【動き出す時間】
【動き出す時間】
滅びた古の都には古代竜が住んでいる。
そんな伝説が世界にはあった。世界の何処かにある滅びた都には強い力を持った古代竜が住んでいるという。
古代竜を求めて人々は古の都を探したがついには見つからなかった。
それもそのはずだ。
都を守る古代竜は悪しき考えを持つ者を都に近づけないようにしていたのだ。都に近づこうとする者は恐ろしい目に
会い続け、都を見ることすら叶わなかった。
「……惰性、だな」
廃都にある神殿は緑間真太郎が気に入っている場所だった。
街の中心にある巨大な神殿には朽ちてはいるが七大神の像が飾られているし、今は名を忘れられてしまっている神々の像もある。
緑間真太郎は人間の姿を取って居るが正体は古代竜だ。
都が滅び、人々が離れ他の竜が離れても緑間は都に居続けている。
「真ちゃーん」
神殿にいる緑間の元に走ってきたのは黒髪の青年、高尾和成だ。
都から離れた人里には今も廃都の伝説が伝わっていて、緑間が敬われている。しかし、災害が起きたりすると
それが全て緑間の……古代竜の怒りとされてきた。緑間は村に何の干渉もしていないのにだ。人々は祭壇を作り、そこに緑間に
捧げるための竜の贄を置くようになった。竜の贄は花嫁とも言われている村に居ても居なくても良い人間だ。
緑間は贄である人間を見つけては新天地に送るようにはしていた。高尾もそのうちの一人だが、今までの贄と違い高尾は
廃都に興味を持ち、見せて欲しいと言ってきた。見るぐらいならばいいだろうと緑間が見せたら高尾は居座った。
「出て行く準備でも出来たのか」
「してないよ。オレは真ちゃんの側に居るんだもん。おやつ作ったんだ。リンゴパイ」
「……そんなものを作っていたとは」
「食べよう」
都の機能は最低限ではあるが維持されている。高尾は緑間の腕を引いていた。
引きずられるように神殿から離れる。高尾はほったらかしにしているような状態ではあるが、緑間を構っていた。
緑間は高尾のことが嫌いではない。
「リンゴは生かじりぐらいしかしてないな」
「焼いたリンゴだって美味しいんだから、好き嫌いは駄目だよ。古代竜なのに」
「古代竜でも好き嫌いはある……が、リンゴは好きだ。焼かないだけで」
リンゴは焼こうが生だろうが好きだ。緑間は生で食べているだけである。高尾と歩いて居る緑間だったが、吹き抜けた風に
足を止める。懐かしい匂いを感じたからだ。
「真ちゃん?」
「……気のせいか」
都を離れた同胞の匂いがした気がしたが、緑間は振り払う。
廃都に入れるのは今では自分と他の同胞だけだ。来たら来たでそのまま通すだけだ。仮に同胞が廃都に災厄を持って来るのならば
追い払えばいいだけの話ではあった。
山道を青年と少年が登っている。
一人は赤い髪の体つきががっちりとした青年で背中には大剣を背負っている。険しい山道も楽に登っていた。
もう一人は水色の髪の姿を見失いそうになるぐらいに影の薄い少年で、背中には竪琴を背負っていた。
「黒子。この山に古代竜が居るのか」
「正確に言えば山にある廃都です。彼はあの都から今も離れていないでしょうから」
体格のいい男は火神大我、竪琴を背負っている少年は黒子テツヤと言う。二人は一緒に旅をしていた。
火神は古代竜に用があり黒子に案内をされて古代竜がいる場所へと向かっている。黒子が何故古代竜について知っているのかと
いうと黒子も古代竜だからだ。古代竜は今、五体居ると言われているが黒子は語られていない六体目の古代竜である。
山道を登っていると、中腹には白い石で出来た祭壇があった。祭壇は二メートル程で人一人が横になれる。
側面には竜の彫り物がしてあった。
「祭壇だな……野ざらしになってる割に綺麗だが掃除とかしてるのか?」
「してる人も居るかもしれませんが、祭壇に使われているのは都の石ですね。これは雨風にさらされても朽ちないし、
汚れない石なんです」
「……そんな石があるのかよ」
「目の前にあるじゃないですか」
火神は試しに果物ナイフを出して祭壇に振り下ろした。竜を畏れている地元の村の者が見れば恐れおののくだろう。
黒子は咎めることはしなかった。
振り下ろしたナイフは真っ二つに折れて、刃が祭壇に横に落ちた。火神は柄だけを握っている。
「硬い……」
「丈夫でしょう?……ここから近道します」
黒子は白いハンカチを取り出すと折れたナイフの刃をくるんだ。火神が持つナイフの柄をハンカチに載せるように促す。
ハンカチに火神はナイフを乗せた。黒子は懐にしまってから背負っている竪琴を胸の所に持ってきて、
四番目の弦をつま弾く。音が辺りに響いた。次に三番目の弦を弾くと祭壇がある空間が消え、別の道が目の前に現れた。
「道が出来た!?」
「行きましょう」
火神を促し、黒子は中へと入り五番目の弦を弾いた。最初に人払いの音を鳴らし、次に道を開くための音を出した。
最後の音は同胞である古代竜に自分が来たと言う合図の音である。彼のことだから鳴らさなくても気付いているかも知れないが、
鳴らしておいた。背後の空間の穴が閉じる。
人一人が通れるぐらいの細い道に出た。左右には森が広がっていて、空は灰色だ。
「どんな古代竜なんだ。都にいるのは」
「気難しいですが、都ならば派手に闘っても平気です。廃墟なので」
「黄瀬とは竜の姿で闘ってねえからな……強いならやりがいがあるぜ。その竜はドラグーンは持ってないのか」
「持ってないでしょうね。彼は人間嫌いなので」
ドラグーンとは古代竜と契約している人間のことだ。古代竜の加護を得られる。
火神もドラグーンではあるがそのことを知らない。黒子がこっそり契約をしてドラグーンとしているのだが、契約しているだけで
力を送り込んではいない。黒子と火神が始めて出会った後で起きた事件で黒子は選択を聞いたが火神は自分の力で強くなると
言ってきたからだ。黒子も火神の選択を尊重している。
黄瀬こと黄瀬涼太は古代竜の一人であり旅の途中で黒子と火神と出会った。人間の姿で竜の力を使わずに黄瀬は火神と闘ったが
圧倒していた。黄瀬の勝利で終わろうとした時に火神が逆転して黄瀬が竜の力を使おうとしていたが黒子に止められた。
黄瀬と火神は再戦の約束をして別れている。
ドラグーンが居ないことについては黒子ははっきりと答えていた。
「……黄瀬は人間好きとか言っていた割に……」
「古代竜も色々です……おかしいですね。迎えぐらいは来てくれるはずなんですが……」
黒子が訝しみ、火神の前を歩いた。
気難しく、性格も合っていないところがあったが数百年、あるいは数千年ぶりの故郷なのだ。
離れている間にそこまで薄情になってしまったのかと想っていると、黒子の足が何かを踏み抜いて身体が落下した。
「黒子!」
火神が穴を覗き込む。二メートル以上は掘られている穴で火神ならば落ちてもあがれそうだったが、落ちたのは黒子だ。
手を伸ばしてみているが黒子は届かない。
「引っ掛かった」
「誰だ……?」
「侵入者だから落とし穴に落ちて貰ったんだよ」
滅びた古の都には古代竜が住んでいる。
そんな伝説が世界にはあった。世界の何処かにある滅びた都には強い力を持った古代竜が住んでいるという。
古代竜を求めて人々は古の都を探したがついには見つからなかった。
それもそのはずだ。
都を守る古代竜は悪しき考えを持つ者を都に近づけないようにしていたのだ。都に近づこうとする者は恐ろしい目に
会い続け、都を見ることすら叶わなかった。
「……惰性、だな」
廃都にある神殿は緑間真太郎が気に入っている場所だった。
街の中心にある巨大な神殿には朽ちてはいるが七大神の像が飾られているし、今は名を忘れられてしまっている神々の像もある。
緑間真太郎は人間の姿を取って居るが正体は古代竜だ。
都が滅び、人々が離れ他の竜が離れても緑間は都に居続けている。
「真ちゃーん」
神殿にいる緑間の元に走ってきたのは黒髪の青年、高尾和成だ。
都から離れた人里には今も廃都の伝説が伝わっていて、緑間が敬われている。しかし、災害が起きたりすると
それが全て緑間の……古代竜の怒りとされてきた。緑間は村に何の干渉もしていないのにだ。人々は祭壇を作り、そこに緑間に
捧げるための竜の贄を置くようになった。竜の贄は花嫁とも言われている村に居ても居なくても良い人間だ。
緑間は贄である人間を見つけては新天地に送るようにはしていた。高尾もそのうちの一人だが、今までの贄と違い高尾は
廃都に興味を持ち、見せて欲しいと言ってきた。見るぐらいならばいいだろうと緑間が見せたら高尾は居座った。
「出て行く準備でも出来たのか」
「してないよ。オレは真ちゃんの側に居るんだもん。おやつ作ったんだ。リンゴパイ」
「……そんなものを作っていたとは」
「食べよう」
都の機能は最低限ではあるが維持されている。高尾は緑間の腕を引いていた。
引きずられるように神殿から離れる。高尾はほったらかしにしているような状態ではあるが、緑間を構っていた。
緑間は高尾のことが嫌いではない。
「リンゴは生かじりぐらいしかしてないな」
「焼いたリンゴだって美味しいんだから、好き嫌いは駄目だよ。古代竜なのに」
「古代竜でも好き嫌いはある……が、リンゴは好きだ。焼かないだけで」
リンゴは焼こうが生だろうが好きだ。緑間は生で食べているだけである。高尾と歩いて居る緑間だったが、吹き抜けた風に
足を止める。懐かしい匂いを感じたからだ。
「真ちゃん?」
「……気のせいか」
都を離れた同胞の匂いがした気がしたが、緑間は振り払う。
廃都に入れるのは今では自分と他の同胞だけだ。来たら来たでそのまま通すだけだ。仮に同胞が廃都に災厄を持って来るのならば
追い払えばいいだけの話ではあった。
山道を青年と少年が登っている。
一人は赤い髪の体つきががっちりとした青年で背中には大剣を背負っている。険しい山道も楽に登っていた。
もう一人は水色の髪の姿を見失いそうになるぐらいに影の薄い少年で、背中には竪琴を背負っていた。
「黒子。この山に古代竜が居るのか」
「正確に言えば山にある廃都です。彼はあの都から今も離れていないでしょうから」
体格のいい男は火神大我、竪琴を背負っている少年は黒子テツヤと言う。二人は一緒に旅をしていた。
火神は古代竜に用があり黒子に案内をされて古代竜がいる場所へと向かっている。黒子が何故古代竜について知っているのかと
いうと黒子も古代竜だからだ。古代竜は今、五体居ると言われているが黒子は語られていない六体目の古代竜である。
山道を登っていると、中腹には白い石で出来た祭壇があった。祭壇は二メートル程で人一人が横になれる。
側面には竜の彫り物がしてあった。
「祭壇だな……野ざらしになってる割に綺麗だが掃除とかしてるのか?」
「してる人も居るかもしれませんが、祭壇に使われているのは都の石ですね。これは雨風にさらされても朽ちないし、
汚れない石なんです」
「……そんな石があるのかよ」
「目の前にあるじゃないですか」
火神は試しに果物ナイフを出して祭壇に振り下ろした。竜を畏れている地元の村の者が見れば恐れおののくだろう。
黒子は咎めることはしなかった。
振り下ろしたナイフは真っ二つに折れて、刃が祭壇に横に落ちた。火神は柄だけを握っている。
「硬い……」
「丈夫でしょう?……ここから近道します」
黒子は白いハンカチを取り出すと折れたナイフの刃をくるんだ。火神が持つナイフの柄をハンカチに載せるように促す。
ハンカチに火神はナイフを乗せた。黒子は懐にしまってから背負っている竪琴を胸の所に持ってきて、
四番目の弦をつま弾く。音が辺りに響いた。次に三番目の弦を弾くと祭壇がある空間が消え、別の道が目の前に現れた。
「道が出来た!?」
「行きましょう」
火神を促し、黒子は中へと入り五番目の弦を弾いた。最初に人払いの音を鳴らし、次に道を開くための音を出した。
最後の音は同胞である古代竜に自分が来たと言う合図の音である。彼のことだから鳴らさなくても気付いているかも知れないが、
鳴らしておいた。背後の空間の穴が閉じる。
人一人が通れるぐらいの細い道に出た。左右には森が広がっていて、空は灰色だ。
「どんな古代竜なんだ。都にいるのは」
「気難しいですが、都ならば派手に闘っても平気です。廃墟なので」
「黄瀬とは竜の姿で闘ってねえからな……強いならやりがいがあるぜ。その竜はドラグーンは持ってないのか」
「持ってないでしょうね。彼は人間嫌いなので」
ドラグーンとは古代竜と契約している人間のことだ。古代竜の加護を得られる。
火神もドラグーンではあるがそのことを知らない。黒子がこっそり契約をしてドラグーンとしているのだが、契約しているだけで
力を送り込んではいない。黒子と火神が始めて出会った後で起きた事件で黒子は選択を聞いたが火神は自分の力で強くなると
言ってきたからだ。黒子も火神の選択を尊重している。
黄瀬こと黄瀬涼太は古代竜の一人であり旅の途中で黒子と火神と出会った。人間の姿で竜の力を使わずに黄瀬は火神と闘ったが
圧倒していた。黄瀬の勝利で終わろうとした時に火神が逆転して黄瀬が竜の力を使おうとしていたが黒子に止められた。
黄瀬と火神は再戦の約束をして別れている。
ドラグーンが居ないことについては黒子ははっきりと答えていた。
「……黄瀬は人間好きとか言っていた割に……」
「古代竜も色々です……おかしいですね。迎えぐらいは来てくれるはずなんですが……」
黒子が訝しみ、火神の前を歩いた。
気難しく、性格も合っていないところがあったが数百年、あるいは数千年ぶりの故郷なのだ。
離れている間にそこまで薄情になってしまったのかと想っていると、黒子の足が何かを踏み抜いて身体が落下した。
「黒子!」
火神が穴を覗き込む。二メートル以上は掘られている穴で火神ならば落ちてもあがれそうだったが、落ちたのは黒子だ。
手を伸ばしてみているが黒子は届かない。
「引っ掛かった」
「誰だ……?」
「侵入者だから落とし穴に落ちて貰ったんだよ」