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あげないよ。

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「ごめんごめん、みかど君。眠いの?」
『誰のせいですか、誰の』
「えー?俺のせいとでも言うつもり?」
んなわけあるか、という意味で言ったなら、当たり前でしょうと怒ったような声が返ってきて、逆に驚いた。え、マジで俺のせい?と言葉に詰まっていたら、みかど君はとんでもないことを言い出す。
『映画見終わった足でのんきに歩いてるから、静雄さんに見つかって大乱闘と鬼ごっこなんかする羽目になったんです!僕完全なる巻き添えじゃないですか、100%臨也さんのせいですよ!』
「ええ!?ちょっとまってよ、それじゃ俺のせいじゃなくてシズちゃんのせいでしょ!」
『あなたがのんきにご飯食べていこうなんて言わなければあんなことには・・・って、あ、れ?』
「みかど君!?」
急に音が途切れた、と思ったらがたがたと物音がして、携帯の向こうで「何、」「ちょっと、」「でも」と小声の攻防が聞こえる。そして唐突に、さっきまでとは異なる声が降ってきた。


『どこの誰だか知らないけどさ、勝手に俺の名前名のんないでくれる?』


息をのむほど自分に似ている声が響いて、ぶちっと通話が途切れる。
「・・・は?」
思わず間抜けに声をあげて、臨也は携帯を耳から離す事さえも忘れて呆けた。なんだ今の。なんだ今の何だ今の何だ今の。俺の名前名のるな、って?俺は自分の名前を名のっただけだ、つまり誰かを騙った覚えはない。それなのになぜそんなことを言われなきゃいけないんだ。
しかもあの声。
酷く自分の声に似ていた・・・ような気がする。臨也は自分の声を録音して聞いたことが何度かある。いい声をしているとほめてくる女の反応に不思議に思って、自分で認識している声と他人が聞く自分の声が違うのかも知れないと、興味を持ったからだ。臨也は別に自分の声をいい声だとは思わないが、他人から聞いていい声と言うものに興味はあった。そうやって録音して聞いた声に、あれは酷く似ていた。
まあ、現在の声よりは少し低いようだったけれども。
何これ、どういうこと。
あれは自分のソックリさんなのか、それとも声まで似ているということは、本格的に偽物がいるとでも言うのか。でもまだ臨也はただの高校生にすぎない。そりゃ、いろいろと裏の世界をつついて回っているけれど、それだってまだ大したことはないレベル。そんな高校生の偽物になどなったって、何の得もないだろう。
大体、シズちゃんと喧嘩になったって、さっきのみかど君は言った。
シズちゃんと喧嘩する臨也なら、俺しかいないはずだ。
ああもう、わけが分かんない。どういうことなんだろう。臨也は頭が痛くなってきて、仕方がないから顔を洗って寝ることにした。考えすぎて気持ちが悪い。ああもうほんとなんなの。君はいったい誰なの、りゅうがみねみかど。
ざばっと顔を洗って鏡を見たその瞬間、鏡の向こうで、誰かが息をのんだ。
「・・・」
「・・・」
びたっと鏡に手をつく。触れるのは冷たい感覚だけ。
短髪の、幼い顔をした少年が呆然とこちらを見ている。
え、誰。知らない。中学生?あ、でもあの制服・・・高校生?けど、知らない。あんな子、見たことない。っていうかこれ鏡。あれ、何俺結構混乱してる?っていうか何。なんで鏡の向こうに知らない誰かがいるの。なんで俺が映らないの。なんで向こうも驚いてるの。
人間、許容範囲を超えると何もできなくなるらしい。臨也はタオルをとり落として、洗面所の鏡の前で呆然とすることしかできない。鏡の向こうの少年は、ぱくぱくと何度か口を動かして、それから一瞬臨也より早く我に返ると。唐突に叫んだ。
「いっ・・・臨也さん!?」
この声は。
電話の。
「・・・みかど、君?」
疑問形で、やっとで声に出すと、少年の背後から誰かがひょいっと顔を出す。っていうかその顔、明らかに・・・。
「あ、俺だ」
何でもないことのようにあっさりと、言って捨てたその顔。
「俺!?」
多分、いや、まさに、きっと数年後にはこんなになっているだろう、と容易に想像できるくらいには成長した、自分がそこにいたりして。
臨也はうわあ、俺変わってないなあ、なんてしみじみ思って、あれ?じゃあ鏡の向こうは未来ってことか?とまたしても混乱しそうになった、その時に。
「そういえばこんなこともあったなー」
と鏡の向こうで呑気に大人の臨也が笑った。
「いざ・・・臨也さん、何言って、あれ、あなた・・・!?」
「ふふふ」
何年後かの未来、こんなことが起こると言うことなのか?混乱して凝視することしかできない臨也の前で、帝人に抱きついた大人の臨也が、その頬を帝人にすりすりとすりよせて、にんまりと笑った。
「帝人君」
「は、はい?」
「ちゅーしようか」
「嫌ですよ!って、いうかそれどころじゃ・・・!」
「しよう。えげつないくらい深いの」
「ちょ、臨也さ、んむっ」
お前の意見は聞いてない。
とばかりに、有無を言わさぬ強さで帝人の体を引き寄せて、ためらいもなくその唇に噛みついた大人の臨也は、ぎゅっと目を閉じる帝人を愛おしげに見つめ、それから鏡の向こうの・・・つまり、現在高校生の臨也へ、挑発的な視線を送る。

いいでしょ、これ。
俺のだからね。

「っ、んっ・・・!」
少し鼻にかかった、高い声。羞恥心から真っ赤に染まる頬。ぎゅっと臨也の服を、すがりつくように握りしめる両手。
ごく普通の、平凡な少年みたいな外見をしておいて、その実、彼は何一つ平凡なんかではないんだと、臨也の五感が訴える。
そんな感情は知らないのに、知らないままで生きていくんだと思っていたのに、この先彼を手に入れると言うのか。どうやって。いつ。どうして。
臨也は鏡に向かって身を乗り出した。近くで見たい、もっともっと近くで。だと言うのに一枚の壁を隔てたその向こう側にそれはある。その子を俺に、と臨也は思う。いや、向こうでキスしてる相手も俺なんだけど、でも。

いいな、いいな。欲しいな。
ねえその子、俺にちょうだいよ。
大事にするから、可愛がるから、一生離したりなんかしないから。
ねえ。

子供がねだるようなことを考えて、それから、じゃあ無理かあ、と一人で納得して、臨也はそれでも帝人から目を離せないままだった。
だって俺が一生離さないって思っているんだから、向こうの俺だって同じことを思っているに決まっている。聞きたいことがたくさんあるのに、苦しげな帝人の息遣いと絡む水音を聞いていると、何もきけなくなる。
りゅうがみねみかど。
心の中の、最重要のところにメモ書きする。この名前を見かけたら即行でマーク、そしてくどき落とせ、と。それが何年先になるかなどは判らない、でも。
鏡の向こうがぼんやりと薄れ、そこに見慣れた自分の顔が戻ってくる。
やがて完全に自分の顔しか映さなくなった鏡に、ちえっと舌打ちをして臨也は眉を寄せる。



鏡の向こう、数年後の自分。いい性格してやがる、と。
ムカつくくらい幸せそうに笑いやがって。
・・・うらやましいんだよ、ちくしょう。
作品名:あげないよ。 作家名:夏野