惹かれるものがあった。
「……そこまで考えているのなら反対する理由がないよ、ルームシェアは賛成だ。ところで部屋はどれくらい広いんだい?」
『相変わらず現金なお方でありまする。……詳しくは慶次に話してあるので聞いて下さいまし』
 ぶち、と切られたので携帯を返せば彼は嬉しいのか、目に涙を溜めながらこちらを見ていた。まるで犬のような男だ、それ故に苦手だともいうのだが。
「……全く君は勝手になにをしてくれるんだい」
「いや、……その。ごめんな半兵衛?」
「一緒に住むのは許可しちゃったから、もうつべこべは言わないけど暫く家事は君がやりなよね!」
 慶次くんはどこか困った顔をしながら、僕の頭を撫でてきた。年は変わらないというのに、どうしてここまで背に差があるのだろうと、産み落とした両親に恨みさえ覚えた。
「そんなの俺に任せてよ半兵衛。……じゃ、早く買い物して帰ろうよ」
「そうだね。ところで何を買うんだい?」
「えーっと、そう。これかな」
 彼は思い出したかのように派手な色をしたパーカーから紙切れを取り出して、こちらに見せてきた。電化製品にベッドや棚といった大型家具など、ないと生活出来ないような小物の雑貨類が一覧で書いてあった。
「まぁ、必要最小限な感じがするよね。……とりあえず隣に隣接している組み立て家具屋に行こうか」
「ん」
 慶次くんは僕の腕を引っ付かんで左右に揺らしてきた。目は嬉しそうに笑っていて、怒る気を完全に萎えさせてくれる。
「まぁ、洗濯機とか冷蔵庫とかは、僕の持ってるので充分だと思うけどまた新しく買うかい?」
「そうだなぁ……いっその事、まつ姉ちゃんの金だし全部新品にしようよ」
 最新型にさ! という彼には血が繋がってない癖にまつさんと同じ香りがした。





「買い物終わったぁ……」
「全く、面倒だった……」
 家具から電化製品、生活雑貨まで買い物を終え、全てを新築への郵送手続きを終えた頃にはへとへとに疲れていた。
「半兵衛」
「なんだい。まだ買うものでもあるなら、とっとと言いなよ」
「…………犬、飼いたい」
「はぁ?」
 問答無用で蹴り飛ばしたい衝動に駆られた。あぁ、なんでルームシェアなんて認めてしまったのだろうかと、物凄く後悔しながら肩甲骨の下を拳で殴れば痛いなぁ、と冗談まがいに言ってくる。
「だって、可愛いじゃん。犬」
「可愛いと思うだけで生き物を飼うから捨てる人が増えるんじゃないか!」
 ショーケースの前で言い争っていれば、店員の方がこそこそと近付いて来た。
「俺だってその位はわかるって! ……ほら、こんなにも可愛いじゃん」
 店員の付けているエプロンのポケットに二匹寄り添っている犬を目敏く見つけた彼は、許可を取って抱き締めていた。焦げ茶色をした犬と焦げ茶色の髪をした慶次くんが僕を見つめる。
「う……。で、でも部屋がペットOKかわからないし、そもそも君のお姉さんが駄目というと思うんだけどな!」
「姉ちゃんならさっきの電話で許可取ったし、部屋も大丈夫だってさ」
「……でも僕達は大学生だよ? お金も無いだろうし」
「犬は愛着があるから、困ったら金出してくれるって」
  なんだか断る理由が思い付かなくて、触ったら負けな気がしつつも手を伸ばして犬の頭を撫でてやる。嬉しそうに目を細める仕草は人が辿り着ける訳もない可愛さを持ち合わせていた。
「……。慶次くんが、世話するなら構わないけどさ!」
「あの……!」
 店員さんが遠慮がちに声を発してきたので、それまで存在を忘れていた彼女に慶次くんが首を傾げると、嬉しそうな表情をしていた。
「この子、気に入りましたか?」
「凄く可愛くて、たまらないよ」
 喉元を優しく撫でてやれば、腕で丸まってる犬は気持ちよさそうに目を閉じている。
「ヨーキーって種類のワンちゃんで、大人になっても三キロ位にしかならない子なんですよー」
作品名:犬飼いたい! 作家名:榛☻荊