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トッカータとフーガ

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トッカータとフーガ



ある日会食会に行って戻ってきたら無茶苦茶怒っていた。何だ?
好きな紅茶を出してやったら
「酒をくれ。」
と言う始末。

「勤務時間中です。」
と言ったら引き出しからポケット酒瓶を出してきた。
そんなものまで引き出しに入っているのか…。

「あ。こら。勝手に紅茶に入れるな!」
並々入れやがった…。それじゃほとんどアルコール。
溢さず飲みきったのに感心してる場合じゃないが。

不機嫌丸出しで口きこうとしないのでほっておいて下がろうとすると力いっぱい腕を引かれる。

「うわっ。」
椅子の上で上半身抱きかかえられて足浮いてる。
職場で何をする!

「俺が職場でべたつかれるの嫌いなの知ってて何なんだよ。」
この体勢は前もあったな。
トレイを抱えているのでおでこを叩く。
いい音がして抱え込んでる力が緩んだ隙にさっさと逃げる。

少し離れた所から
「横着しないでちゃんと話してもらいたいな。」

あーおでこ赤くなっているな…。たんこぶになったら 怒られる。
余程痛いのか言葉も無く蹲っているが油断できないので近づかない。

同席していたナナイさんに聞いたほうが良いのかな?と隣の部屋を見ていると音も無く影が動く。
気がつくとトレイを取り上げられて後ろから抱きしめられた。さすが三倍…。

「ひどいな…きみが好きなわたしの顔に傷がつくぞ。」
「たんこぶは傷のうちに入らないよ…。」
溜息とともに力を抜く下手に動くと何するかわからない雰囲気だ。
こんな所で変なことされては困る。

「いい子だ。」
「あなたにそう言われると大体碌な事無いんだけど…。で何?」

無言でソファに誘われ隣に座らされ頭載せられる。
膝枕ですか。椅子から足が大幅にはみ出ている。
「こんなに無理して膝枕させるんならいっそ床でした方がいいんじゃないか。」

「床でしたらそのまましたくなるが。いいのか。」
「職場でそんな事したら殺す。」

「楽しいと思うのに。」
からかってるな。

「一遍死ぬか?」
「きみが殺してくれるなら。」

そんな疲れることしません。にっこりして頭なでてからデコピンしてやった。
本気で痛がってる。

「機嫌良くなったみたいだけど何があったんだ?」
「言いたくない。」

あそ。似たようなこと何度もするのは好きじゃないから放っておく。

目を塞いで
「どうせなら少し寝たら良い。」

おでこ冷やしたい所だがもう暫く動けない。思わず前髪崩して隠そうとする。
腫れるかなやばいなあ。寝る気も無いが話す気も無いか…。滅多に本気で怒らないのになんだろう…。

あ〜眼を瞑ると眠くなりそう。ここで寝ると怒るよなあ。

「もう。話してくれないと寝てしまうぞ。」
「冷たいな。きみは。」
「話してくれないことはわかりません。話したくないなら寝ろよ。」

どうせこの調子では今日はもう仕事にならない。身体休めてもらった方がいい。

「…俺寝るから。」
むっとした雰囲気を漂わせてるが知るか。

「お休み…」
と言って眼を瞑る。仕事中に寝るのって気持ち良い。


顔に何かかけられて目が覚めた。何があったかわからない。ぼーっとして袖で顔を拭う。水かぁ…。

「目醒めました?」
上からナナイさんがコップを手に覗いてる。あれ?何時の間に横になってたんだろう?

体を起こしながら
「シャアは?」
「水持ってきたら逃げました。」

「愛情のほどがわかるな…。」
見回すとやつは窓にもたれて黄昏てる。

「よく寝られますね…。」溜息吐かれてしまった。
「静かになるとつい…。」
「どこが静かなんですか…。」
睨まれる。

「言わない事まで分かれと言われても。そんなに便利じゃないよ。」
何に怒ってるのかさっぱりわからない。

「今日はもう帰って頂いて結構です。」
え〜これで帰っても何の解決にもならないと思うけど。顔にもろ出である。

「大佐が言い辛いなら明日わたくしが教えて差し上げますから。」
言外にお守りしろと。そんな簡単に口割らないんだよなあ…。
書類とPC鞄に詰めて腕に触れる。

「黄昏てないで帰るよ。」
ナナイさんを睨んでも仕方ないだろうに。

動こうとしないので
「先に行って車の中で待ってる。」
と置いて行こうとするとコートを手にして先に出て行く。
ナナイさんに肩すくめて見せてから後を追った。

案の定帰りの車の中でもむっとしている。運転手さんが気の毒なくらいだ。
八つ当たりは辞めてほしい。睨むと眼を瞑って寝たふりに替えた。気配も抑えろよ。

家に着くと足早に書斎に向かっていく。仕方なく後を着いていく。ドアを閉めたとたんに
「あのくそジジィども…!」
そんなにその台詞が言いたかったのか…。

「今日の会食はお父さんの側近の生残り連中とだっけ?」
「生きた化石だ。」
「大事な金づるだよ。あなたを見るだけで拝みそうな人たちだと思ってたけど。」
「食えないジジィ…。」
「まあ伊達に生き残ってきた訳じゃないだろうからな。」

可愛い年寄りなんぞいるわけが無い。正直俺は相手したくないな。
年寄りうけは良いみたいだけど。

「で?」
むっとしてまた黙る。おーい。

「言いたくないなら聞かないけど。聞かないからっていじけても知らないぞ。」
「何も言わずに労わって欲しいな。」
「じゃ取りあえず着替えてお茶でも。」
と部屋を出て着替えようとすると
「アムロ…。」
と腕をとられる。

「即効薬があるだろ…。」
それは即行ベッド行きって事かよ。

「そんなにがっつかないで欲しいんだけど…。お腹空くし。」
「いまのわたしにそんな余裕は無い。」
余裕って何だよ。…ここでやるのはごめんだ。

「せめて寝室に…。」言い終わらないうちにずんずん引っ張られる。
俺の体は労わってくれるんだろうな…。
         

う〜ん…。だるい…。おなか空いて力は入らない…。のど痛いし…。
「八つ当たりだ…。」
「そんな事は無い。」

背中にキスしながら
「良かっただろう…。」
いちいち言うなそんな事。

「食事抜いてまでやる事かよ。動けないぞ…。」
ああ…お腹空きすぎて気持ち悪い。

「色気の無い事を…。」
そんなもん空腹の前には関係ないと言うか元から無いぞ。

「何か食わせろ…気持ち悪い。」
「はいはい。待ってなさい。」

まず水を…。飲もうとして身を起こそうとすると眩暈がする。根性無しでへたばる…。う〜。

「ばか…節操なし…人殺す気か…」
ぶつぶつ文句を言っているといい匂いが近づいてきた。

「ご飯…。」
「ほら、起きろ。」
「起きられないんだけど。」
抱きかかえて起こしてもらう。

「好き勝手するならせめてご飯食べ終わってからにして欲しいぞ。」
のどいたいし…。苦笑してるのが感じられる。

「さあ。」
スープを持たしてもらいゆっくり飲んでると
「満腹になるときみすぐ寝てしまうじゃないか。前に食べ過ぎて気持ち悪いから触るなと言われたし。」

危うく噴出しそうになりむせた。ああ…そんなこともあったっけ。
じゃ無くて!さては誤魔化す気だな。

食しながら睨むと
「誰も取らないからゆっくり食べなさい。」
と言われた。む〜。半眼で睨んだまま空になったスープ皿をトレイに戻して
作品名:トッカータとフーガ 作家名:ぼの