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闘神は水影をたどる<完>

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「我が君に炎の紋章をお使い頂き、空に火の玉を浮かべる取り決めになっております。しかし吾輩、本日は空も血眼になって探しなんだが、皆目」
 フェリドははたと言葉を切って、額を擦った。
 サルガンが思案顔で口を開いた。
「気を失わせられているうちにどこかへ閉じ込められたのでは。自由に動けなければ、合図を出したくても出せない筈です。牢の連中から拠点を聞き出します」
 ガレオンは悔しそうに歯噛みした。実直な彼は片時も主君の側を離れる気はなかったのだろう。噛みつきたいのは自分自身の失態にほかならないのが見て取れた。
「いや待て」
 振り上げられた逞しい腕に遮られ、三人はそのまま動かないフェリドを見つめた。
「心当たりがある。ここへ戻ってきたとき、俺は東の防風林に火の玉を見た気がする」
「まことにございますか」
 天からの恵みを一身に受けたようにガレオンの表情が輝いた。一方で、兄を心底侮蔑した表情になったのはリグドである。
「お言葉ですがフェリド殿。『気がする』程度の情報を根拠とされてはかないません。連中を尋問してからの出発が最短の道だ」
「なんで遅くないなんていえる? アルが重傷を負っていたらどうする」
「貴方こそ何故一国を預かる者としての目で物事を見ない。これを皮切りに事態がどう転ぶか、常にそこまで考えてから行動を取る。俺たちはそうすべきなんです」
「リグド殿」
 サルガンに低く窘められ、リグドは興奮にこめかみを震わせたままガレオンに頭を下げた。その赤い頬筋を見つめながら、フェリドは苦い微笑みを微かに浮かべた。なんとも拭い難い沈黙が場に降りる。
「リグド、意気地のない兄ですまん」
 リグドは拳を握った。それは客人の前で振るわれることなく、彼の腿に強く押しつけるに留められた。
「サルガン、牢の連中から情報を洗いざらい聞き出せ。方法は任せる。拠点を割り出したら念のため信号弾を上げてくれ。ガレオン殿、待たせた。さあ行こう」
「しかし、リグド殿の謂いこそが正論です。ここは吾輩ひとりで参ります」
「友人を助けるんだよ」
 あと馬も返してもらわんと、とフェリドは常のように飄々と付け加えた。先程までの苦い面持ちはどこ吹く風である。渋るガレオンを引っ張り出すようにしてフェリドは飛び出し、残されたふたりはその荒々しい足音が遠ざかるのを黙って聞くばかりだった。

作品名:闘神は水影をたどる<完> 作家名:めっこ