どうしようもない阿呆だとお互いに認識
来神つってもどうせあの平和島ほどじゃねぇんだ、かまわねぇ、やっちまえ!
なんて一部時代遅れなお決まりのセリフを合図に一人対多数の喧嘩に一方的に巻き込まれた俺は今、喧嘩を吹っかけてきた集団の最後の一人と対峙していた。先程名前をあげられていた静雄と違って俺は今回のような知らぬ因縁をつけられるという行為は滅多にないので、一体どういう経緯でそうなったのかとさっきから聞いているのだが、そいつはぷるぷると震える手で鉄パイプを握ったまま何も答えない。
ただただ時間だけが過ぎて、傾いても尚力を緩めぬ太陽がじりじりと肌を焦がす。随分暑くなったものだと俺は相手から目を離さずぱたぱたと手で顔を煽いだ。正直にいうとさっさと家に帰ってざるそばでも頬張りたいが、俺も相手が動かぬのならどうしようもないし、怯えている奴をどうこうするような趣味もないので、さてどう口を割らせるかとこういう駆け引きを得意とする知り合いの顔を思い浮かべていたときだった。
プルルルッ
「……すまん。出てもいいか?すぐ切る」
「あ、はい、どうぞ、すいません」
何故かぺこぺこと謝る相手を何ともいえない思いで眺めつつ、俺は通話のスイッチを押した。
「門田だ。今取り込み中だから後に」
『ドタチン』
思わず苦みと諦めをまぜこぜにしたような表情を浮かべて喧嘩相手から視線を外し、俺は電話向こうの奴にいった。
「だからその呼び方はやめろっていってんだろ。それでな、もう一度いうが俺は取り込み中なんだ。後にしてくれ」
しらばく、沈黙があった。
向こうが了承しない限りいきなり切るのは申し訳ないと返事を待っていた俺も、そろそろ切ってもいいのだろうかとゆっくり指をボタンに沿わした時、電話の向こうで音が爆発した。
『あっはははははははははははははは!!!!!』
爆発したと、思った。
思わず携帯を持っていない手で片耳を押さえ、電話を可能な限り耳から遠く離す。びくりと向こうにも笑い声が聞こえていたのか喧嘩相手が震えた。ねぇねぇねぇねぇと壊れたような臨也の大声がそれでも尚携帯から漏れ出る。
『ドタチンさぁ取り込み中だから後にしてだってどうしよう一生俺達ここからでれないねやっばいなぁどうする?!どうする?!』
『あぁああぁぁぁあああ?!!!テメェノミ蟲何楽しそうにしてんだ殺すぞいや殺す俺が殺す今殺す』
『ちょっと嘘でしょう門田君!お願いだよ君だけが頼りなんだよもう、僕は、無理、ムリ、トイレ』
『別に楽しくないよそんなこともわからないのまぁ君たちのこのテンパリ様は見てて楽しいけどねぇあははははは!』
『いや、半殺しにしてよぉ、んでそこ開けて泣き叫ぶテメェをぶちこんで即行ドアを閉めてやるよ。さぞかし楽しいだろうなあぁ?イザヤクンよぉ』
『っていうかさぁ今シズちゃんのソレを発揮しないでいつ発揮するの?馬鹿なの?ゴミなの?クズなの?しねよ』
『セルティが仕事から帰ってくるのもまだまだ先なんだよ!彼女なら対処できるかもしれないけれど、ああ、やっぱりダメだ!セルティはセルティセルティセルティ』
『喚けノミ蟲。喰われろノミ蟲。せいぜい餌食になるんだなノミ蟲。んで果てろ』
『役立たず。木偶の坊。ウスラトンカチ』
静かに電話をきり、ポケットにつっこむ。ため息を吐き、周りを見渡す。
先程俺がのした奴らが随分復活していた。最後の一人だった奴をみると、さっきと違い目が爛々としている。あぁ、と俺は頭をかいた。
「すまん」
またため息吐いて、
「せっかく待っててくれたのに悪いんだが、急ぎの用ができてな」
ゆっくり瞬きをして、
「加減、できそうにねぇわ」
静かに、構えた。
作品名:どうしようもない阿呆だとお互いに認識 作家名:草葉恭狸