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あげないよ。

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そうだ、アイス食べよう。



折原臨也は、高校を出てぶらぶらと歩きながら、駅前の公園でアイスクリームを買うことにした。
その日は6月初旬にしては暑く、まるで真夏並みの気温を記録していた。従って臨也がアイスを買ってベンチに座ったとして、それはごくごく自然であり、特に何か変わったこととはなりえなかっただろう。
お店のお勧めと言う新作のイチゴアイスはさっぱりしていてうまかった。次買うときもこれにしよう、と思った臨也に電話がかかってきたのはそのときだ。
携帯の番号を教えている相手は限られていたから、ろくに見もしないで通話ボタンを押す。
「はい折は・・・」
『臨也さん?今どこにいるんですか?』
「・・・ら、です?」
臨也少年は目をぱちくりとさせた。名乗る途中で割って入った声に、全く聞き覚えがなかったからだ。
思わず携帯を耳から話、着信した番号を見つめるが、それにも見覚えがない。っていうか、080で始まる携帯番号なんか、見たことがない。あれ?携帯って全部090で始まるんじゃないの?
軽くパニックに陥りかけた臨也は、それでも携帯を耳に押し付けて、
「あのさ、」
君は誰?そう聞こうと思ったのに、やっぱり向こうの声にさえぎられる。
『映画見るって言ったのそっちじゃないですか、もう始まっちゃいますよ、これ逃したら次は夜しかないですよ?』
「映画ぁ?」
え、ほんとに誰。
臨也は必死でその声の主を思い出そうとしてみたが、さっぱり思いつかない。だって映画なんて、誰かと見る約束をしたことは、今まで一度もないものだ。
臨也には臨也の思い描くちょっとした理想みたいなのがあって、映画を一緒に見るという行為は、いつか『黙って隣にいるだけで何時間でも過ごせるような相手』が現れたときにその人と、と思っている。なので、どこのだれとも分からない少年と一緒に映画だなんて、ありえない。
「ちょっと、待ってよ。映画って・・・?」
『・・・あきれた、あなた自分から誘ったくせに忘れてたとか言うつもりですか?ああもうそれならいいですよ、帰りますし。また静雄さんとでもやりあったのかと思って心配して損しました』
「シズちゃんと・・・?」
驚いた、あのシズちゃんのことまで知っているのか、この少年は。ああいや、有る意味自分たちはセットで有名だけど。
でも、臨也と静雄の関係をわかっていて、それでもあえて臨也に対してその名前を告げる告げるなんて、どれほど命知らずだ。それとも、わざとなのか?性格が悪いのか?
「ちょっと君さ、俺の耳にその不快な名前を入れないでくれる?」
今日はせっかく相手が学校を休んだおかげで、心穏やかに過ごせたのに!と腹立たしげにすれば、電話の向こうで少年がため息をつく音がした。
仕方がないなあこの人、という感じに。
『分かりやすく不機嫌にならないでくださいよ、大人気ないんだから。・・・あ、なんだ道路の向こうにいるじゃないですか』
「え?」
『よかった、ぎりぎりだけど間に合いそうですね。じゃあ、切ります』
ぷつっと通話が途切れる。
「・・・え?道路、って?」
臨也は思わず辺りを見回した。ここは紛れもない公園であり、近くに映画館もない。だというのに、何故?
「・・・電波?」
うわ、そうだったら正直に怖い。だってあんな、ごく普通の、普通過ぎるほど普通の会話をできる相手が電波って、恐怖だ。
「っと、ヤバイアイス溶ける」
どろりと手のほうにこぼれそうだったアイスを急いで舐め取って、臨也は履歴に残った番号を睨みつけた。何か細工をしているわけではない、よな?と思う。だって080なんて。一体どういうこと?
高校1年生の自分には分からない、なにかものすごく高度ないたずらという可能性も捨てきれないがそれにしてはあの声が気になる。
臨也さん、と。
まるで呼びなれた名前でも呼ぶような、あの声。
それに、引っかかるのはそれだけじゃない。
「大人気ないって言われても、俺高校生なんだけど?」
いえなかった反論を口にして、番号を睨んで、臨也はしばらく迷ってからその番号を電話帳に登録する。名前は知らないので、適当に「イチゴアイス」と入れた。登録完了。
あとは興味が失せたように鞄に携帯を放り込み、臨也は溶けかけのアイスをちゃっちゃと片付ける。うん、やっぱり美味い。また食べにこよう、と最後の一口を食べ終える頃には、さっきの不審な電話のことなどすっかり忘れ去っていた。





高校生の分際で、といわれそうだが、臨也は一人暮らしをしていた。とても高校生の身分にはふさわしくないような、2LDKのマンションの3階、しかも南向きの好立地。建物自体、築2年のほぼ新築物件だ。
その自宅のソファにだらしなく寝そべって、臨也は麦茶を飲んでいた。今日は急ぎで調べなくてはいけない仕事もない。情報を扱うことで得たこの城は、酷く居心地がいい空間でもあるのだ。
デリバリーのピザを食べた後のおなかは満腹だし、気分もいい。そうなると頭の片隅によみがえってくるのは、今日のあの電話のことだった。
『臨也さん』
あの声で呼ばれる自分の名前は、なぜだか、とても綺麗な響きがすると思う。どこか心がほわっと温かくなるような、そう、陽だまりに似ている。あんなふうに優しく呼ぶ声を、知っているというのなら忘れるはずがない。
臨也は携帯から目的の番号を呼び出して、しばらくその文字の羅列を眺めた。彼の発言にはいくつも矛盾があったが、問題は、彼の知っている「臨也」が果たして自分であっているのか、というところだ。重大だ。
折原臨也に偽者でもいるとしたら、それはそれでとても厄介な事態になる。そう考えると、もしかして早急に、彼と連絡を取ったほうがいいのではないか。冷静にそう考えるのに、通話ボタンにかかったままの指は、なかなかそれを押せないでいた。
だってこの番号、080だし。
だいたい、相手が出たとき、なんと呼びかければいいのか分からない。あの時名前を聞き出して置けばよかったと、臨也は息をつく。じっとりと汗ばむ手を服で拭い、臨也はもう一度通話ボタンに手をかけた。何を緊張しているんだ。これから愛の告白をするというのでもないだろうに。
押せ、いけ、押すんだ。
言い聞かせるように繰り返して、ゆっくりとそのボタンを押す。コールは3回だった。
『ふぁい、りゅーがみね・・・』
「ちょっとちょっと、寝るには早い時間なんじゃないの?」
思わず突っ込みをいれるほど眠そうな声が聞こえてきて、気を張っていた臨也も脱力する。一応念のため時計を確認したが、夜9時を回ったばかり、まだまだ夜はこれからだ。
『いざ・・・やさん?』
途中あくびを交えながら呼ばれて、思わずほわりと熱くなる胸の辺りを押さえ、りゅうがみねとか名乗ったな、と頭の中に書き込んだ。
「はーい、あなたの臨也さんです、こんばんはりゅうがみね君」
おどけた調子でそう告げれば、受話器の向こうでまだ眠たそうな声が、ウザイです、と小さく切って捨てた。
『なんですか、その、りゅうがみねくん、って。正直気持悪いです。普段通りに帝人君って呼べばいいでしょう』
みかどくん。
臨也は頭の中にその名前を並べてみた。りゅうがみねみかど。全く記憶にないし、あまりにも偽名くさい。もしかしてネット関係者だろうか。
作品名:あげないよ。 作家名:夏野