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センセイと私

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 コトが済んで、だいぶ身体から熱が引いて。ノルウェーは顔をしかめる。身体がべたついて気持ち悪いからというのもあるが、それだけではない。
 デンマークがどこかそっけないのだ。
 いつもなら最中も、終わってからも、うっとうしいくらいしつこいというのに。今の彼はどこか上の空といった様子だ。
「あんこ、何考えとる」
「んあ?」
「途中から、手ェ抜いたな」
「そんなことねーっぺよー」
 口では言うものの歯切れが悪い。肯定しているのと同じことだ。嘘をつくな隠し事をするな、はっきり言え。ノルウェーがにらむと、男は観念したようにぎゅうぅっと彼女を抱きつぶした。
「仕事んことで行き詰まってたのが、ついさっき、やっと一つアイデアを思いついてなぁ。やっぱ気分転換になったんだべなぁ。したらこう、辛抱できねぇようになって」
「……そうけ」
 しかし、よりにもよって、抱き合ってる最中にそれはないだろう。ノルウェーを抱きながらも頭の片隅で絶えず、片付かない仕事について考えていたのだろう。
 ここのところずっと、校内でしかデンマークの姿を見かけていない。プライベートではすっかりご無沙汰だった。ノルウェーをさっぱり構いに来なくなった時はいつもそうだ、ノルウェーよりも何よりも仕事が最優先事項になっている。
 それが仕事が片づいた途端に、仕事とノルウェーをはかる不等式は、左右がひっくり返るのだ。
 今日アポなしで訪れてみて、むしろ家に上げてくれたことにすら驚いたくらいだ。会えただけで充分か。今のデンマークに、ムードだデリカシーだを求めたって無駄なこと。ノルウェーはため息をついてデンマークの身体を引きはがす。
「忘れんうちに、その仕事をとっとと片づけてくんべ」
 自分たちの関係を結ぶ上での、条件。
 それは、線引きをわきまえることだ。
 上の空のデンマークを引き留めていたところで、うっとうしいだけ。
 デンマークは「悪ぃな」と情けない顔をして。ノルウェーの唇を吸うと、ベッドを下りて、服を着ながら寝室を出ていった。
「あんこのほんずなしが」
 シーツにくるまって、丸くなったまま彼の背中を見送って、ノルウェーはふてくされた声で悪態をついた。

 シャワーを浴びて、新しい下着をつけて、片付けず出しっぱなしになっていたデンマークのシャツを羽織った。薄着でもさほど寒くはなかった。
 台所へ行って、コーヒーメーカーを勝手に借りてコーヒーを淹れる。ノルウェーは頬杖を突いて、漆黒の液体がサーバーに落ちて溜まっていくのを、飽きもせずじっと眺めていた。
 デンマークの分も淹れてやって、ふたつのマグカップを持って書斎へ向かう。扉を開けると、こちらに背を向けたデンマークがせわしなくキーボードをたたいていた。
「ノル、後すぐに終わっから、もうちっと待ってろな」
 振り返りもせず言いながら、キーをたたき、資料をチェックし、作業はよどみなく続いている。
 黙って机の資料を脇に寄せ、ことん、とマグカップを置くと、ようやくデンマークが手を止めてこちらを向いた。目を、驚いたように丸くして。
「ええにおいがすっと思とったら、コーヒーけ。ノルが?」
「おめの分だ」
「俺の分まで淹れてくれたんけ?!」
「ん」
 ああ、淹れてやったとも。地獄のように熱くて悪魔のように濃いコーヒーをな。空きっ腹の胃に流し込んで、せいぜい地味に苦しむがいい。――それは、ノルウェーのささやかな嫌がらせであった。
 「あんがとなー!」と本当に嬉しそうに笑って、さっそくそれを一口飲んだデンマークは、むせた。
「あぢっ!それに濃いぃ!あー、これで目ェ覚ませってことだっぺな!よっしゃ」
 いや別に、敵に塩を送るようなつもりは欠片もなかったのだが。イラッとするノルウェーには気づかず、デンマークはうまそうにもう一口、コーヒーをすすった。うまいはずがないのに、おかしい。デンマークからカップを取って一口飲んで、ノルは思わず自分の口元を押さえた。これはひどい。
「気遣いはうれしいんだが……ノル、おめぇはまたそんなカッコして」
「悪ぃが」
 デンマークが長身であるとはいえ、ノルウェーだって女子ではかなり上背があるほうだ。男物のシャツを着たところで、小柄な女子ならワンピースのように太もも辺りまで覆い隠せただろうけれど。ノルウェーはそうもいかない。
「悪くはねぇけど……女の子が身体冷やすのは、」
「タテマエはええ」
 ノルウェーがぴしゃりと言うと、デンマークの視線が明後日の方向にスライドしていく。胸元から、シャツの裾から、ちらちら見えているのは分かっている。
「え、いやその、俺は明日も仕事があるわけで、おめぇら学生みてぇに体調不良だ何だで、そう急にはホイホイ休めねぇわけで……」
「ほう」
「と、とにかくとっとと仕事終わらせんぞ!」
 デンマークはそそくさと仕事机に座り直すと、「うおおお!」と、猛然と作業を続けた。煩悩を振り払うみたいに。

 デンマークの仕事机の後ろ、頑丈そうな書棚にもたれて座って、ひざを抱える。自分用に淹れたコーヒーをちびちびと飲みながら、しなやかに動く広い背中を見つめていた。サーバーに溜まっていくコーヒー。考えがまとまっていくにつれて、明瞭になっていくデンマークの動作と、つぶやかれる独り言。着実に《ゴール》に向かって進む事象を見つめるのは、楽しい。
 じっと彼を見つめるノルウェーの藍色の瞳には、いつものごとく感情らしい感情は浮かんでいない。その替わりに、浮いてる《くるん》が、風もないのにふよっと揺れた。
 仕事と、ノルウェー。最重要度の不等式がノルウェーの方を向くまで、あと少し。




End.
作品名:センセイと私 作家名:美緒