リオ・ナユ
抱擁
「ちょ、何してんですか!?」
ナユの部屋。
ナユはシュウから、溜まっている書類の一部を宿題として手渡され、渋々机に向かって処理していた。
リオは退屈そうにその辺に座ってナイフの手入れをしていた。
手入れも終えてしまい、手持ち無沙汰となったリオは辺りを見回す。
ナユの部屋には一冊の本もない。
益々退屈そうにしていたリオだが、机に向かって半ば意識が飛びかけているナユを見てニヤッと笑うと、ナユに近づきスッとスカーフをはずした。
「えー?退屈だから。」
「は?退屈から何でそうなるんです!?何考えてんですか、相変わらず。」
「え?だからさ、脱がそうかなって。」
「・・・・・。だいたいなんであんたにいきなり脱がされなきゃならないんですか・・・。ヘンな事しようとしてんなら他を、特にカイリさん辺りをあたって下さい。僕はその手のお遊びは出来ない口です。きちんと段階ふんで下さい(ふまれても困るけど)。」
「・・・僕としては段階ふんでたつもりだけど?」
「は?いつ?何かしました?」
本気で分からないといった風に首をかしげナユは聞いた。
リオがニッコリと言う。
「えー?一緒にいて欲しいって誘われたし?」
「・・・もともとあんたが勝手についてきたんでしょうが・・・。しかも、一緒にいて欲しい、じゃなくて、一緒に戦って下さい、です!!」
「キスもした仲だし?」
「っ!!ふっ不可抗力です!!だいたい僕は覚えてないんですからねっ。」
「すでに一緒に寝てるし?」
「あんたが勝手に入ってくんでしょうが!!ってゆーか、入ってくんな!!」
「えー?だって迎え入れられてるけど?」
「ギャーっもう、僕はホント知らないんだって!!ろくな事になんないし、あんたもうホント部屋に入ってくんな!!」
「この間追い出さないって約束、したよね?へえ、軍主様は約束、破るんだ?」
「ぐ・・・。分かりましたよ。好きにすればいいっ。ってゆーか、本題に戻りますけど、こんなの、段階なんかふんでません!!」
そう言って、スカーフをひったくり、さっとまた離れると、リオをにらみつけながらナユはそれを結んだ。
それをおかしそうにリオは見ていた。
「・・・まったく・・・カイリさんにしても、あなたにしても、いい加減僕をからかって遊ぶの、やめてくれませんか?」
「貴様の反応が面白いからね?ところで貴様の思うところの初めの段階って、どんなのな訳?」
聞かれて口に折り曲げた人差し指をあて、ナユは考えた。
「・・・えーと、そうですね・・・。まず告白して好き同士になって・・・手ぇつないで・・・どこかに出かけたり、かな・・・?」
「ふふ・・・ガキ・・・」
ペン先が鋭くとがった羽根つき筆が飛んできた。
リオはひょいと避けて言った。
「いい度胸だね?」
「なんですか、やる気ですか?」
もはや書類の事は頭になく、構えるナユ。
飛んできたナイフを避け、そのままジャンプし机の上に乗った。
「ふふ・・・いいの?書類がめちゃくちゃになってるよ?後で軍師に怒られるんじゃない?」
その言葉ではっとし、慌てて飛びのこうとしてナユはバランスを崩した。
「わ!?」
そのまま床に落ちるっとナユは目を瞑ったが、衝撃がない。
というより、これは・・・?と恐る恐る目を開けると、床すれすれで抱きかかえられているのが分かった。
「まったく、貴様は危なっかしいね?」
「・・・すいません・・・」
殊勝に謝って、痛い思いをせずに済んでふうっと深呼吸をしたところで、ふいにリオの香りだろうか、とても落ち着く香りがした。そしてリオの体温が伝わってきて、ナユは我に返った。
「あ、ちょ、も、もう大丈夫なんで、その、離して下さい。」
急にバタバタともがき出したナユを不思議そうに見て、リオがそのまま言った。
「?何なの急に?」
「え、いや、ってか近いっ。ちょ、誰かに見られたら・・・」
その時最悪のタイミングでテッドが部屋に入ってきた。
「おーい、ナユ。リオ知らね・・・ぇ・・・」
部屋の中を見て2人にテッドは気付いた。
「あ、いや、悪りィ。じゃましたな。行くわ俺。んじゃ、ごゆっくり。」
そう言うと、慌てて部屋から出て行った。
「・・・?」
訳が分からない風でリオはナユを見ると、顔が引きつっている。
「・・・・・ああ、なるほど。そういう事。」
今の状況が傍からどういう風に見えるか気付いたリオはニヤッと笑って言った。
「・・・ごゆっくり、だってさ?」
「な・・・。あ・・・」
引きつり口をパクパクさせていたナユの声が漏れ出したのを聞いて、リオはさっとナユから離れ耳を押さえる。
次の瞬間悲壮な叫び声が城にこだました。