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ふたり

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作戦室に戻り、ゆりはいつもの席に腰掛けた。校長の机と椅子だ。机の上に足を載せ、交差させた。腕を上げて大きく伸びをする。
作戦室には誰もいない。オペレーションがなければSSSのメンバーは基本的に好きなことをしている。それでいい。SSSに所属していてやってはならないことは「模範的に学校生活を送ること」。今、わかりうる限り最大の「消滅」のファクターだからだ。
部屋の中は徐々に薄暗くなっていった。日が落ちる。この世界では時間が規則的に流れる。雨の日もあれば曇りの日もある。NPCでさえ授業をほっぽり出して外に出かけたくなるような快晴の日も。しかし、季節についてはよくわからなかった。あるような気もするし、ないのだとも思えた。例えば、ゆりがここに来てから雪の日があったように思えるのだが、その日をどういう風に過ごしたかどうかは覚えていない。滅多にないことなのだから記憶に残っていてもいいはずである。しかし、「そういえばそんなこともあった」くらいにしか思えず、他のメンバーに聞いても「あったんじゃないか」と誰も明言できないのだった。
ここに来てから学校では、何度も期末テストがあった。球技大会があり、文化祭があった。もしかしたら、修学旅行もあったのかもしれない。ゆりが参加していないだけで。
しかし、そんな出来事はゆりにとってはなんの意味もない。
授業を受け、何かを得て、友達と時を過ごし、消えてゆく。
その行為に、自分が生きた意味を見出すことが出来るのだろうか。
ため息をついて、ゆりは机から足をおろした。椅子を引いて、机にほおづえをつく。
ここで何もしていないことは、授業に出ているのと同じ事じゃないかと時々思う。
少しでも目的に近づくために、何かをしなければならないのではないだろうか?
一人で過ごしていると、全てが無駄のように思えてくる。無駄ではない、と打ち消す力が今はわき起こらない。どこか、胸の奥ででも眠っているのだろう。
「こわいこと。眠ったら二度と起きないこと。消えてしまうこと」
拳をたたき込むためにはまだ、存在していなければならない。
がちゃり、とドアが開いた。顔を上げると、日向が入ってきた。
「暗いなー。電気くらいつけろよ」
「一人で考え事していたのよ。暗くても問題ないわ」
「俺は明るいのが好きだから」
日向はスイッチを押して作戦室の明かりをつけた。一瞬にして、明るくなる。ゆりはまぶしさに目を細めた。
「音無くんと一緒じゃないのね」
「いつも一緒ってわけじゃねーよ」
日向はソファを手ではたくと、腰を下ろした。ゆりは組んだ手の上に顎を載せながら、その一連の動作を見ていた。
「ねえ。今、どうしてソファをはたいたの? 掃除してるからキレイよ」
「はたいたらふくらむだろ。クッションとかも座る前にたたくのと一緒」
「日向くんって時々かわいいわね」
素直に感想を述べると、日向の顔は一瞬にして真っ赤になった。
「は、はあ!? お前、そりゃどういう――」
「あ、でも、好きとかじゃないから安心して。私、日向くんには恋愛感情抱けないみたいだから」
「すごい同情するような目で言うなよ…よけいハートが傷つくだろ…」
「つらいことがあったらいつでも言って。窓の外から落としてリセットしてあげる」
「痛いだけだ! この世界じゃ!!」
日向は叫ぶと、ソファの上にごろんと転がった。靴を履いたままだ。注意しようと眉をひそめて口を開くと、気がついたのか、器用に足を曲げて靴を脱いだ。
ゆりは知らず知らず、微笑みを浮かべていた。こういうところは行儀がよいのだ。
「そうよね。死ぬ事ってリセットにはつながらないわよね」
「ここじゃ、いったん機能停止ぐらいにしかならないだろ」
「でもすかっとするんじゃない? 起きたとき、生きててよかったーって気分になるんじゃない? 私、あんまりここじゃ死なないからわかんないけど」
「アホか。痛いだけで気持ちよくねえよ。気持ちよかったらマゾ…ていうかただのヘンタイじゃね?」
「でも、終わらなかったのよ。連続しているの。それを感じる事って喜びにつながるんじゃない?」
「俺はアホだから難しいことはわからん。音無にでも聞いてくれ。あいつ、頭はよさそうだからな」
日向は寝返りを打ってうつぶせになった。この話はこれで終わり。そういうように、足をぶらぶらさせた。
ゆりは日向から視線を外し、天井の明かりを見つめた。煌々と輝いてゆりたちを照らす。
ここはいびつな世界。どうやったら、ここを打ち壊すことができるのだろう。この場所から、神の胸ぐらをつかむことが出来るのだろう。
規則正しく夜がきて朝がくる。季節はめぐらない。めぐったとしてもそれは悟れない。ルールを適用させようとする天使。彼女と戦うことでしか手がかりが見つからない。
どうやったら、どうやったら、どうやったら?
「堂々巡りとはこのことね」
つぶやくと、むくりと日向が起き上がった。ソファから降りて、こちらに歩み寄る。そしてゆりの側に立つと、手を差し出した。
「何? 食べるものなんて持ってないわよ」
「お前なっ。俺がどんだけ意地汚いんだよ!」
「いきなり手を出されても困るでしょ。ねだってないならなんだっていうの」
「手、出せよ」
「はい、どうぞ。これでどうするの?」
日向の手に自分の手を重ねると、ぎゅっと強く握りしめられた。そのまま引っ張り上げられ、無理矢理立たされる。
ゆりは思わず身体を反転させると、机に日向の身体を押しつけ関節技を極めた。
「痛、いたたっ。ギブ、ギブ! 肩が外れるっ!」
「あらっ、ごめんなさい。つい反射的に」
ぱっと身体を離すと、日向は涙目になっていた。が、暴力をふるわれたことには文句を言わず、ソファを指さした。
「こんなところで一人で座ってないで、あっちに行こうぜ」
「はあ? あなた、何言ってるの?」
「だーかーら、一人でここに座ってるより、ソファで誰かと座ってる方がいい考えも浮かぶかもしれないだろ!?」
「…………」
日向は一人でソファに座ると、自分の隣をぽんぽんとたたいた。
「ぼーっとするだけでも、一緒にしたっていいんじゃね?」
ゆりはまじまじと日向を見つめた。日向はそっぽを向いている。しかし、首筋も耳も真っ赤だった。
「そこ、私のためにふくらませてくれたの?」
笑いをにじませて尋ねると、「おう」と短く声が返ってくる。
「じゃあ、座らないわけにはいかないわね」
「ありがと」と口の中でつぶやくと、日向の隣に座った。
身体がソファの中にゆっくりと沈んでゆく。思いがけない座り心地の良さに、少し嬉しくなり、ゆりはソファの背に思い切り体重をかけ、両足を組んだ。
今は、この瞬間だけに意味がある。

「あ、変なことしないでね。次は容赦なく極めるから」
「誰がするか!」
作品名:ふたり 作家名:紙のサイズはA4