リオ・ナユ
しかし動じない人だ。
ここに送られた時はどうだったのだろうと思い、ナユは聞いてみた。
「貴様と同じように海に落ちて、網で拾われたよ?意識はあったんで、自分で網を切って出てきたけど。」
その時も色々聞かれたようだったが、現状把握が出来ていないリオは黙っていた。
口が利けない者かと思われたのか、そのまま風呂へ連れて行かれた。
その時の世話もケネスがしてくれたようである。
さっぱり小奇麗になったリオを見て、次々と男が口説いてくる。
ケネスが目を離している隙に、無理やり何かをしてこようとする輩までいる始末。
そういった輩には、リオは勿論体(暴力ともいう)で言い聞かせた。
とりあえず困ったケネスはカイリに相談しようと、リオをカイリの部屋へ連れて行き、流れを話した。
リオはカイリを見て、漸く大体の時代と場所を推測した。
ケネスは呼ばれ、仕方なくリオをカイリに委ねて、バカはするなよと言い残して出て行った。
カイリが話しかけてきたのでリオは逆に時代と場所を確認した。
カイリは答えた後、喋られるんだね、と言いつつリオをベッドに押し倒した。
そこまで聞いてナユは呆れを通り越して青くなる。
リオは続けた。
押し倒しはしたが、本気ではなかったようで、反撃しようとする前にすっと手を引いた。
そして、事情は分からないけど、とりあえずこの船にいるといい、と言った。
腕が良いようだから、良かったら皆を鍛えてやってくれ、だだし変なマネをすれば即刻、終わりだよと言ってからデスモンドという青年を呼んで案内させた。
「ざっとこんな感じ?とりあえず皆、普段船にこもってるからか、欲求不満なヤツが多いんじゃない?さすがに仲間には手は出さないものの、見慣れない者を見ればバカな事をしようとしてくる間抜けが多そうだから。」
あんたの顔が綺麗だからじゃないのかと、内心ナユは思った。
「・・・貴様は一見女の子みたいだし、格好の対象になるからね。誰かのものならさすがに無理強いするほどのバカはいないようだよ。」
女の子という言葉にカチンときたが、それでさっきは恋人などと言って守ってくれたのだろうかなとナユは思った。
・・・恋人・・・。
ナユは自分がなぜか赤くなっているという事に気付いた。
「じゃ、行こうか?」
「っは・・・、へ?どこに・・・?」
「・・・風呂だけど?貴様は気持ち悪くない訳?」
そういえば体中なんだかベタベタする。
水に入っていただけなのに・・・なぜ?
部屋を出て歩きながらナユは首を傾げた。
「潮だよ。海の潮。」
「!!やっぱり。誰かが海に塩こぼしたんですか?積荷が落ちたとか?」
一瞬の間の後、リオが盛大に吹き出した。
「なっ」
「くっくっく・・・。貴様はホント・・・面白いね?見ただろう?果てしない広さの海をさ?いったいどれ程の塩をこぼせばそうなると思ってるんだ?海っていうのは元々そういうもんなんだよ。塩だって、海から取れるんだからね・・・?」
「・・・そ、そうなんですか!?へえー・・・でもよく知ってますね?」
自分のバカな間違いに赤くなりつつ、感心してリオを見た。
そういえばこの人、何も分からない状態でもカイリさんを見ただけで時代や場所を把握したんだよね?一人でも冷静だったみたいだし、さすが英雄と呼ばれるだけはあるんだ・・・。
ふと考えていたナユにリオが言った。
「とりあえず、ここにいる間はうみとソラでいくよ?誰もいない時も念の為にね?ああ、君は・・・」
君!?貴様じゃなく、君!?
「君は僕の恋人なんだから、それらしくしてね?僕もそれらしく、するから。」
そう言って小悪魔のような笑みでニッコリ笑った。
その夜。
サロンは大宴会場と化していた。
皆大いに楽しみ、大酒をくらい盛り上がっている。
ここでは未成年といった概念はまったくない様子である。
もちろん、本当にまだ子供である者たちは、始めに顔を出し、食事をしながらナユと会話して、早々に帰って行った。今残っている者はナユ以外大酒のみばかりである。
「よう。お前も飲めよォ。」
ハーヴェイがナユに勧める。
「すいません、僕お酒は飲めないんです。」
「えー?マジでェー?ちょっとくらい、いーだろ?付き合えよー。」
「止めておけ、ハーヴェイ。無茶をさせるなよ、相手は子供だぞ?」
シグルトが止める。
子供とはっきり言われ、やはりムッとしたナユはハーヴェイがらマグをひったくった。
「おっ、いいぞォ。」
その時別の場所にいたリオがやってきて横からスッとそのマグを奪った。
「だめだよ?ソラ。君は飲めないんだからね?」
そしてマグを持ったままナユを抱き寄せて、ハーヴェイに言った。
「悪いねハーヴェイ?ソラはアルコールアレルギーだから飲ますと大変なんだよ。僕が代わりにいただくよ?」
「お?おう。」
そしてリオはナユを抱き寄せたまま、片手で一気に飲み干した。
「お、いい飲みっぷりじゃねえか。やるなお前。」
「それにしてもお2人が恋人同士というのは、本当のようですね?」
「マジ仲良さげだもんな。残念がってるヤツ多いみてえだぜ?うみ。お前にしてもソラにしてもよォ、いい面してっからな。」
「それはどうも。」
リオがサラッと返した。
ナユは何言ってんだ?と思ったが、リオに抱かれていることが気になって何も言えなかった。
リオは2人と話したまま暫くはナユを捕まえていたが、ようやく離してくれた。
ホッとして周りを見回していると、向こうの方でカイリが何人かと飲んでいるのが見えた。
多分、元騎士団だったという4人だろう。ケネスもいた。
ナユはふと思った。
皆カイリを置いて先に逝ってしまうんだよね・・・。
もしかしたらあの緑の服の女の子はエルフのようだし、多少は長生きするかもしれないけれど・・・。
その4人と飲みながら話しているカイリは本当に楽しそうに見えた。
甲板で見た、どこか怖い感じのしたカイリと違って、やわらかい感じがする。
とても、大切に思っているんだろうなとナユは思った。
・・・まだこの時は、自分がどんどん紋章に命を削られて、いつ死んでしまうか分からない時だったと思う。ナユはなんだか切なくなってきた。
「何貴さ・・・君はカイリ見て切なそうにしてんのさ?」
後ろから抱き寄せられそう言われた。
まわりからは口笛やはやしたてる声が聞こえる。
「ちょ、もう離して・・・。」
「ダメ。皆に見せ付けてるから。」
ますますはやしたてられる。
ナユはまた真っ赤になった。リオが皆の方を見て言った。
「じゃ、そろそろ僕達は失礼するよ?おやすみ。皆はまだまだ楽しんでて?」
「おう。久しぶりだろうしな?」
「ほどほどになー。」
「明日何だったらゆっくりしてていいぞー。」
「どうせソラは起き上がれねーんじゃねえかー?」
わはははと笑い声が上がった。
何を言っているのか盛り上がっている中、ナユとリオはサロンを出て、エレベータに向かった。
「・・・カイリは大丈夫だよ・・・?」
リオはふとそう呟いた。
ナユは驚いた。殺戮魔もカイリを見て自分のように思ったりしたんだろうか?
なぜか妙にドキドキしてきたナユは誤魔化すように話を変えた。