リオ・ナユ
英雄
恐るべし化け物、ルカを何とかやっつけ、ひと時の休息をとるナユ。
なんとなくこれで終わりではないような気がする。
だって何やかんやでハイランド自体はそのまま、そしてジョウイの事もある。
部屋でため息をついて机に突っ伏していると、ナナミがいつものように勢いよく入ってきた。
「ねえねえナユ。ちょっと色々な町見てまわらない?行けなかった所も、これで行けるようになったし。」
ナナミ大事のナユは、そうだね、とナナミに付き合う。
エレベータで1階まで降りた。
「どこ行こっかー。」
そんな話をしていると、ビクトールとフリックが通りかかった。
「お?どっか行くのかぁ?丁度いい。俺らも暇を持て余してたところだ。連れて行けよ。」
ビクトールがのん気な声で言った。
ナユは彼らの方を見て答える。
「・・・別にいいですけど。」
「じゃあ、うーん、あとだれ連れて行く?」
ナナミが聞いた。
歩きながら、目が合った石版前の人物をナユはじっと見る。
相手はさっと目を逸らす。
「ルック。行きましょう?」
ニッコリとナユが言った。
石版守りはため息をつきながら、ついて行ってあげてもいいよ・・・といつもより面倒くさげに言う。
「じゃ、まあ5人でいーんじゃないかな、ナナミ。どこ行きたい?」
「んーそうねえ。クスクスとかでもいいけど・・・。あ、あたしバナー行ってないの。そこ、行ってみたい。」
鏡の前に着いたナユはそこに立っている少女に言った。
「じゃ、ビッキー?バナーに行きたいんで、お願いします。」
「分かりました。じゃあ、えいっ。」
次の瞬間には5人はバナーに着いていた。
ナユは毎度ながら思うが、いきなり目の前に人が現れて、なぜ驚く人がいないんだろう。
僕ならビッキーやら鏡やら知らなければ驚くか不審に思うと思うけど。
ナユがそう思っている間にナナミはナユそっくりの格好をしている男の子を見つけ、話しかけに行っていた。
ビクトールはフリックに、このまま山に入ってトラ退治でもするかぁと言って嫌な顔をされている。
ルックは早くも帰りたそうにしながらも、とりあえずナユの隣で黙って立っている。
ただ、心なしか顔が青い。
「・・・どうしたんですかルック?不景気な顔が更に不景気になっていますけど?」
「君はほんとに・・・。別に。ただ何だか嫌な気配がしたように思っただけだよ。」
その時ナナミが戻ってきた。
「ねえ聞いたー?なんかナユのニセモノさんがいるっぽいの。」
「は?」
「向こうでナユの服そっくりの服着た男の子と話してたんだけどね、その子が言うには、どうやら宿屋にその人が泊まってるらしくて、多分今はあっちの奥で釣りしてるんじゃないかなって。その子コウくんて言うんだけど、コウくんは、その人が本物のナユだと思っているみたいなの。」
「へえ、おもしろそうじゃねえか。行ってみようぜぇ、ナユ」
ビクトールがニヤッとしてナユに言った。それを聞いたナナミが言う。
「あ、あたしはそのコウくんのお姉ちゃん、そこの宿屋の子なんだけど、その子とお話するんだ。だから後でまたどうだったか教えて?」
「じゃあ僕も・・・」
「おいルック、のり悪いな、お前も付き合え。」
すかさず宿屋に行こうとしたルックを捕まえ、ビクトールが言った。
げんなりするルック。
「仕方ない、行こうぜリーダー。まぁ大丈夫だとは思うが、万が一ろくでもない輩だったら後々面倒だ。」
ため息をつきながらフリックがナユに言った。
「まぁ、そうですね。」
とは言いながらもあまり乗り気じゃないまま、ナユも付いて行った。
細い道を通って奥ばった所を歩いて行く。
ナナミが言っていたように、確かにだれか、釣りをしている人がいるようだ。
近づいたところで、ナユ以外の3人が固まっている事に気付いた。
「?皆どうしたんですか?知り合いですか?」
「リ・・・」
「リ?」
「リオじゃねえか。久しぶりだな。」
ビクトールが声をかけた。
すると釣り人はこちらを向いた。
黒髪をバンダナで包み、そのバンダナの裾は風で揺れている。
拳法着を着ているようだが、別にナユとはまったく似ても似つかない様子だ。
コウって子はいったいなんでまた僕と間違えてんだ?
ナユは思った。
彼の座っている横には棍が置いてある。
ナユはそれを見て、ふとジョウイを思い出す。
そして彼の顔を見た。儚げな、とても美しい顔立ちをしている。
あまりにも美しく、そのまま触れると壊れてしまいそうな・・・
「!!」
壊れてしまいそうと思ったナユは早くも自分の思い違いに気付いた。
ビクトールに声を掛けられて振り向き、相手が誰だか認めると、悪魔がいるならまさに彼がそのものといった風にニヤッと笑い、目にも留まらぬ速さでビクトールとフリックを倒してしまっていた。
気付いた時には2人は気絶していた。
唖然としているナユの横でルックがため息をつき、倒れている2人の事はスルーでリオと呼ばれた少年に話しかけた。
「久しぶりだね、リオ。・・・やっぱりさっき感じた嫌な気配は間違いじゃなかったんだ・・・。」
「やあルック。嫌な気配とは、相変わらずだね?何?そこの熊と青いのと一緒に、何してる訳?」
「それはー」
「ちょっと、」
ルックが答えようとしたら、それをさえぎるようにナユがリオに言った。
「あなた・・・誰なんです・・・?何なんですか?」
怒りを抑えるように静かに言った。
無言でナユを見ていたリオが言った。
「キサマこそ誰?人に尋ねる前に、自分から名乗れって、習わなかった?」
次の瞬間、誰も避けられる人はいないだろうという早業で、ナユはリオに平手打ちを食らわした。
「あんただけには礼儀は教わりたくないですね!!いきなり人の事ぶっ倒してくるような奴にはね!!これでも大切なうちの戦力の一部なんです!!藪から棒に何してくれてんですか!!」
矢継ぎ早にぶちまけると、ナユはそのぶっ倒れている2人を蹴り起こす。
「ちょっと、何簡単に倒されてんですか!?2人とも。鍛錬が足りないんじゃないですか?帰ったら一から訓練のやり直しですね。ほら、さっさと起きてください。もう行きますよ!?」
まったく訳が分からないという感じの2人を宿屋の方に促して自分も歩き出そうとし、ふとリオの方を振り返る。
「たたいたのは一応謝っときます、ごめんなさい。僕はナユと言います。じゃ、これで。」
そう言うと、行きますよルック、と踵を返し、二度と会う事がないであろう人物に背を向け、歩いていった。
「おいルック。」
「・・・あんたが手を出されて何もやり返さないなんて、初めてじゃない?」
「おもしろいね、アレ。そう、ナユね・・・?ルカを殺ったヤツかい?」
「ああ。・・・何考えてんのさ?」
「別に?ただ、僕がいたほうが戦力になるんじゃない?まあ直接的に戦争に表立って参加はしないけどね?」
ニッコリとリオが言う。
青い顔でルックは、知らないよ、と呟く。
ルックとリオが宿屋に入ると、どうやら何事か起きた様子であった。
「コウくんが山賊にさらわれたみたいなの!!」
ナナミが青い顔でナユ達に言っていた。