a hose and a queen
モーターサイクル
すぐにそれと分かるように設定された音楽が聞こえ、山本はベッドの中からサイドテーブルの上に置いた携帯電話に手を伸ばした。
「…もぢもぢ……」
『なんだ、まだ寝てたのか?さっさと起きろ。いい天気だぞ』
「まだっで…俺ざっぎ帰っでぎたばっが…」
寝起きのせいで、鼻が詰まっているわけでもないのに我ながらおかしな声だ。
期間は二日だけだったが、作戦を練るのに一日、ターゲット捕捉に一日とまともな睡眠時間など殆どなく精神力も体力も大分削られた任務を終えて帰ったのが今朝だった。綱吉に報告をし、シャワーを浴びて、起きたら焼き肉を食いに行こうと思いながらベッドに入ったのはほんの一時間前だ。
『そうか。じゃあ待っててやるから今から言うところまで来い』
「え?は?ちょ、ちょっと待って!」
ほぼ強制的に呼び出された先は、ボンゴレ本邸の敷地内にあるいくつかのガレージのうちの一つだった。
通用口から中へ入ると、窓からの光にうっすら埃が漂っているのが見えた。中は窓からの明かりだけでは足りずオレンジ色のライトが付いていた。
ピカピカに磨き上げられた二台の高級車の向こう、物が雑多に置かれている辺りに目印のボルサリーノが見え、ドアの音に気付いてリボーンがこちらを向いた。
「遅いぞ」
「これでも頑張った方なのな。で、何の用?」
「冷たい言い方だな」
と、眠い目をこすりながらの山本にリボーンはちょいと肩を竦めた。
「まぁいい。お前に見せたいものがあってな」
そう言うと、更に奥へ山本の手を引いていく。そこには真新しいシートを被ったバイクが一台置かれていた。リボーンはバイクの傍へ寄ると、まるで人にそうするように丁寧にシートを剥がしていった。
やがてその全てが剥がされてマシーンの姿が現れた時、山本は眠気などいっぺんに吹き飛んだとばかり目を輝かせ、ワアッと声を上げていた。
DUCATI Monster1100S。新しい、パールホワイトとブラックのどっしりとした外観は触れてみずにはいられない …いや、触れてそれだけで済むはずがないと、山本は興奮を抑え、
「どうしたんだよ、これ?」
と上擦りながら言った。リボーンはこちらに流し目をくれて、にやりと口元を歪める。
「美人だろ?昨日、店の前を通りかかったらこいつがいてな。俺じゃ運転できないからと思ったんだが、どーしても我慢できなくてな」
そうして上着のポケットから鍵を取り出すと山本に向かって投げ、それはきちんと山本が差し伸ばした掌の上に落ちた。
「大分早いが、誕生日プレゼントだ」
「……いいのか?小僧が気に入ったヤツなのに」
「その代わり、たまにどこかへ連れて行け」
と、リボーンはタンクに穿たれたロゴの辺りを撫でながら言った。
「っていうか、小僧がこういうの好きなのって、意外」
「俺だって男の子だぞ?」
「はは… じゃあ、これからどっか行くか」
言われるなり、リボーンはすぐさまこちらへ顔を向けたが、その脊髄反射が恥ずかしかったのかすぐにまたタンクに視線を落とす。気にせずに、メットある?と聞くと別のガレージにならあったぞ、と小さな声が返ってきた。
「じゃあ取ってくる。どこ行きたいか考えといて…あ、でも往復二時間くらいのとこな」
「あ、あぁ」
楽しくなってきたな!と駆け足で山本は外へ出ていって、リボーンはガレージに一人残された。
自分では乗れない、新しい美しいバイク。そのマシーンに自分を乗せて走ると言う恋人。思い返してみれば、山本が運転するバイクに乗るのは初めてだ。柄にもなく子供のようにうきうきとするのは一体どうしたことか、とリボーンはタンクに胸を押しつけるようにして肘をつくと、その掌に顎を乗せた。
「……幸せ か?」
2009.3.18 SC/O0
作品名:a hose and a queen 作家名:gen