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ふたり

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「あんたたち、ほんと仲いいわねー」
食堂でチキンカツ定食を食べながら、向かいに座ったゆりがしみじみと言った。
「そうか? こんなもんだろ」
「いやいや仲いいって。なあ、親友!」
日向は腕を回してがしっと音無の肩をつかんだ。
「ちょっ、こぼれるだろ!?」
取り落としそうになった味噌汁の椀をトレイに置いて、音無は「親友」をにらむ。
ゆりは「ほらね」と人差し指をゆらした。
「なんていうの、あんたたち見てたら犬がじゃれあってるみたい。ゴールデンレトリバーとか。そんなに頭よくないみたいだけど」
「俺たちがアホだって言いたいのか!」
「俺をくくるな俺を」
「んー、音無くんはレトリバーかもね。日向くんは…何かしらね…犬の方が頭がいいと思うからやっぱり今のたとえはなしにするわ」
「ゆりっぺ…おまえってやつは…俺との友情はどうしたっ!?」
「そんなもの最初からあったかしら」
熱くなる日向に対してゆりはほおづえをついたまま、面白くなさそうに言った。が、次の瞬間にっこりと笑うと、椅子の上に膝をつき、手を伸ばして日向の頭をわしゃわしゃと撫でた。音無はゆりの姿にぎょっとした。あんなに身を乗り出したらパンツが見えるんじゃないかとか、胸が重たげに揺れているのを見てやっぱり大きい方だとか考えてしまう。
「手触りはいい方かもね~」
「わっ、こらっ」
「よーしよしよし」
口では止めるが、日向はまんざらでもないようだった。ひとしきり髪の毛をぐちゃぐちゃにして、ゆりは満足したらしい。日向の髪の毛を手櫛で直してやり、席に戻った。
「俺にはお前らの方が仲良く見えるけどなあ」
「そりゃそうでしょ。ずっと一緒にやってきたんだもん。でもやっぱり男の子同士の友情っていいわよね。子どもっぽいというか単純というか」
「つまり、俺たちは馬鹿にされてるんだな」
「うらやましい、って言ってるのよ。馬鹿ね」
ゆりは立ち上がると、ひらひらと手を振った。「その食器、悪いけど返しといてちょうだい」
「おい、ゆり――」
「作戦は当分なし。自由行動よ」
ゆりは振り返らずにそれだけを言うと、すたすたと食堂を出て行ってしまった。
「なあ日向、なんかあいつの様子おかしくなかったか」
「そうか? 俺たちの友情に嫉妬してただけだろ」
「ちょっと違う気が…」
「ま、ちょっとナイーブな女心ってやつじゃねえの」
「うーん…」
心配そうに眉をひそめる横で、日向はカツ丼を豪快にかっ込んだ。
作品名:ふたり 作家名:紙のサイズはA4