【動き出す時間】
……それをしようとしてもその前に力を取り上げられてしまうだろうが。
始まりの人間は今の人間以上に力もあった。
「邪神は強かったんだな」
「……最初は弱かったのだよ……最初はな」
最初の人間が作り上げた邪神は混沌の残りから出来た神々であり、緑間達が戦争に駆り出されたが勝てた。
そこで最初の人間達は神々を討ち滅ぼせればいいと単純な戦闘能力を持たせた。殺戮と破壊に特化した七柱の邪神は
緑間達を苦しめた。”母親”が庇ってくれなければ緑間達は今ここにはいない。
「だからお前は人間が嫌いなのか」
「嫌いだ」
切り捨てる緑間だが他にも理由はある。大戦争で自分も闘ったが緑間は他の人間に力を与えることもあった。
大戦争はあらゆる命を奪い、修復不可能な傷を与えた。
「……高尾もか?ドラグーンの契約……してる割に」
「アイツは……」
(……照れてるのか……?)
「……城の武器庫でもお前は見ていると良いのだよ!」
返答に詰まったのか緑間は言うと今度こそ鍛冶場へと行く。火神は緑間を見送りながら呟いた。
「照れ屋なのか……?」
黒子は神殿に戻り、神殿の中央に立つ。天井を見上げた。
「先ほど高尾くんから聞きました。妙な声の主というのは君でしょう。”神竜王”」
古都は特別な都だ。
昔の神聖王国という面も持っているが、地下には神々が住んでいたとされている都が……遺跡が残っている。
しばらくして、黒子の心に声が届いた。
『──────お前が見ててくれとか言ったからなァ』
「おはようございます。起きていましたか」
神殿で黒子は声を響かせる。同胞である”神竜王”と会話をするのは数年ぶりだ。
『青峰の奴にプリーチャーを送った。黄瀬の野郎も月神様に頼んで制限かけといたし』
「……そちらは、どうですか?」
『変わりはねえ』
自分のことのように楽しそうに”神竜王”は語る。
プリーチャーは”神竜王”の託宣を受けた人間だ。彼は今、神界で神々の手伝いをしている。神界からは出られない。
眠り続けているような状態であり、僅かながらの干渉が出来るだけだ。
黒子の問いは意味をなさない。
神界は世界全体を見ても最も高い位置にある。古代竜である黒子であってもいけない場所だ。
持てるだけの力を全て注ぎ込み、敵を封印している。
「話は、それだけです」
『また眠りに入る……おやすみ……』
「おやすみなさい」
強引に黒子は会話を打ち切る。神殿の中央に座り込み、俯きながらそっと竪琴に触れると、竪琴がメロディーを奏でだした。
【Fin】