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森の中

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「やあ。本は読み終わったのか」
雲雀は首を振る。
「どうした。珍しいじゃないか」
部下と同じ台詞を吐いて、ディーノは何かあったのか、と続けた。書斎から出てこない雲雀を呼びに来るのは、概ねこの男であったからなおさらだろう。
「あなたが見えなかったから」
雲雀の言葉に、ディーノは虚を突かれたような間を開けて、やがてくすくす笑いを漏らしながらしなやかな黒髪を指先で梳いた。
「随分、かわいらしいことを言うんだな」
大きな手で、まるで幼子にするように丸い頭を撫でる。いつもなら振り払うところだったが、雲雀は彼の好きにさせた。
伏目がちに微笑をたたえる顔が、木々の合間から降り注ぐ光に照らされてあまりにも美しい。
やはり、面と向かって口にするような台詞ではなかったので、雲雀は話題を変えた。
「わざわざ持ってきたの」
ディーノの頭の下にあるクッションと、腹掛けにしている毛布を見て訊いた。
「いや」
ディーノはゆっくりと半身を起こして答える。
「もう少し奥に、離れがあるんだ。つっても、そんな大層なもんじゃねえけど。庭師のじいさんが住んでて、貸してもらった」
「へえ」
雲雀は、当初の質問とは別のところに感嘆をあげた。この屋敷に通うようになって随分になるが、離れがあるというのは初耳だ。
ディーノはうんとひとつ伸びをしてパンツのポケットから腕時計を引きずり出すと、
「もう戻らなきゃな」
と呟いた。毛布と枕を手早くまとめながら、草の上に座る雲雀に目を落とす。
「寄っていくか?」
雲雀は即座に頷いていた。
作品名:森の中 作家名:JING