雨上がりに咲く
用事ででかけた帰り道のことだ。
出かけた時には降っていなかった雨が、用事を済ませてみれば、さめざめと降りしきっていた。
濡れるのはあまり好きではない。
しかし、雨などに待たされるのもこれまた癪にさわる。
そう本格的に降っているわけでもないし、時間を無駄にするのは主義ではない。
このまま帰ってしまおうと決めて、そうなればいつまでも足を止めているいわれはない。
さっさと帰って体を休めよう、帰ったらエーリッヒに温かい紅茶を入れてもらって、そのまま二人でのんびり過ごせばいい。
自分の考えにひどく満足して、足早に帰り道を辿り始めた。
水たまりを避けようとして、大きく開いた足の先。
小さく生える緑の中に、小さな白い粒を見つけて足を止めた。
(……花?)
取るに足らない野草だろう。
どんな名前なのか、そんなことも知らない程度に。
けれど、小さな花に大きな水滴を乗せて、新たな雫に打たれて葉を揺らすその花に、なぜか目を惹かれた。
なんでそうしようと思ったのか、分からない。
けれど自分は目を惹かれて、花の傍に屈みこんだ。
危うく花を踏んでしまう、すんでのところで白い花に気付いて足を止めたのだが、よく見れば既に誰かに踏まれた跡がある。
わずかではあるが踏みにじられた葉が破れていて、けれど、それにも関らず、その花は小さな花弁を凛と上向けていた。
雨に打たれても、踏みにじられても、毅然と顔を上げる。
そんな誰かの姿が小さな白に重なって、
(…………)
このままここに咲いていても、短い花の期間を最後まで咲き続けることができないかもしれない。
誰かに踏まれるか、車に踏まれるか、それでもきっとこの花は顔を下向けることはないのだろうけれど。
なぜか胸が痛む。
小さく儚く、けれど強く逞しく、
そんな花の居場所はここではないような気がした。
そして、手が土に汚れるのも構わず、自分はそこからその花を救い出したのだ。
帰ったら、二人でエーリッヒの入れた紅茶を飲んで、
その傍に、エーリッヒを彩る様にこの花があればいいと思った。
2010.6.6