観照は明神に在り
「オレだったら疲れるわ。
どんだけ正しいつもりのことを言っても無視されて、こっちの揚げ足取ることばっかり待たれてさ。
意見が合わねえ奴に、どんだけ訴えたって手応えナシよ?
心配、たぶんだけど、してるのによ、笑われて。
疲れるわ、これ。」
桂は息を呑んだ。
耳元は風の音が煩い。
足元は覚束無い。
脛辺りを銀時が掴んでいる。
中空だ。パラシュートはまだ地上に降りない。
「・・・お前・・・。」
「挙句の果ては、ろくでもねえ奴と一緒になるときたもんだ。
もう心配すんのも疲れた。やってらんねーわ。
いっそぶった切った方がこっちの気持ちが晴れるだけマシだろが。」
「・・・お前、それは誰の事を言っている。」
静かに問うた桂だが、本当は分かっている。
疲れるわ、これ。高杉だ。桂も、疲れた。
「決まってんだろ、あの変なオッサンだよ。」
「変なオッサンではない。松陽先生だ。」
「お前、相変わらず煩えよなあ。」
銀時の声に、笑みが滲んでいた。
昔も同じ訂正をした。
変わらない。
それを、嬉しく思っている。
だが高杉とて変わってはいない。
それを、桂も銀時も知っている。
同じ場所で過ごした。
同じ人を追い、同じ時を生き、笑い、遊び、慟哭した。
表現方法が違っただけ。
「そういえば銀時、お前、本当にラーメンを零して捨てたのか?」
「あー、捨てた捨てた。だってバッチイもん。」
「・・・なんでそんな捨て方・・・。」
貴重な教えをと桂は瞑目する。
誰よりも松陽の傍に居て、慈しまれただろうに、先生の思いは届かなかったようだと嘆く。
「だってあの日、雨が降ってさあ、夏なのに冬みたいだったんだぜ?
寒くてどうしてもラーメンじゃなきゃ堪んない、みたいな?
布団被って三分待つのが辛くってさァ、でもちゃんと待って、食って、ふぃーって一安心したときに残りの汁零した。」
桂は笑った。
なんて情けない。バカじゃないかと思うような、有り触れた日常。
日々に埋もれて、忘れてしまいそうな、よくある話。
それを、銀時は詳細に憶えている。
忘れずにいる。
本当に片時も手放さなかったから、汚してしまったときを。
「・・・お前、捨てるときに悩んだだろう?」
暫らくの沈黙の後、ケッと銀時は悪態を吐いた。
「お前ホンット煩えよなあ。いっぺんくらい死んだら口数少なくなるんじゃね?」
可愛げのない、肯定だった。
この生き方が正しいかどうかなんて、神様にだって知って欲しくはない。
どうせこんな風にしか、生きられないのだから。