二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

くだらない話

INDEX|2ページ/2ページ|

前のページ
 

「君は弟を愛している。けれど弟はそうじゃない。だから君は張間美香を利用した。ヒト一人の顔を丸っきり変えちゃうなんて、其の人の人生を変えちゃうようなもんだ。張間美香だけじゃないだろう? 『弟の為』って云う名目の自己中心的な君の幸福論の為に、君は此れまで何人の人生を弄くったんだろうね。波江、君の今は犠牲の上にあるって云うのに、何の罪悪感も感じずに未だに斯うやって堂々と『弟を愛してる』だなんて、其れこそくだらないね」
息つく暇も無く器用に口を動かし終えると、男は女をちらりと見遣る。女はぽかんとしていたが、男が作った言葉の氾濫を抑え込み終わったのか、眼を鋭くした。
「あなた口癖のように『人間を愛してる』なんて云うけど、其れって本当に愛なのかしら? 愛って見返りを求めないものよね?」
そう云う女に、男は「そうだね、愛ってのは見返りを求めないもんだって一般的には云われてる」と返事をすると、にやりと嗤う。
「あれぇ? すると波江、君の弟への気持ちだって愛ではないんじゃない? 君は弟の気を引きたくて仕様がないもんねぇ」
……ねぇ、波江さん? 最後にそう付けたす男と眼を合わせると、女も負けじと反論する。
「そういうあなたこそ、人間を愛してるとか云いながら、よく『皆も自分のことを愛すべきだ』とか何とか云ってるじゃない。其れこそ愛ではないんじゃないかしら?」
……ねぇ、折原臨也さん? 先程の男の真似をして女が云うと、もう後はめちゃくちゃな云い合いになった。お互いの普段の言動から、あること無いことを云い合う。と云うより、罵り合った。

暫くそんなことを続けていると、殺気の充満した室内に硬質な電子音が響く。二人は其の音にぴたりと口を閉じる。ぐわんぐわん轟いていた自分たちの声が無くなり、室内はまるで静かな水底になったようで、其処に電子音だけが無機質に響き渡っている。二人は暫くぼんやりと其れを聞いていた。男は其の音が自分の携帯電話のものだと気が付くと、慌てて電話に出る。
「……あぁ、はい。んー、十九時以降かな? 池袋はちょっと……、えぇ。……じゃぁ、其処で。はい、後ほど」
男は電話を切ると、ちらりと女を見た。
「……何、依頼?」
「うん、十九時半に目白、っていうか下落合。……予定、無かったよね?」
「えぇ、今日の夜は何もなかったはずだわ」
女は男の予定を確認し、大丈夫何もない、と一人で頷いた。其れからまた二人は暫く無言になる。暫くそうしていたが、男は思い出したように胃の辺りを押さえる。其れから、お腹……、と呟いた。
「……何?」
女は男が突然何を言い出したのかと、怪訝な顔をして男に問う。すると男は、「波江、お腹空いてない?」と顔を上げた。
「君はお腹、空いてない? お昼食べた?」
「……食べるの、忘れてたわ」
「丁度いい、ブクロから帰って来る時にケーキ買ったんだ」
「……じゃぁ、紅茶でも淹れるわ。今日、来る時に買ったの」
二人はお互いに云い合うと、キッチンで其々別のことをし始めた。

女は紅茶を淹れにかかり、男は鼻歌を唄いながらにケーキを切り分け始める。ティーカップに紅茶を注ぎ、其れをソーサーに載せた頃、さっきまで一体何を云っていたのかしら、と女は思ったが、其の疑問はすぐに解消された。
「波江、さっきの話だけど……」
男はケーキを載せる皿を選びながら、女に話しかける。
「仮に俺のも君のも愛じゃなかったら、やっぱり恋になるのかね? そうしたら、俺たちは禁断の恋に身を捧げた愚か者だ」
男の其の言葉に、女は、……噫、そんな話をしていたんだった、と先程までの罵り合いの発端を思い出す。けれど、もう今は苛つきもしない。
「なら、私たちは随分罪深い存在ね」
そう云うと、女は一足先にキッチンを出て仕事をしている部屋へ戻る。そうして男の机に一組のティーセットを置き、自分の机に着く。其れから「とんだ大失態に、涙が出るわ」と可笑しそうに笑う。すると、キッチンから男が戻って来た。両手にはケーキとフォークを乗せた皿。
「罪人同士、恋に落ちてみるかい?」
女の机にケーキの皿を差し出しながら、男はそう云って女の眼を見つめる。女は一瞬きょとんとした表情をしたが、すぐに表情を戻すと「何其れ、くだらない」と云いながら皿を受け取る。男は其れを満足そうに眺めると、「あぁ、まさにくだらない話だ」と云って自分の机に着く。
「……まぁ、愛とか恋とか如何でもいいか、所詮言葉による無意味なカテゴライズだ」
「そうね、如何でもいいわ」
二人はそう云うと、少し遅めのティータイムを始めた。

日本国東京都新宿区西新宿のとあるマンションの一室。
其処では、食器の音と夕方のニュースが、静かに響いている。








(2010/06/01)

作品名:くだらない話 作家名:Callas_ma