Necrophobia
暫くそうしていて、気を抜いたせいだろうか、臨也はくらりと眩暈で脱力してしまう。意識は朦朧だ。
「っつおい!」
ぐらりと倒れこみそうになった臨也の肩を背後から掴み、様子を窺う。
「…い…、シズちゃ…さ、むい…さむ、い…さむい…」
急にガタガタと肩を震わせ、擦れた声で さむい と繰り返す。
声は震え、表情は見て取れなかったが、きっと苦痛で歪んでいるだろう。
(さむいさむいさむいさむい・・・?寒くなったら死んでしまう…さむいって繰り返すと…やべぇ…)
もちろんそんな事は無いが、一瞬で祖母の臨終がフラッシュバックし、静雄は恐怖をおぼえた。
殺しても死なないはずの臨也がすっかり弱りきって さむい と繰り返す。
「きゅ、救急車」
と携帯を取り出そうとしてポケットを探った。
「お、大げさな…こと、やめて、よね、シズちゃ、んはぁはぁ、病院は、いい、から」
そうは言っても、臨也の身体は震えっぱなしで、奥歯がガタガタ言うほどだった。
そうしてまた さむい と、うわ言のように繰り返す。
(やめろ なんだよ 寒いと死ぬんだぞ…)
静雄はおもむろに臨也を肩に担ぎ上げて、自分のアパートへと足早に向かう。
「さむい、さむい、さむ、い、さ、むい、さむい、さむ」
「少し我慢しろ臨也」
静雄は祖母が無くなった夜の冷たい廊下を思い出していた。このまま寒いと言い続ければ臨也も死んでしまうのか。
勝手知ったる池袋の街を、自宅への最短距離でとにかく急いだ。
作品名:Necrophobia 作家名:あへんちゃん公爵