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アグニは焼き切るための手を差し出したのか

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腹の底から、黒い激情が這い上がって来る。立ち上るようにしとしとと内心を濡らす雨粒のように、そしてはじけてどろりとした体液を吐き出した。体が凍えるように震える。何とも判別の付かないものに支配され、大声で怒鳴り散らしてやれたらどんなにいいかと考えた。握り締めた手が仄かに熱い。反して、静けさが蔓延る庭では紫陽花が雨露をきらめかせていた。

「どういう意味だ。」

勤めて穏やかに出した声は僅かに低かった。
シカマルは応えるのさえ面倒らしく、肩をすくめて手元の本をたたみ始める。

「答えろ。」

ナルトの追い詰めるような言い草にシカマルは億劫そうに溜め息をはいた。
蝋燭の光がシカマルの顔半分を照らしている。夜闇に延びた影が形も無く滲んで沈んでいた。

「じゃあ、聞くが、お前こそなんなんだよ、いったい。いきなり殺気なんか飛ばしてよ。」
「煩い。俺の質問に答えろ。」
「応えたらどうすんだ。」
「そんな事、お前に言う必要ない。」
「そうかよ。」

シカマルは呆れた眼差しで本をたたみ終えると関節を伸ばし始めた。
どうやらナルトに応える気は無いらしく、首を摩りながら肩をもんでいる。
腹の底から、黒い激情が這い上がって来る。殺してやると、低い呻きが殆ど無意識に口から漏れた。苦無を握る手に力を込めシカマルを見やる。温度を感じさせない黒い瞳がナルトを品定めでもするかのごとく眺めた。何処までも透き通ってビイドロのようなそれに、内心を腹の底から見透かされている気がして、ナルトは寒気のような不快感に襲われる。もう一度、殺してやる、と低い呻きがもれる。それが自分の身を護る手段であるのだとナルトは気付いていた。

「何がわかる。」

はき捨てた低い唸りはまるで獣のように空気を振るわせた。耳の奥で、殺した男の声が響いている。お前に意志はあるのか、お前は何だ、攻めるように急き立てられて、ナルトは浅く呼吸を繰り返す。

「さあな。」

シカマルはの言葉は明確で単純だ。そしてこれ以上関わるつもりがないと言う一線を示唆し、冷静に眺めている。気に入らない。
薄明かりはそろそろと手を伸ばす暗闇からシカマルを守るかのように、うっすらと広がっていた。ナルトは唇を噛み締める。少しだけ冷静になった理性が、こいつと関わっても何の価値も意味も無いと語りかけてくる。
相変わらず苦無から手を離さないまま唇を引き結び、一度シカマルから視線を外した。
そらした視界にに入った肩に、くっついていた枯れ葉を払うと、少しだけ傷めた箇所がピリリと痺れる。
それに目ざとくも気付いたのはシカマルだった。少しだけ眉を顰めて声を上げる。

「ナルト、お前、怪我でもしてんのか。」
「俺の名前を呼ぶな。てめぇには関係ねぇことだ。」
「…怪我、してんだろ」
「煩い」
「おい、ナル・・・」
「馬鹿にするんじゃねぇ!お前に何が分かるってんだ!」

叫んだ声がむなしく響いた。綯交ぜになった全ては形も無く、ナルトの口から零れていく。寒いと指先が震えている。
言葉を中断させられたシカマルは、肩を振るわせるナルトを静かに眺めた。

「……知らねぇし、分からねぇよ。」

響いた声はなぜか穏やかで、ナルトを真正面から見る目は相反するように哀しげだった。

「けどな、知られたくないのはお前のほうじゃないのか。」
「煩い!!」

ナルトは振り払うように声を荒げた。
しかしシカマルは動く気配なく立ったままナルトを見下ろしている。ナルトはしばらくその場に立ち竦み、どれ程の後かくるりと向きを変えた。
決して傷つけるなと言われている、それは火影の命令で、火影は絶対だったからだ。それを逃げ道にしているかどうかさえ、今のナルトには分からない。
冷静な理性がそっと促すままに中庭に背を向け、そのまま数歩歩いた時だった。後ろでシカマルも動く気配があり、ナルトは少しだけ安堵する。肩越しに振り返ると、ちらちらと蝋燭の光の中にシカマルがいた。ナルトは前を向く。一歩、踏み出した時だった。


「お帰り。」


声は、間違いなく先程まで聞いていたシカマルの声で、釣られる様に振り返る。けれどそこにシカマルの姿は無く、蝋燭の明りの名残さえも無い。暗闇だけが居座り続け、艶やかな紫陽花はやはり美しいまま時間の経過を感じさせなかった。それを理解すると同時に、空洞が開いたような虚無感に襲われる。
ナルトは舌打ちをした。畜生、と呟き苛立ちに任せてぬかるんだ地面を蹴り上げる。飛び跳ねた泥が染みを作り、ナルトは唇をかみ締めた。

(こんな感情、望んだ覚えなんてない。)

凍えるように震える手を握り締めて、ナルトは強く目を瞑った。