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覆水盆に返ることもある

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「……もし、俺の体が丈夫だったら……、誰も失わずに済んだのかな」

アスベルはベッドの上で泣きそうな顔をして、呟いた。

それが、ヒューバートの見た最後の兄の顔だった。



あの事件から七年の年月が流れた。


養子に出されたヒューバートはあの後、兄であるアスベルがどうなったのかは分からない。

ただ、風の噂で家を飛び出し、騎士宿舎で生活していると聞いた。



(……あんな体で、騎士になんてなれるはずがない)



そう、ヒューバートは思っていた。

昔から体が弱く、そのくせ好奇心旺盛でよく屋敷を抜け出して怒られていた兄だった。
あまりの病弱体質に、家督は自分が継ぐモノだとヒューバートは思っていた。

しかし、父はアスベルを跡取りに選びヒューバートを養子に出してしまった。
長男に跡を継がせたいという父の一種の執念なようなモノを感じたし、跡取りに据えることでアスベルに生きる目的を与えようとしたのかもしれないが、養子に出されたヒューバートからすれば、もう関係のない話だった。

そんな昔のことに少し想いを馳せながら、ヒューバートは七年ぶりに同盟を結んだラントへと隊を進めるのだった。