闘神は水影をたどる<完>
新たな王女ベルナデット誕生の祝賀の夜に、オベル王国第一子フェリド・イーガンが出奔した。誰ひとりとして姿を見た者も、事前に知らされた者もおらず、オベル王スカルドの怒りは烈火の如く王邸中を吹き荒れたという。父王の怒りぶりを目の当たりにし、一個艦長らはそのあまりの剣幕におそれおののき、自ら海兵長の出奔に関して口を噤んだ。その流れは一等兵、二等兵へと続き、もともと彼を慕っていた下等兵たちは無責任な憶測を口の端にのぼらせなかった。
王子出奔のひと月後、混乱の露を払うように大々的に昇任式典が執り行われた。サルガン・ラシフロウが第三大艦モノセルノの一個艦長に着任、前艦長は軍費着服の疑いで罷免。リグド・イーガンが海兵長に就任した。
フェリド出奔の数ヶ月以上前の刻印が押された任命書が、大いに話題を呼んだ。
そもそも海兵長としての業務を他人任せだったフェリドの怪我の功名か、新たな指揮官のもと、海兵統制は瞬く間に一新され、さまざまな錆が削ぎ落とされた。
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作品名:闘神は水影をたどる<完> 作家名:めっこ