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思考するしかばね

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雨が降っていた。ひどく冷たい、刺すような雨だった。
まるであのときの雨のようだと一瞬思ったけれど、すぐに首を振って打ち消した。
今、僕の頬を打つ冷たくて大粒のそれらはひたすらに冷たくて不快でしかないものだ。
・・・あのときの雨は違った。瞬間、僕は過去に思いを馳せた。
「音無さん・・・」
呟く声は、誰にも届かず雨音の前に掻き消える。







最初はあのふざけた性格をした日向という奴だったか。記憶に遠くてよく思い出せない。
ともかくそれは唐突に始まった。月に三、四人程度の割合で戦線のメンバーが消えていく、という今までになかった異常事態。消えるのだ、死ぬのではない。満足して、消滅するのだ。
ピンク髪のチビ、メガネ、無口な女・・・次々と消える戦線メンバー。後手にすら回れず、そのうちに次は自分かと怯える顔も増えてきた。
やはり天使、立華奏が何かしたのか?
確かめるために。そう言ってミッションを提案したリーダーに、自分から天使に近づく役をかって出たのは音無さんだった。
「・・・気をつけて」
「あぁ」
リーダーとそんなやり取りを交わした音無さんが監視を始めて一月程が経過した。それでも何も、掴めなかった。
音無さんと日々を過ごす立華奏は、音無さんが「無害だ」と主張したあのときの彼女のように穏やさを纏っているように僕の目には映った。こちらから攻撃を仕掛けているわけではないからその対応は当然といえば当然であるのだが、なぜか酷く気になった。
それに加え、昼は仲のよいクラスメイト、夜は敵同士となる音無さんと立華奏の切り替えは、自然すぎるだけに不自然に映る。
確かにそれは音無さんを消滅させないためにリーダーに指示されてのことだったが、それにしたって。あの優しい音無さんが、一時でも懐いた子猫に銃を向けるだろうか?
一滴。感じた違和感はやがて疑念に変わり、波紋を呼び起こす。
「音無くんを、監視なさい」
これが違和感を始めて感じた次の日、単独でリーダーに呼び出された僕が受けた命令だった。
何も言わず頷いた僕に、リーダーは苦い顔のまま笑った。何かを察してくれたのか否か。なんにせよ命令があるのなら好都合だと、僕は脳内ですぐさま監視計画を組み上げた。



更に二月が経過したが、動きはなかった。立華奏にも、音無さんにも。
リーダーには「貴方の判断で監視をやめてもいいのよ」と言われたが、僕は監視を続けていた。
動きがなくとも、違和感は変わらずそこにあったからだ。


ゆえにその日、僕は目撃することになった。
崩壊するはずのない世界の一片が、ほろりとあっけなく欠ける様を。



作品名:思考するしかばね 作家名:りんこ