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二律背反の裏側

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気に食わない奴だ、と言うのが第一印象だった。
その後、幾度かの対峙と共闘を経て、其処に出来る奴だという印象が加わった。
だが、やはり気に食わない、と言う感情は拭えない。
鬼丸義王は己の隣に立ち、ひらりと手を振る男の横顔を睨む様にして見上げた。
年の差はひとつ、身長の差は拳ひとつ分程度。どちらも負けているとは思いたくないが、前者に関しては幾分の劣等感を覚える原因になっており、後者に到っては歴然とした敗北である。最も、敗北感を覚えているのは義王のみであるのかもしれないが。
ふん、と小さく鼻を鳴らして見やる先には、小さくなっていく背中がひとつ。余程帰り道を急いでいるのだろう、洞から出るなり挨拶もそこそこに薄暗い夜道を全力でダッシュするその身体は、己に比べて一回りほど小さい。あの男を見ていると馬鹿馬鹿しくなる、と義王は思う。突然現れた、奇妙な男。花札を集める彼に、お宝を寄越せと散々付き纏っていたのはつい最近のことで、彼に敗北した記憶は未だ新しいままだ。自分から望んだ勝負で敗北した以上、義王は彼のことを認めないわけにはいかなかったが、――度々、思うのだ。
何故、負けたのだろうか、と。
体格に於いては自分に分があった、と今でも思う。あの七代千馗という男は(義王とて然して長身と言う訳ではないが)小柄で華奢と言う印象が強い。恐らく、腕相撲をすればまず間違いなく義王が勝つであろう、そんな体格差が互いの間に存在する。封札師、と言う少々頓狂な役を負っていることを抜きにしても、喧嘩で義王が負ける要素など無い筈だったのに、。
「・・・・何で、負けたんだろうなァ」
思わずぽつりと零れた言葉は、あくまでも独り言に過ぎない。あの喧嘩から数日が経ち、今では義王も千馗と共に洞に潜る日々を送っているが、思い出す度に疑問に思わずにはいられなかった。
何故、負けた。
何が、劣った?
それが単純に腕力の問題ではないことは重々承知している。義王とて七代に負けた事を恨んでいる訳ではないのだ。ただ、奥歯にものが挟まったように、何処か釈然としない。しかし明確な答えが得られることはなく。
「どうした?」
義王の呟きに気付いたものか、隣に立つ壇燈治が不思議そうに首を傾げる。肩の辺りで振られていた手は既に下ろされ、僅かに腰を屈めるようにして顔を覗き込む仕草に苛立ちを覚えた。彼にそのつもりはないのだろうが、どうにも見下ろされている気がしてならない。別に好きでこの身長ではないのだ、と言い返したい所ではあったが、余りにも無様なので口を噤む。ぐっと唇を噛み締めるようにして言葉を殺すと、燈治が一層眉間に皺を寄せて奇妙な顔をして見せた。それが義王の中にぽつりとした苛立ちを灯す。
しかし燈治は暫し義王の表情を伺っていたかと思うと、これ見よがしに溜息をついた。
「・・・・まだあいつのこと、狙ってンのか?」
「あ?」
「千馗のことだよ。俺らが知らないところで、あいつに喧嘩ふっかけたんだろ」
「――――」
何故、それを知っているのだ、と。
そう言いかけて、寸でのところで再び義王は唇を噛み締める。図星を指された驚きはあったが、燈治の問いかけそのものは義王の思考と聊かずれた所にあった。確かに義王は千馗に対し、決着をつけようと一対一で対峙し、そして負けた。完全な敗北であることは己自身が良く知っている、故に彼の行く先を見極めてやるつもりで同行を申し出て今に到るのだが、――その経緯を、義王は己の口から燈治に語ったことはない。探索に行くから付き合って、と初めて千馗からメールを貰った時は驚いたものだが、待ち合わせ場所として指定された新宿御苑に着いた瞬間、ぽかんと口を開けて固まった燈治の驚きはそれ以上だったのだろう。即座に彼は、聞いてねぇぞ、と千馗に詰め寄ったが、千馗は『仲直りしたから』の一言で燈治の疑問を封じ込めた。以降、度々義王は千馗と共に洞に潜っているのだが、――義王の顔を見る度に不思議そうな顔をする燈治は、どうやら千馗の言葉に納得をしていないようでもあった。
その燈治が、何故自分達の勝負の事を知っているのか。仮にあの時のことを千馗が漏らしていたのなら、燈治は顔を合わせる度に戸惑ったような、不審げな表情を見せることもなかった筈だ。つまり、彼は何も知らされていないのだろう、――己が千馗に勝負を持ちかけたことも、そして敗北したことも。
その理由が義王にはわからない。千馗に口止めをした覚えもなく、況してや千馗は面白半分に喧嘩の勝敗を言いふらすような性格だとも思えなかった。もし仮に千馗が口の軽い性格であったなら、疾うに義王が敗北した話はあちらこちらに飛び火して、寇聖に於ける義王の立場も危うくなっていただろう。実際、何処から漏れたのか、相手の詳細こそ不明のままとなってはいるものの、義王を負かした者が居る、と言う話は既に寇聖で噂になっているのだが、その噂の広がりは随分と遅い。何れは誰も確信が持てぬままに消えていくだろう、とは鹿島御霧の分析だったが、そうなってくれれば良いと義王も思わずには居られなかった。
だからこそ。
「・・・・何で、知ってる」
はぐらかしてしまおうかとも思ったが、敢えて義王は燈治に問うた。此処で誤魔化すことは難しくないが、何故だろう、この男に総てを見透かされていると思うと、奇妙な敵愾心が腹の底からむくむくと沸きあがってくるのだ。
気に食わない、と思う。
いけ好かない奴だとも、思う。
だが、その理由が今ひとつわからない。年齢的にも身長的にも負けているが故か、単なる同属嫌悪なのか――或いは時として、色の無いガラス球のような瞳で己の眼を覗き込んでくるから、なのか。
今も、そうだ。
燈治は宵闇の中で僅かに腰を屈めるようにして義王の顔を覗き込んではいるものの、その双眸に表情は無い。色の無い瞳は真っ直ぐに義王を見てはいるものの、その真っ直ぐ過ぎる視線は己を行き過ぎ何処か別の場所を見ているような錯覚を引き起こす。
その目付きが気に食わないのだと喚くことが出来たなら、どんなに楽になれるか知れない。だが、何故そんなにも感情が乱れるのかが、義王自身にはわからなかった。怒り混じりの苛立ちは確かにある、それは短気な義王にとってはむしろ自然な感情の揺らぎだ。だが、それを暴発させることに躊躇いを覚えるのは何故なのか。怒りに任せて暴れてしまえば良いのだと、頭の中ではわかっているのに身体と感情がブレーキをかけていた。本来ならば真っ先に暴発する筈の感情が、だ。
その理由が、義王にはわからない。自分自身の事なのに、何故理解することが出来ないのか。
戸惑いと怒りと苛立ちが腹の底で入り混じり、どろどろとに詰まった感情はその名前を曖昧にする。その感情の名前を漠然とした思考の中で探していると、不意に目の前で燈治が肩を落とした。
「・・・・ンな目付きであいつの背中睨んでたら、一発でばれるに決まってんだろうが」
「あぁ? どういう意味だ?」
「どうもこうもあるかよ、・・・・噛み付きそうな目で、いつだって千馗のこと睨んでンだろうが。尤も、あいつが正面向いてる時はそうでもないけどな」
「――――」
呆れたような口調でそう言い放つ燈治の言葉に、義王はがつんと頭を殴られたような衝撃を覚えた。
作品名:二律背反の裏側 作家名:柘榴