a hose and a queen
No.2
まったく下らない質問だ。陳腐で、野暮ったい、自分が聞かれたら笑い飛ばすような言葉だ。それなのに、何をこんなにむきになって俺はこいつに向かっているのだろう。
リボーンのいつにない剣幕に、レオンはちょろりとソファの影に逃げて行った。立ち上がって怒っているのか、悲しいのかも分からないような表情のリボーンを前に、山本は長椅子にだらしなく座りワインを舐めている。
思えばこのワインが、いや酒がいけなかった。どんなパーティでも適度に、を気を付けていたリボーンだったが今日はごく身内しかいない気安さで余分に飲んでしまった。とどめの日本酒は結構効いたようで、お開きとなった後は山本に担がれて自室に戻ったにも関わらず、
「もう少し付き合え」
と会場になっていたダイニングに戻ろうとしていた山本に言った。
「あー…でも小僧、今日はもう寝た方がいいんじゃないか?風呂、入るか?酒抜いた方がいいぞ」
「お前が入れてくれるんなら入ってやってもいいぞー、でももうちょっと付き合え」
機嫌は良さそうだがあまりにふらふらと頼りなく動くリボーンが心配になったのか、山本はおとなしく勧められた長椅子に腰を下ろしたのだった。
その後の話の内容はあまり二人の記憶には残っていない。だが、なんのはずみか言ったリボーンの言葉に、
「うん、小僧のことも好きだぜ」
そう返した山本の言葉は、まだかろうじて残っていたリボーンの自信や理性や建前や、そんなようなものを一瞬にして削り取った。
「”も”ってなんだ、”も”って!」
言ってしまってから、リボーンはしまったと思ったがもう止まらなかった。
「大体お前はな…」
そうして吐き出された言葉の一つ一つは自分の本音でありながら、下らなく、陳腐で、野暮ったく、三文ドラマに出てくる女のセリフのように思えた。
(俺はこいつをどうしたいんだ)
口とは繋がらなくなった頭の奥の方で、自分が言った。
(独占したい。束縛したい。俺だけに心を開くようにしたい)
(それは無理だ。こいつは誰のものにもならない。誰にも心を開かない)
(そんなことはない、いつか)
……いつか?
詰め寄ったリボーンの体に、起き直った山本の両腕が伸びた。逃れようと振ったリボーンの手が山本の手にあったワイングラスを弾き、少し残っていた赤い液体をまき散らしながらグラスは長椅子と並べて置かれていたテーブルの端に当たった。カシャン、と頼りない音に一瞬気を取られている間にリボーンの体はたちまち山本の両腕に絡め取られ、抱きすくめられ、山本はリボーンと胸を合わせたまま長椅子へ仰向けに寝転がった。
いつの間にか大きくなっていた山本の手があやすようにリボーンの髪や背中を撫でた。
「よーし、よしよし」
「どーぶつか俺は!離せ!」
「やだ。……な、俺、皆のこと好きだけど、リボーンはそういうんじゃないのな」
「……っ」
よしよし、と撫で続けながら、山本は言葉を探しているようだった。だが、思いつく愛情を表すどんな言葉も適当ではなかったのだろう、撫でるのを止めると胸が潰れるくらいにリボーンの体を抱きしめた。
そして絶望的な言葉を口にした。
でもごめん、一番じゃない
リボーンは返事も、抱きしめ返すこともできず、脱力して全ての重さを山本の体に預けた。
そうして翌朝、その言葉はひどい頭痛にかき混ぜられ、数々の醜態と共にどこかへと消え失せた。
2009.5.31 SC/O0
作品名:a hose and a queen 作家名:gen