Necrophobia
自宅アパートに戻った静雄は取りあえず臨也をベッドに横たえた。ガタガタ震えたままの臨也は完全に前後不覚の様子で。
荒々しい呼吸と赤らみ苦痛に歪む顔、額には汗が滲み、そのくせ相変わらず さむい を繰り返している。
静雄は不安になりつつも、大げさな事、救急車を呼ぶのはよしておいて、神羅に電話をする。
「あれー静雄から電話だなんて実に青天の霹靂といった事態だね、一体どうしたんだい?」
「…それがよぉ、ノミ蟲が…何か変なんだ…」
「え?臨也が?彼の事を今更静雄が変だなんて」
「なんか、ずっとさむいさむいって、意味わかんねぇんだけど…」
神羅は少し緊張した声色の静雄に興味が湧いていたが、その事には触れず、
「熱でもあるんじゃないのかな?静雄の自宅かい?」
「不本意だがそうだ。今寝てるんだけどずっと震えてて…」
「わかったすぐそっちへ向かうよ。じゃあね静雄。いいよねセルティ?」
話を終わらせながらセルティに確認を取る声がして、そのまま電話は切れた。
「…さ、むい、シズ、ちゃ、ん」
瞼は閉じたまま臨也がうわ言のように静雄を呼び、静雄は部屋を暖めようと暖房の温度をMAXまで上げ、ベッドのすぐ横に腰を下ろす。
立っていた時は気にならなかった臨也の苦しそうな呼吸が丁度耳に入る高さになり、静雄は何も出来ずにただじっと臨也を見つめた。
その間も咳き込む臨也がいつもの彼には到底見えず、すっかり弱りきった目の前の男にただ不安を募らせた。
「さむ、い、さむい、さむいよ、シずちゃ、ん」
(たのむから さむい って言うなよ臨也。何だよ、やめろよ さむい はやめろよ)
静雄は恐る恐る臨也の赤らんだ顔に指を触れる。
「…あっつ、い…」
苦しそうに眉をひそめ、一瞬ゆっくりと目を開けた臨也が、無理に微笑んで「シズちゃ…」とだけ言いまた目を閉じた。
「い、今神羅呼んだから、も少し我慢しろ」
ようやく出た言葉がそれで、そして静雄はそれ以上は何も言わなかった。
言えなかった。
作品名:Necrophobia 作家名:あへんちゃん公爵