リオ・ナユ
やはりゆがんだ人達だとかなり引き気味でナユはことごとく意見を撥ね退けた。
ここにルックがいれば多分ナユと一緒になって突っ込んでくれるだろうに、すでに彼はいない。
だれか助けて・・・、神様、毎日お祈りしますからーっ、ナユはすがりつくような思いで祈った。
「じゃぁ、今日1日僕の後をくっついて、話すときは可愛らしくしゃべってもらおうかな?ちゃんと名前で呼んで、ね?」
神様この野郎、絶対祈らねぇ、ナユは罰当たりにも空に悪態をついた。
もちろん先程出ていたような案に比べればはるかにマシ。
マシだが、でも酷い。
なんでこの殺戮魔にたいして可愛らしく話しかけなきゃならないんだ!?
・・・そうだ、用事作ればいいんだ。
書類処理とか(それは作るまでもなく、たまっているという軍師の心の叫びが聞こえてきそうである)。
「僕の後にくっついていなかったら、もしくは可愛く話せなかったら、その度1日増えていくからね?」
「・・・この変態・・・」
「ん?何か言った?」
「う、ううん。な、何でもないんだぁ。・・・き、気持ち悪い・・・」
「えー?十分かわいらしいよ?でもリオもそんなでいい訳?なんかもったいないなー?」
「いや・・・、十分罰っぽいぞ?かなりの嫌がらせじゃね?」
のほほんとしたカイリに対して、テッドはナユを同情の目で見つつ言った。
リオは楽しそうにニコリと笑っただけだった。
その日1日はナユにとって地獄の業火で焼かれているような辛い日だった。
リオはあきらかにわざと色々な所をぶらぶらしている。
ナユは渋々それについて行っている。
「お?今日はどうしたんだぁ?なんかナユがリオの後をついて回るってなあ珍しいように思わねぇか?」
早速出会った腐れ縁コンビ。
ビクトールがのん気な調子で言った。フリックもそうだな、と呟く。
「ええ?なんかコレが僕と一緒にいたいって。」
「ちょっ、何嘘ついてんだこのさつり・・・あーんもう、嘘ばっかり言っちゃってえ・・・く・・・。」
元々青い人は勿論、さっきまでのん気だったビクトールまで青くなって引いている。
ナユはそんな2人に救助の目を送ったが、役に立たず。
フリックは多分途中で罰ゲームか何かと気づいた様子だが、だからといってこの青いヤツはリオに対してなにか出来る訳でもなく。
ビクトールに至っては、“そうか、そうだよな、そういう仲って聞いたことあるしな・・・?”と訳の分からない納得の仕方をしている。
後で殺す、ナユはそう誓った。
次にシーナに会う。
「よぉ、どうしたんだよ?ナユがリオの後くっついてるって、またなんかやらされてる訳?」
「いや?どうもコレが僕の事好きだって。」
「ギャーそんな事一言も言ってないでしょーが・・・焼・・・食べたいなぁ・・・。」
「・・・おい?ナユはどうしたって訳?なんか様子が・・・。」
「シーナぁ・・・。」
ナユはうるんだ瞳でシーナに助けを求める視線を送った。
しかし相手が悪かった。
シーナは顔を赤らめて咳き込む。
「ゴ、ゴホン・・・。えーと、おなか空いてんのか・・・?じゃ、じゃあ俺が飯奢ってやるから・・・」
なんだか邪な風のシーナに裁きが落ち、リオがそのままスタスタと歩いていったので、仕方なくナユもその後を続く。
その後も何人もに会った。
何度もつっかえるナユにリオがニッコリと言った。
「貴様は頭が悪いね?どうもちゃんと言えないみたいだけど?なんなら明日も続けたい?」
「ふざけ・・・ちゃ、いやだよ。・・・分かった、僕だって学習能力くらいあるんですからね。見・て・て。」
含みのある笑顔でかわいらしく言うと、ナユはそれからは話す度に確実にこの話し方が板についてきた。
「・・・いったいどうしたって訳?ナユがリオの後をついてまわるなんて?また何か厄介ごと?だったらここに来ないでよね?」
石板前でルックが吐き捨てるように言った。
「へぇ、言うね?コレはただ僕の後をずっとついて行きたいほど僕の事好きなんだって。」
「・・・ふ・・・。ルックがそんな事、信じる訳、ないでしょ。もう、リオったらぁバカな事ばっかり言ってえ。」
かわいい言い方が板についてきているが、表情に殺意のあるナユに対して、ルックは青くなって顔を逸らす。
ナユのいないところでは2人のラブラブ説が確実に広まっていった。
翌日、目を覚ますとやはり隣で眠るリオがいた。
だがようやくあのおぞましい話し方等から開放され、ナユはホッと息をついた。
いつものように先に起きて着替えたりしていると、リオが起き出した。
それに気付いて振り向いてナユは言った。
「あ、おはよう、よく眠れたかなあ・・・・・・。」
不意に出てきた自分の言葉が浸透するまで暫し沈黙ののち、“あ″ーっ”と頭を抱えてナユは叫んだ。
リオは耳を押さえつつバカにしたようなでも楽しそうな表情でナユを黙って見ていた。
それから暫くは、癖のようにかわいらしく言ってしまい口を押さえるナユが見られたようである。