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まっくらやみ

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頭上高くを黒い鳥が旋回する。
赤み始めた空に雲はなく、突き抜けるような中を舞い上がる鳥を見上げて、深い森の奥深く、拓けた場所に立つちょっとばかり小ぶりな平屋の、ぶっきらぼうに手入れの施された庭に面してる縁側にて、丁度武器の手入れをしていたナルトは小さく溜め息をつき眉根を寄せた。

長期任務の後は必ず、最短二日、最長二週間の休暇が義務付けられている。疲労や怪我はいくら身体を鍛えようがどうにかなる問題ではないうえ、長期任務にもなればちょっとした疲労や怪我が命取りになるからだ。ナルトもつい先日までその任務に追われていた、と言っても本職がアカデミーである以上滅多に長期任務は回ってこない。しかし里の抱える深刻な人手不足に煽られてナルトにお鉢が回ってくることもしばしばあった、それが今から一ヶ月前のことだ。長期任務はただの暗殺などとは違い、体力的にも精神的にもひどく消耗する。特に身体も出来上がっていないナルトにとって長期任務はできれば敬遠したいものなのだ。しかし、火影に命令されればノーと言えないのが忍の勤め、ようやく任務から帰還して一息ついて、のんびり過ごそうともくろんでいたところに招集がかかればいい気がしないのは当然と言えるだろう。
ナルトは眉根を寄せたまま鼻を鳴らし、バックパックの口を閉じた。
何の用件かは知らないが、火影が招集をかけたのだ。

***

時刻で言うなら午後六時ごろだろう。火影のところに行く前に、長期任務の際消費した巻物などの確認を急いでいると、不意にナルトの背後でぴしゃりと襖の開く音がした。その音を聞いて、ナルトはまた、けれども先ほどとは違う重い溜め息を吐く破目になる。出来れば顔を合わせたくないと思っていたものが、開け放たれた襖からのっそりと出てくるのを見て、タイミングの悪さを呪った。

もう夕暮れだというのに、背後の襖から現れた男、シカマルは朝見かけた格好、同じ顔で欠伸をしながら頭をかいていた。少々ぼんやりとした顔がいかにも眠そうに、視線をふよふよと滑らせる。ナルトはこっちくんなと渾身の睨みを利かせるがシカマルは歯牙にもかけず、寝起きだということを隠そうとしない間抜けずらのままナルトのほうに視線をよこした。縁から立ち上がったナルトと視線がやんわりと合い、ん?と首を傾けて、それから頭上高くを旋回する鳥を見つめて何事か悟ったらしいシカマルは、苦笑を浮かべて障子を閉めた。
「なんだ、休みじゃなかったのかよ。」
大変だな、とにわかに笑いながら一日ほぼずっと眠り続けた男に言われ、釈然としない気持ちに駆られながらナルトはぶっきらぼうに視線を逸らした。
「いつでも寝てるお前と一緒にするな」
語調が強くなるのを隠そうとせずに冷たい声音でぴしゃりと告げるとシカマルは少しだけ肩をすくめた。
「まぁ、無茶はすんなよ。」
シカマルはあくびと共に軽く告げると、ナルトの返答も待たずに首のあたりを掻きながら家の奥へと消えていった。

シカマルの出てきた部屋は、ナルトが(渋々)与えた部屋ではなく、任務で手に入れてきた術書などをためておくために書庫代わりに使っている部屋だ。中はおよそ十畳ほどの広さになっていて、壁一面に天井まで届くほどの本棚が並べられている。もともと窓も、押入れもある部屋だったのだが、日々たまっていく書物のせいでもうその意味を放棄している。窓にいたっては、ここ数年開けることはおろか、その全容を拝める事すらなかった。押入れは使い古された巻物で溢れ帰り、中には禁術などの危ないものもあるのにも関わらずそのまま放置、開ければ雪崩が起こるのは必至、開かずの間ならぬ引かずの襖となっている。
そんな、少しばかり危険と隣り合わせな部屋にシカマルが入り浸るようになったのは最近だった。
ナルトが使うときはもちろん追い出すのだが、趣味で集めた古文書や、絶版になった本などが適当につんでいる様にひどく感激したようで、お前って凄いなぁと素直に感心された(当然だけど)。それでもシカマルに書庫がいいように使われるのはひどく釈然としなかったが、本人には研究以外の目的以外無いようだし、何より火影からも頼むと言われてしまえばナルトはもう断ることなどできない。そんなわけで、シカマルは日がな書庫に入り浸る日々を続けていた。

もちろんシカマルはその部屋にいるだけが常じゃない。最近こそ書庫に居座る日々が多かったが、おおよそはいろいろなところで昼寝をしていたり(これが大半だが)、気が向けば庭の手入れをしていたりする。勝手に掃除していたこともあるし、ナルトから見ればあんがいこまめで忙しい男である。

そんなシカマルにナルトが一度疑問に思って聞いたところ、曰く、自分のスペースが使いにくいのが嫌らしい。周りの物はきちんと把握しておきたいのだと、眠そうな目をしながら言っていた。

そんな所を含めて、シカマルという人間は、ナルトからすればどうにもつかめない奴だった。里の人間のような態度は全くしないし、ナルトにどんな殺気を向けられてもけろりとしているというか、動じない。そこがナルトにとってすごく腹立たしかったりするし、危険だと感じるところなのだが、その割に隙だらけだったりするので敵と認識するには少し足りなかった。もうここから好きなように出られなくなって二ヶ月半ほど経つにもかかわらず(ナルトの監視付きなら何度か、火影邸に行ったりはしたが)文句を一度も聞いたことがない。お前はいったいどういうつもりなんだと尋ねても、まぁ、なるようにしかならねーからなぁと気の抜けた返事ばかりが返ってくるので、どうにも肩の力が抜けてしょうがないのだ(悪い意味で)。

そしてシカマルは、ナルトに深いところでかかわってこようとしなかった。根掘り葉掘りナルトのことを探ろうともせず、ただそこにいて、ただ共に暮らしているだけだった。だから逆にナルトはシカマルをどう扱っていいかわからなくなっていた。突き放すのも違う、だからといって気を許す気もない。ひどくあいまいな境界線をシカマルは漂っているので、それはそれで腹立たしいことだった。

しかしナルトには、一つだけどうしても目をそむけるわけにはいかないことがある。
ついこないだと言うには遠すぎるが、あの雨の日、シカマルが燭台一つで自分を待っていてくれたのをナルトは忘れられないでいた。あんな風に自分を待ってくれている存在など火影以外にあったことがなかったから余計にそうだったのかもしれない。そんな自分の中の弱い一面を突きつけられたようで、それがひどくナルトを波立たせる原因ではあったのだけれど、シカマルに対してそれを言うことはできなかった。というより、それをしてしまえば認めなくてすんだものを認めねばならないような気がして、ナルトは戻ることも進むこともできなくなっていた。
作品名:まっくらやみ 作家名:poco